気が付いたら魔物に城を落とされ追われるお姫様になった夢を見ていました。……夢だよね?

みにゃるき しうにゃ

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 その後わたし達は四人で行動するようになった。

 わたしは相変わらず他の人の姿を見ると恐怖で身がすくんだ。平気なのはミルファとガシャヤと騎士様だけだった。

 その事にいち早く気づいたのか、騎士様は無理に里に近づこうとはせず、安全と思われる場所を探してはそこで過ごした。必要な物が出来た時にはミルファとガシャヤが人里へ下りた。

 出逢ってから数日がたったけれど、わたしは名乗っていなかった。というか、日本人としてのわたしの記憶が鮮明になるにつれ、この世界の自分の名前さえ思い出せなくなっていた。

 騎士様は何か事情があると思ってくれたのか、無理に名前を訊いてはこなかった。代わりに、ミルファが「お嬢様」と呼ぶのに合わせてわたしの事を「お嬢さん」と呼ぶようになった。

 そしてわたしも、騎士様の名を知らなかった。彼も何か訳ありなんだろう、名乗らず、人前にも出たがらなかった。

 だからわたしも無理に聞き出そうとはせず、見た目から「騎士様」と呼ぶようになってた。

「ミルファ。魔物はまだ、街を支配しているの?」

 人里から離れたこの場所がウソのように静かで平和なせいか、城が魔物に襲われた事さえ夢だったように思えてくる。

「はい。勇者が魔物を征伐した街もあるそうですが、未だ魔王は倒されていないようでございます」

 騎士様とガシャヤが席を外した隙に、こっそりと話す。このくらいの会話ならば普通のお嬢様がしていてもおかしくはない気がするけれど、それでもいつボロが出るか分からなくて、出来るだけこういう話題は彼らの前では避けていた。

「わたし達はいつまでこんな生活を続けなければならないのかしら……?」

 勇者が魔王を倒せば、この夢は終わるんだろうか。

 もしそれでも夢から覚めなかった時、魔王や魔物がいなくなっても村人や他の人達に会うのが怖かったらどうしよう。

 わたしの不安を感じとったミルファが、わたしの手を取り勇気づけてくれる。

「……彼らに少し、事情を話してみられませんか? 全てを話すのではなく、彼ら以外の者達がどうしても信用できない事を」

 ミルファの提案に、わたしは少し迷った。わたしが他の人達の姿を見ただけで怯え震えている事は、話さずとももう彼らは知っているはず。知っているのにあえて知らないふりをしていてくれている。

 そんな彼らにあえてこの話題を持ち出すという事は、その理由を語らなければならないのではないか。

 だけどわたしはまだ、なぜ他の人達が怖いのか、どうして彼らだけは平気なのか、その理由が分からない。

「それも正直におっしゃればよろしいではないですか」

 わたしの分身であるミルファがそう言うのだから、少なからずわたしは彼らに本当の事を打ち明けたいと思っているのだ。

 それでも迷うのはたぶん、彼らもまた秘密を抱えているらしいから、負担になりはしないかと心配なのだろう。

 ……違う。本当は嫌われるのが怖いだけだ。見捨てられてしまったらと思うと、恐怖に足がすくむ。

 どうするか決めあぐねている内に、席を外していた二人が帰って来てしまった。

「ガシャヤが街でパンを買って来てくれたんだ。なんでもこの辺りでは有名なパン屋らしいよ。有名じゃなくてもパン屋のパンなんて久しぶりに食べるから嬉しいんだが」

 騎士様がホクホクした笑顔を浮かべながら、抱えていた紙袋から美味しそうな焼き立てパンを取り出す。

 その彼らの朗らかな雰囲気と香ばしいパンの香りに、ホロリとわたしの心がほどけた。

 彼ならばきっと、彼らならきっと大丈夫。そう思わせてくれる何かを感じながら彼の差し出すパンをわたしは受け取った。



 四人でパンをかじりながら、わたしはどう切り出そうかと少し迷っていた。

「もしかしてパン、あんまり好きじゃなかった?」

 騎士様に問われ、慌てて首を振る。

「いえ。とても美味しいです」

 迷っていたせいで食が進んでいない事を気にしてくれたんだろう。

 優しい人。

 名前も素性も明かさない怪しい女に、こんなふうに気を使ってくれる人。

「聞いて、いただけますか?」

 ホロリと口から無意識にそんな言葉が出ていた。

「ん? どうしたんだい?」

 彼は世間話の様に、軽く受け答える。

 だけどそれが良かった。もし真剣な顔をして話を聞かれたら、緊張してまた言葉を失っていたかもしれない。

「わたし、他人が怖いんです。ミルファと、騎士様とガシャヤ以外の人は遠目にその姿を見るだけで身体が震えてしまうんです」

 騎士様は特に驚く様子もなく、かじりかけのパンをゴクリと飲み込むと「うん」と頷いた。

「いつから?」

 わたし達の少し後ろでミルファとガシャヤもパンを食べている。侍女と従者という立場だからだろうか、わたしと騎士様が共にいる時はいつも少し後ろに離れ、わたし達の会話に口を出す事は滅多とない。

「……魔物に、襲われて……一人で逃げ出して、それから誰かに助けを求めようとした時、気が付いたんです。どうしてこんなに怖いのか、理由は分からないけれど……」

 おかしな事を言ってると騎士様は思うだろうか?

 不安に思うわたしの頭を騎士様はポンと軽く叩いた。

「そうか、やっぱり君は……」

 何か言いかけたところで、突然警戒したように勢いよく立ち上がる。そしてそれは騎士様だけでなく、ガシャヤもだった。

「どうし……」

 どうしたんですか? と尋ねようとして、言葉が続かなかった。

 今までにない恐怖がわたしを襲い、ガタガタと身体が震え始める。

「お嬢さ…ま」

 わたしの分身であるミルファも同じ恐怖を感じているんだろう。真っ青な顔をしてよろけながらも、わたしの元へとやって来た。

 騎士様とガシャヤがわたし達を庇うように立ち、そちらを睨みつけている。

 いつの間に現れたのだろう。そこには白銀の立派な鎧を身に纏い、マントをなびかせた一人の少年が立っていた。


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