おまじないしたら恋の妖精さんが出てきちゃった。わたしのお願い叶えてくれる？

本編

５

　大急ぎで教室に戻って、鞄に付けちょったあみぐるみをひったくって人のおらん所を探す。空いちょる教室を見つけたけぇ、こそっとそん中に入り込んだ。

「妖精さん、出てきてぇや」

　あみぐるみに呼びかけたら、ポンと顔がタカキの顔になった。

「ふみかの記憶が変わっちょらんのやけど、なんで？」

　あんまし時間がないけぇ、単刀直入に聞く。妖精さんは、びっくりしたような顔してうちを見ちょる。

「ふみかって、誰？」

　のんきに首を傾げて言う妖精さんにイラっとする。

　説明せんかったっけ？

「昨日タカキにはもう彼女がおるって言うたやん。それがふみかなんよ」

　つい声が大きゅうなりそうになるのを慌てておさえた。誰かに聞かれたら、困るもん。

　妖精さんは納得したように「ああ」と頷く。

「その子の記憶が変わってないと何かまずいの？」

　て、まずいに決まっちょるやん。

「話がおかしいことになるやろっ。タカキはうちと付き合いよるって思っちょうほに、ふみかがタカキと付き合いよるって言うたら」

　けど、妖精さんはうちの言いたいことがよう分からんみたいできょとんとしちょる。

「言っても、彼氏はキミのことを好きになってるんだから、その子が嘘ついてると思うだけだよ。そんな記憶もないはずだし」

　にっこり笑うて妖精さんが言う。

　ふみかが、嘘を言いよることになる？

　確かにそうかもしれん。タカキはふみかじゃなくて、うちと付き合い始めたと思うちょる。朝の登校を約束したんも、うちとしたと思っちょった。なほに、ふみかに付き合いよるんも登校の約束したんも自分って言われても、それは嘘にしか聞こえんはず。

　やけど。

「ふみかはそんな嘘つく子じゃないし、かわいそうやん。そりゃ、うちのわがままな言い分っちゅうんは分かっちょお。けど、ふみかとは仲良しなん。タカキをとった上に嘘つき呼ばわりなんてしとうない……」

　タカキのこと好きやけぇ、ふみかにだって渡しとおない。そいでもふみかも、こまい時からの友達じゃもん、好きなんやもん。

「じゃあ、キミはどうしたいんだい？」

　妖精さんが腕組んで言う。

「じゃけぇ、ふみかにも最初っからふみかやなくてうちがタカキとつきあう事になっとったって思わせてぇね」

　そしたらふみかだって、悲しいかもしれんけど訳の分からんまんま嘘つきよばわりされる事はなくなるやん。

　やけど妖精さんは困ったように顔をしかめて首を振った。

「オレは、恋の相手なら多少魔法をかけることは出来るけど、それ以外の人間には関わっちゃいけない事になってる。残念だけど、ふみかって子の記憶を操ることは出来ないよ」

　そんな。

「じゃあ、どねぇしたらええん？」

　このままやったら、ふみかが嘘つきになってしもうてかわいそうやし、けどじゃけぇって元に戻すんは絶対嫌。

「どねぇしょう？　ふみかが嘘つきにならんで、タカキとうちが両想いになる方法。なんかないほ？」

　必死に考える。妖精さんは考えてくれちょるんかくれちょらんのんか、ただじっとこっちを見よお。

　早うせんと昼休みが終わる。昨日の出来事はもう、ふみかの記憶は変えられん。じゃとしたら。

「妖精さん、タカキの方は記憶、変えられるんよね？　ほしたらタカキの記憶変えて。昨日までの記憶は本当の記憶に戻して。そんで、今朝ふみかん所に迎えに行こうとしとったタカキをうちが待ち伏せしてタカキに告ったっちゅう事にして。そんでタカキは本当はふみかよりうちの事が好きなんじゃったらうちらが付き合いだしてもおかしゅうないよね？」

　そこまで言うた時、チャイムが鳴った。

「キミがそれでいいならそうするけど、本当にそれでいいのかい？」

　妖精さんの言葉に頷く。今はこれしか思いつかんもん。

「分かった、それじゃあそうしよう」

「放課後までに、記憶変わる？」

　急いで確認する。放課後、ふみかとタカキと話しする予定じゃけぇそれまでに変わっちょらんと困る。

「大丈夫、間に合うよ」

　妖精さんはにこりと笑うた。