独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

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たぶん乙女ゲーな夢

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 だるい。

 身体がだるくて、目を覚ませない。

 だけど脳はそろそろ起きる時間だと告げていて、必死に私の身体を目覚めさせようとしている。

 それとも反対なのかな? 体はもう起きる準備が出来てるのに、脳が半分眠ったままで起きる指令をくれないからだるいのかな?

 でもとにかく起きなくちゃ。

 そんな事をボンヤリ考えてる時だった。

「おい」

 突然、耳元で声がした。ビクリと体が反応し、急激に意識が覚醒する。

「んえっ?」

 そんな可笑しな声を出して、目が覚める。我ながら恥ずかしい声だとは思うけど、出てしまったものは仕方がない。

 そんな事より突然起こされてバクバクしている心臓を押さえながら、開いた目に飛び込んできた光景にわたしはパニクった。

 知らないヒトが、目の前にいる。ていうか、知らない男の人が四人も、わたしの寝姿を覗き込んでる? どどど、どーいう事? なんで??

 状況がつかめず頭がくらくらする。心臓が更に激しく鳴って、苦しい。

「目ぇ覚めたみたいだな」

 最初に声をかけてきたとおぼしき男性が呟く。楽しそうに笑うその横で、今度は穏やかに微笑んでる人が声をかけてきた。

「突然すみません、姫君。けれど私達にはどうしても貴女の力が必要だったのです」

 はぁ? 姫君ー?!

 ただでさえ心臓バクバク、頭クラクラなのにそんな事言われて一気に熱が上がった。

 落ち着けわたし。これは夢に違いない。わたしはまだ眠ってて夢を見てるんだ。

 そう思って目を閉じ、深呼吸する。吸って、吐いて、吸って、吐いて……。

 いや、違った。深呼吸は吸うより吐く方が大切だからまずは吐く方からしなきゃいけないんだった。

 吐いて、吸って、吐いて、吸って……。うん、だいぶ落ち着いてきた。

「大丈夫ですか?」

 優しい声が耳をくすぐる。

 ていうか、まだ声が聞こえる?

 目を覚ませわたし! とばかりにカッと目を見開いて辺りを見回す。しかしそこにはやはりというかなんでというか、さっきと同じ男の人たちがわたしを見下ろしていた。

「ど、どどどどどど……」

「ど?」

「どちら様でしょうか?」

 間の抜けた問いだとは思うけど、それしか思い浮かばなかった。

 それを聞いた彼らは、一人は吹き出し一人は大笑い。そしてもう一人は眉をしかめそれから最後の一人は優しく微笑んだ。

「失礼しました。そうですね、まずは自己紹介いたしましょう。私の名は緋川ひかわ透見とうみ。今回姫君を召還しました魔術師です」

 サラリと長めの髪を揺らし、透見と名乗った青年はやわらかな笑みを浮かべた。

 その横からずいと出て来たのは最初に声をかけてきた彼。

「オレは依瀬いせ剛毅ごうき。よろしく」

 自信たっぷりといった瞳でわたしに笑顔を向ける。大笑いしてた彼だ。今もまだ笑い足りないのか今にも笑い出しそうな顔をして、というか声に出してないだけで笑ってる顔をしてわたしの事を見ている。

「あ、僕は管矢すがや園比そのひって言うんだ。よろしくね、姫様」

 ひょいっと顔を出して自己紹介したのは目のくりっとした男の子。さっきちょっと吹き出してた子だ。この子も笑ってはいるけど剛毅って人と違って、可笑しいからっていうより単ににこにこと普段から愛想が良い感じ。

 そして最後に眉をしかめてた彼が眼鏡に手をやりつつ静かに言った。

「俺の名は静谷しずたに戒夜かいやだ。ところで姫、いいかげんそこから起きないか?」

 言われてようやくわたしは布団の中で寝っ転がったまま彼らを見ていた事に気がついた。自己紹介してる人達に対してこれはすごく失礼だよね。

 大慌てで体を起こす。けど、掛け布団はぐいっと持ったままだ。いや、ちゃんとパジャマは着てるし、彼らからしてみれば対象外のおばさんだろうけど、それでもやっぱり恥ずかしい。

 けど、あれ? ちょっと待って。

 辺りを見回すとそこは知らない部屋。わたしの部屋じゃない。

 目覚めた場所がわたしの部屋じゃなくって、しかも知らない男の人に囲まれてるなんて、これってもしや夢?

