異世界に飛ばされちゃったわたしは、どうもお姫様の身代わりに花嫁にされちゃったらしい。

みにゃるき しうにゃ

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せっかくだからレース糸で魔方陣を編んでみる事にした。

その8

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 間違ってるって指摘された所まで解いてレースを編みなおし終えたのは、二日後の事だった。

 思ってたよりも早く編めたと思う。ちょっと夜更かしして頑張ったってのもあるけど、だいぶ手慣れてきて手が早くなった気がする。

 夜更かしするのに、ランプの灯りじゃ手元が暗くてクロモに魔法で明かりを灯してもらった。ちょっと申し訳ないなって思ったけど、クロモも早くレースの完成を見たかったみたいで、「たまにはいいさ」と笑ってくれた。

 編み終え糸を切る前にもう一度、ゆっくりと編み間違ってる場所がないか確認する。

 うん。たぶんちゃんと編めてる。

「クロモーっ。出来たよっ。レース、完成した。一応確認はしたけど、もう一度クロモの目で間違ってないか確認してもらっていいかな?」

 今日の仕事を終え、夕食の準備に取り掛かろうとキッチンへ行きかけていたクロモを捕まえ、レースを見せた。

 て、夕食の準備?

「あー、ごめん。わたしも手伝うよ。夕食の準備。何したらいいかな」

 まだまだ出来ない事は多いけど、少しでも出来る事なら手伝いたい。

 クロモってば一人の生活に慣れてたからなのか、それとも遠慮しちゃってるのか、わたしが手伝うよって言えば手伝わせてくれるけど、クロモから手伝ってって言う事は滅多にない。

 だから出来るだけ自分から手伝うようにはしてるんだけど、今日みたいに何かに集中してるとうっかり忘れちゃう事がある。そもそもここ、時計もないし。

 いつだったかもお昼寝のつもりがうっかり夜まで寝ちゃってた事があって、夕食作るの手伝い損ねたどころかいつもの食事の時間もとっくに過ぎてたのに、何も言わずに温かい食事が出て来た時には申し訳なさすぎて、泣けた。

 なんていうか、クロモの方が良いお嫁さんになれるんじゃない? って思ったもん。

 それはさておき、クロモはわたしの手の中にあるレースを受け取り、さっとそれを見るとにこりと笑った。

「ああ、今回も良い出来だな。とはいえ前回の様に見落としている部分もあるかもしれんから、後でじっくりと見せてもらおう」

 そう言って「ありがとう」と伝えるように目を伏せるとクロモはそのレースを自分の服の中へとしまった。



 レースを取り出しクロモがゆっくりじっくりと確認したのは、夕食が終わってからの事だった。

 食器をキレイに片付け二人分のお茶を用意した後、わたしの編んだレースをテーブルの上に広げて見せた。

 真剣な顔でクロモはわたしの編んだレースをじっと見ている。

 ドキドキする。

 今度こそ編み間違えてないとは思うけど、あんな風にレースを見つめられると緊張する。

「大丈夫。ちゃんと出来てる」

「本当? 良かった。ちゃんと確認しながら編んだから間違いないとは思ってたけど、クロモにお墨付き貰ってホッとした。あとはこれがちゃんと魔法になるかだけだよね」

「ああ」

 返事と共にレースの上にかざしたクロモの手が、魔力の光を帯びる。

「え? ちょっと待って。お姉さん待たなくていいの?」

 慌てて止めるとクロモも魔力を出すのを止めた。

「先に結果見ちゃったら、きっとお姉さん拗ねちゃうよ。明日来るって言ってたんだから、明日まで待とう」

 わたしの言葉にクロモはちょっとむくれたような顔をした。

「早く試してみたい気持ちは、わたしも一緒だよ。けど先に試して結果だけ報告したら、絶対お姉さん拗ねちゃうよ? きっと後が怖いよ?」

 悪い人ではないけれど、そういうところはちょっと怖いお姉さんだ。クロモもそれが分かってるんだろう、渋々レースをわたしに返してくれる。

「明日、上手くいくといいね。今晩神様に祈っとくね。……って、この世界の神様ってよく知らないんだった。もっとも、元の世界でもあんまり神様の事知らないんだけど。そもそもうちって仏教だったっけ。いつも初詣に行ってた近所の神様はアマテラスなのかな? うーん、まぁいっか。とにかく祈っとくよ」

 わたしの言葉を聞いてキョトンとするクロモ。

「あれ? わたし何か変なコト言っちゃった?」

 首を傾げるとクロモはふるふると首を振った。

「いや。聞きなれない言葉に驚いただけだ」

「ああ、仏教とか? 宗教の一種だよ。ていうか、ここの世界って宗教はどんななの? ひとつだけ? それとも幾つもある? 神様はどのくらいいるの? っていうかどのくらい信じられてるの? うっかり変な事言ったら命の危険とかあったりする?」

 あんまり神様の事は知らないけど、宗教に怖い面があるって事くらいは知ってる。外国で異教徒だからとか教えに背いたからとかで殺されたりテロがあったりなんてニュースがある事くらい、一応知ってる。

 ここは人里離れた森の中だし、クロモもそういう信心深い面を見せる事ないから気にした事もなかったけど、もしかしたら神様に関して厳しい面もあるかもしれない。

「……神という存在はある。この魔方陣の基礎を作られたのは女神だと伝えられている」

「そっか。じゃあその女神様に祈っといたらいいんだね」

 軽い気持ちで口にすると、クロモが難しい顔をして首を捻った。

「あ、もしかして異教徒がその女神様を拝むのはダメだった?」

 元の世界でも、ちゃんと改宗しないとダメっていう宗教があったようなないような……。

「いや、その祈るとか拝むとか言うのが分からない」

「え?」

 クロモの言葉にびっくりした。神様に祈ったり拝んだりって当たり前の事だと思ってたから。

「この世界の人は、神様にお願いごととかしないの?」

 わたしの言葉を聞いて、今度はクロモがびっくりしてる。

「キミの世界には今もなお神が地上におられるのか」

「え? あ。いやいやまさか。実際に神様がいるわけじゃないよ。じゃなくて、どう説明したらいいのかな。神様に祈る事でパワーが貰えるというか、そんな気がするというか。見守ってもらってるっていうか。そんな気がするっていうか。運が良ければお願い叶えてもらえるっていうか。うーん。信じる者は救われる?」

 だんだん自分が何言ってるのか分かんなくなってきちゃった。クロモもわたしの言ってる事が分かんないみたいで、頭に疑問符浮かべちゃった顔してる。

「いない神がどうやって願いを叶えるんだ? 君は神に伝手があるのか?」

 責めるというよりは知りたがりの子供の様に興味津々の顔でクロモが訊いてくる。

 どうしよう。わたしも分かんなくなってきた。

「伝手とかなくてもみんな、お願い事するの。もちろんみんながお願い事叶えてもらえるわけじゃないし、叶った願い事も本当は神様なんて関係なしに叶ったのかもしれない。けど、そうやって祈る事で安心するって言うのかな……」

 特にどこかの宗教の熱心な信者ってわけでもないわたしにこれ以上説明を求めないでー。

「あ、今のはあくまでわたしの考えで、わたしの世界の人がみんなこういう考えってわけじゃないから。一応言っとくね」

 慌てて付け加えておく。クロモがわたしの世界の人と接触する可能性はかなり低いんだろうけど。


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