独身彼氏なし作る気もなしのアラフォーおばさんの見る痛い乙女ゲーの夢のお話

みにゃるき しうにゃ

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夢に矛盾はつきものだよね

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 世の中は不思議で満ちている。そして矛盾で満ちている。

 さすがわたしの見てる夢というか何というか……。

「おそらく空飛ぶ赤鬼……私達は空鬼と呼んでいるのですが、それが海の向こうからやって来てこの島に襲いかかろうとしているのです」

 透見の不可解な言い回しにわたしは疑問符を浮かべた。言ってる意味が分からない。おそらくって、何?

 だけど他の皆はちっとも不思議に思っていないようで、真剣な顔で頷き、わたしを見ている。

「しかし本当の目的はこの島ではなく姫、貴女だろう。貴女さえいなければ〈唯一の人〉は力を得ることが出来なくなるのだから」

 戒夜が眼鏡をキラリと光らせ、言う。そしてその言葉が終わらない内ににこにこ笑いながら園比が言った。

「でも心配しないでね。姫様の事は僕達がちゃんと守るから」

「そうそう、あんたはただ〈唯一の人〉を見つけて名前を教えればいい。それだけだから」

 軽く剛毅が言う。

 えーと、なんだか話がおかしい気がするんだけど、気のせいかな?

「あの、ちょっと話を整理してもいい?」

 恐る恐る言うと透見はにこりと頷いた。しかし戒夜はジロリとわたしを睨んで、それからため息をつく。

「こんな単純な内容をどう整理するんだ? …我らを救う〈姫〉だというから、それ相応の女性を期待していたのだが……。まさかこのくらいの事もすぐに理解出来ないおばさんだとは……」

 グサリ。

 後半部分は独り言で声を抑えてはいたんだろうけど、しっかり聞こえてしまった。聞こえていましたとも。

 うー。夢の中だからそれなりに若くなってるかなーって勝手に思ってたんだけど、年齢そのままなのかー。がっくし。

 戒夜の言葉だけでもしっかり傷ついたのに、更に剛毅が追い打ちをかける。

「それは言いっこ無しですよ、戒夜さん。オレだってこんなおばさんが来るなんて思ってなかったからがっかりしてるってのに」

 がっかりさせて悪かったわね。

 カラリと笑いながら悪びれもなく言う剛毅を睨んでやりたくなっちゃう。

 だけど園比が助け船を出してくれた。

「女性を年齢だけで判断するなんて良くないよ。何歳でもキレイな人はキレイなんだよ?」

 きっぱりと言った園比の言葉に少し希望がわいた。もしかして、この夢の中ではわたしキレイって設定になってる?

 だけどそれを聞いてた剛毅が驚いたように言った。

「園比には姫さんがキレイに見えるのか?」

「それは……。姫様はキレイってタイプじゃないけど……」

 園比は、詰まったように言葉を濁してわたしから目を逸らした。

 あああ、がっくし。せっかくの乙女ゲーの夢なのに、なんで若くてかわいらしいお姫様設定じゃないのかな。今からでも設定、塗り変えられないかしら。

 ちょっぴり傷ついてしゅんとなってしまったわたしを見て、透見がみんなにピシリと言う。

「皆さん、姫君を悲しませてどうするんですか。私たちの仕事は姫君を守ることであって、悲しませることではないんですよ。例え姫君がおばさんで不美人で重そうであっても、事実を伝えて姫君を傷つけるような言動は控えて下さい」

 思わずずっこけそうになった。

「……透見さん、アナタの言葉もけっこう傷つきますよ?」

 確かにブタでブスなおばさんに間違いないですけどね。

 ポツリと呟くと、透見は「ええ?!」と心底驚いてるようだった。……もしかして、透見って天然ボケ? 少なくとも太ってるって関連のワードは誰も口にしてなかったのに、その事に気づかずさらっと本音が出たの気づいてないのかな。

