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戒夜とあれこれ探索 その2

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 戒夜はというと、考えるように手を顎に当て静かに口を開いた。

「成る程。では闇雲に街を歩いたところで成果があるはずもないわけですね」

 ……うんまあ、実際に人を捜す方法としてはかなり効率は悪いんじゃないかなぁ。

 そうは思うものの、口には出さない。じゃあどうやって捜すかって聞かれても答えられないから。

「では少しターゲットを絞りましょう。姫、〈唯一の人〉はどういった方だと思われますか?」

 溜め息をつき、仕方がないと言わんばかりの戒夜の質問に、ついきょとんとしてしまった。

「どういった方…って?」

 つい質問で返してしまう。

「イメージで良いのです。深く考えず頭に思い浮かんだイメージで」

 まわりの皆もわたしが答えるのを待っているのか、誰もちゃちゃを入れてこない。んー、〈唯一の人〉のイメージかぁ。

 深く考えるなと言われたけどすぐに答える事も出来ず、少し考えてからわたしは口を開いた。

「頼りになる人、かな?」

 戒夜はそれをメモしながら再び質問する。

「ではどういった方が頼りになりますか?」

「え? えーと……。色々知ってて?」

 考え考え、口にする。

「わたしの事を守ってくれる人、かな?」

 頼りになる人がわたしを守ってくれるかどうかは分かんないけど、守ってくれる人に頼りたい。まあこれは願望。

「色々と知っているという事は、知識人ですね? 少なくとも子供ではない。姫は幾つまでが子供だと思いますか?」

 えーとこれって、幾ら頭が良くても頼りになるかならないかの線引きの年齢なのかな?

「……中学生くらいまで?」

 戒夜は表情を変えることなくメモを取る。

「では十五歳以下の者はリストから削除しましょう。次に守ってくれる人ですが貴女を守る力を持つという意味では、これは貴女の名を呼ぶことによって力を得るとされていますからこの条件で絞るのはやめておきましょう」

 そんな戒夜の揚げ足を取るように、園比がいたずらっこの瞳をして言う。

「えー? それなら頭の良さだって姫様の名前の解放でぱっと良くなるっていうか、記憶が解放されるかもしれないじゃん」

「あら、それなら〈唯一の人〉が男の人っていう前提もとっぱらってよ」

 棗ちゃんまでがそんな事を言い出す。

「いや、それはないだろう。〈唯一の人〉は〈救いの姫〉の恋人のようなものだろう?」

 さすがに眉を寄せ不快な顔をする戒夜。

 でもそうか、ゲームによっては『百合』とまではいかなくても女の子との『友情エンド』が存在するし、考えようによっては棗ちゃんエンドもあるのかも。

 生々しい百合ものは特に好きじゃないけど、軽いノリの友情の延長線上の百合ものは結構好きだったりするのでちょっと興味がわいてくる。

 けどダメダメ。せっかく剛毅を外して選択肢減らしたのに、棗ちゃん加えてどうすんの。

「ごめんね棗ちゃん。わたしとしても〈唯一の人〉は男の人だと思う。確かになんにも出来ないわたしだけど、それでも女の子に守ってもらうってのはちょっと違う気がするんだ」

 謝ると棗ちゃんは「残念」と言いつつも、そこまで気にしているようでもなかった。

「けど園比や棗の言う事も一理あると思うんだけど。安易にリストから外して、その中に〈唯一の人〉がいたらかえって見つけるのが遅くなるんじゃないか?」

 ちょっと考えるように言う剛毅の言葉を受けて、透見も頷く。

「そうですね。私もやはり、姫君の直感に任せた方が良いのではと思います」

 それでも戒夜はまだ納得出来ない様子で。

「しかし小鬼の出現した今、悠長に一人一人を当たっている場合じゃないだろう?」

 冷たく言い放つ戒夜に、わたしはこっそり手を挙げ、言った。

「あの、あのね。わたしが〈救いの姫〉って事だけど、みんなに言われるまでわたし知らなかったじゃん? だからね、〈唯一の人〉もわたしが名乗るまで自分が〈唯一の人〉って知らない可能性もあるわけで……」

 どこまで喋っていいんだろ、と思いつつ口にする。わたしの夢なんだからある程度は都合の良いようになる筈だけど。

「それなのに姫は会っただけではその人が〈唯一の人〉かどうか分からないのでしょう?」

 責められるように戒夜に言われてちょっと傷ついた。と同時にちょっと腹が立ったもんだから、言わないで良い事までつい口にしてしまう。

「そうだよ。だからここにいるみんなも、候補になってるんだよ」

 言っちゃってからしまったと後悔する。若くてかわいい姫様なら逆ハーレムになっちゃう可能性もあるけど、わたしみたいなブスでブタなおばさんが言ったって引かれるだけなのに!

 案の定辺りがシーンと静まり返った。

 き、気まずい。

「あ、いやあの……。あくまで可能性の一端だよ?」

 なんて言い訳してみる。

 すると透見が考えるように顎に手を当て静かに呟いた。

「そうですね。ありえない話ではないでしょう。〈唯一の人〉本人に自覚や記憶がないのでしたら我々を候補から除外する理由もありませんから」

 優しい笑顔をにっこりとこちらに向けてくれる。透見、嫌じゃないの?

「えー、じゃあ僕が〈唯一の人〉ってのもあり?」

 わくわくした顔で園比が言う。園比はけっこうノリ気っぽい。そんな園比をカラカラと可笑しそうに剛毅が笑い飛ばす。

「いや、ないだろ。〈唯一の人〉ってのは絶対的な力でもってオレ達を救ってくれる人なんだぜ? 園比にそんなパワーが宿ったら、この地を救うよりもその力悪用して女の子ナンパしてそうじゃん」

 幼馴染みの気安さゆえか、結構辛辣な事笑いながら言ってるよね。

「えー、なにそれ。そんなわけないじゃん。〈唯一の人〉が〈救いの姫〉を裏切るような事するわけないんだからさ」

 さすがに園比もムッとしたように反論するけど。

「だから姫一筋になりそうにない園比は〈唯一の人〉ではありえないだろう」

 戒夜までもがそんな風に言うもんだから、園比はすっかりヘソを曲げてプイっとそっぽを向いてしまった。


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