 そうだよ夢だよ。なんだ、やっぱり夢なんだ。

 ホッとして、そこでようやく気がついた。さっき自己紹介してくれた四人の名前を、わたしは知ってる。ていうか、なんですぐに気がつかないかな、わたし。この四人の名前って今やってるゲームの攻略キャラの名前じゃん。

 しかも性格も容姿もゲームそっくり。ああ、良い夢見てるわ、わたし。

 急にニヤケだしたわたしを不信に思ったのか、戒夜がキビシイ目でわたしを睨む。剛毅はどうしたんだろうって不思議な顔をして、園比はきょとんとしてる。そして透見は先程と変わらず笑顔のまま。うんうん、ゲームそのままだあ。

 嬉しさのあまりニヤケる事を止められないまんま、わたしも自己紹介しようと口を開く。

「えーと、わたしの名ま……」

「ストーップ!」

 剛毅が大声で割り込んできた。びっくりして黙ると、戒夜がクイと眼鏡を上げつつ口を開く。

「名乗ってはいけない」

「姫様は名前教えちゃダメなんだよ」

 にこにこしながら園比も言う。

 へ? このゲームにそんな設定あったっけ?

 不思議に思い、首を傾げる。

 あ、でもこれって夢なんだから本物のゲームと違ってて当たり前か?

 そんな事を考えてたら、透見が優しい声で説明を始めてくれた。

「〈救いの姫君〉の名は特別な力を秘めていると言われています。しかしそれは万人に与えてはならないもの。〈唯一の人〉のみがその名を呼ぶ事を許され、その力を発揮出来るのです。ですから姫君、どうか努々御名を口になされませんよう、お気をつけ下さい」

 透見の言葉に三人は頷き、分かったかとわたしに確認するようにこちらを見た。

 わたしはというと、透見の言葉を反芻しながら首を傾げ質問する。

「わたしの名前が力を秘めてるって、どういう意味? その〈唯一の人〉てどこにいるの?」

 とか言いつつ、本当は薄々見当がついていた。だってこれって乙女ゲーの夢でしょ。となればやっぱ〈唯一の人〉ってのはわたしが選んだ攻略相手で、名前を教えるイコール告白、想いが通じ合った事で真のパワーの解放炸裂ってとこでしょ。

 でもまあ、わたしの考えがハズレてる事もありえるし、訊いてみたんだけど。

「すみません。それについてはまだ私達にも分かっていないのです」

 透見がすまなさそうに頭を下げる。

「透見が謝る事ないじゃん。このメンバーの中で一番伝承について詳しいのは透見なんだから。その透見が分かんないなら、どうしようもないだろ」

 透見をフォローするように剛毅が言う。

「俺としては、姫がその辺りの詳しい事を説明してくれると思っていたのですがね」

 冷たい戒夜の目が、ひたりとわたしを見据えた。

 う。そんなこと言われたって。

 これがわたしの見てる夢なら、たぶん十中八九さっきの考えで合ってるんだと思う。けどもしかして間違ってるかもしれないのに、言うのはちょっと躊躇っちゃうなぁ……。

 うつむき考えるわたしを見て園比もシュンとした様子で謝ってきた。

「ごめんね、姫様。でも僕たちも正直情報不足なんだ。けどね、姫様が僕たちの救世主で〈唯一の人〉だけに本当の名を名乗れるっていう伝承が、大昔からこの島にはあるんだよ」

「そして伝承通り召還に応え現れたのが姫君、貴女なのです」

 透見の言葉と共に四人の瞳がわたしに向けられる。うう、もしかして期待されちゃってる……のかな。

 期待されるのって、苦手だったりする。なんてゆーかプレッシャーに弱いのよね、わたし。だから現実では出来るだけ期待されないよう目立たないよう先頭に立たないよう気をつけてる。だからこんな風に注目されるとどうしたらいいのか分からなくなって、つい挙動不審になってしまう。

 けどまぁ、これって夢だしヒロインだもん。なんとかなる…よね?

 そんなこと考えててふと気がついた。そういえばわたし、一番肝心なことを聞き忘れてる。

 大きく息を吸って四人を見る。そしてわたしはみんなに尋ねた。

「ねぇ、わたしが救世主って言ってたよね。それで、わたしは何からあなた達を救うの?」


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