 むくれたわたしに慌てて咳払いして、透見はいつもの優しい笑顔を浮かべた。

「そういえば先程、何か言いかけていましたよね、姫君」

 あ、誤魔化した。

 他のみんなもつっこみかけたけど、有無を言わさず透見は話を続ける。

「ああ、そうだ。話の整理をしたいのでしたね。何か分からない部分がありましたか? でしたら遠慮なく質問して下さい」

 にこりと笑って透見は話を本題へと戻す。なんかもやもやするけどそうだよね、このままじゃ話が脱線して終わらなくなっちゃう。いいかげん話を進めよう。

「うん、でね。その空飛ぶ赤鬼ってのが海の向こうからこの島を狙ってやってくる。そんでその空鬼ってのはわたしの事も狙ってる。これであってる?」

 なんで透見が最初に『おそらく』って言葉を付けたのかは分かんないけど、だいたいそういう話だよね?
「うん、オッケーオッケー。あってるよ」

 軽いノリで園比が頷く。こんなノリでこられると、本当に『異世界から来た救世主』が必要なのか不安になってくるんだけども、まあ、わたしの見てる夢だしね。こんなもんなのかも。

「戒夜の言い方じゃこの島よりもわたしがメインみたいな言い方してたけど、そうなの?」

 腕を組んで立つ戒夜を見ると、彼はフンっとバカにしたように笑いながらわたしを見た。

「〈唯一の人〉の力は絶対だ。だからその力を引き出すための鍵となる姫を空鬼たちが狙うのは当然だろう」

 そんな当たり前の事も分からないのかと言わんばかりの戒夜だけど。でもそれってやっぱおかしくない?

「わたしを狙ってくるんなら、なんでわたしを召還したの? わたしがいなかったら空鬼はこの島を狙わないんだよね?」

 矛盾してるよ。……まあ、わたしの見てる夢だから矛盾だらけで当たり前なのかもしれないけど。

 わたしの言葉を受けて剛毅は「おお、確かに」なんて驚いちゃってるし、園比も「確かにそうなのかな?」って首を傾げてる。だけど戒夜はあきれたような顔でわたしを見てため息をついた。そして透見が変わらない笑顔で優しく説明してくれる。

「空鬼達はすべてを知っているわけではないのですよ。姫君、貴女を召還しなければならないという事実を奴らは知らないのです。だから例え貴女を呼び出さなかったとしても奴らはやがてはこの島に降り立ち、貴女を探して暴れ回るでしょう。少しくらいの間なら私たちだけでも対応出来ますが、それが延々と続くとなると……。だから〈唯一の人〉の力が必要となるのです。そしてその力を引き出す事が出来るのは、姫君、貴女だけなのです」

 なるほど? 筋は一応通ってる…のかな。

 ついでだし、疑問に思った事を口にする。

「さっき『おそらく』とか『やがて』とか言ってたけど、もしかして実際にはまだ空鬼達はこの島に来てないの?」

 わたしの言葉に透見はにこりと頷く。そして今度は戒夜が説明してくれた。

「確かにまだ空鬼や小鬼は現れてはいない。だが伝承によるとその日はそう遠くない。だからこそ貴女を召還したのだ〈救いの姫〉」

 そういう事か。そろそろ来る頃だから、先手を打ったって感じ? なんかそれも変な気がするけど、まあこれ夢だし。あんまり深く考えまい。

 せっかくの乙女ゲーの夢なんだもん、楽しんじゃおう。

 みんながじっとわたしを見ている。過度な期待は困るけど、ヒロインするならちょっとは前向きにならなくちゃ。

「分かりました。うん。とにかくわたしは〈唯一の人〉を見つけて名乗ればいいのね。どのくらい時間がかかるかは分かんないけど、がんばって見つけます。なのでそれまでの間よろしくお願いします」

 ぐっと手に力を込め、言う。そしてこれから始まる恋愛イベントに胸をワクワクさせながら、わたしはペコリと頭を下げた。


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