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たぬきの恋煩い※R18
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誤算と言えばもう一つ、直人にとって最大の誤算があった。
「ナオ、こっちへおいで」
「ウユ~」
「いい子だね」
白魚のように滑らかで、けれど男らしく節くれだった指先が慈しむように直人の頭を撫でる。毛並みを整えるようにして手櫛を通されると心地よさに喉が鳴った。
ジュリアスのペットとして王宮で暮らすようになって早五年。先月の誕生日で十七歳になったジュリアスは、羞花閉月の絶世の美男子として国中の噂の的になっていた。
妙齢の淑女はもちろんのこと、性差を超えた美貌には老若男女問わず誰しもが見惚れ心奪われた。それは決して人に限った話ではない。誰よりも一番近くでその美貌を拝み、あまつさえ寵愛を一身に受ける直人もまた、種族の壁を超えてジュリアスに想いを寄せていた。
まさかジュリアスに恋焦がれることになるなど、出会ったばかりの頃は思いもしなかった。
幼く純粋なジュリアスのことを、我が子のように慈しんでいた。そこには不純な感情などなかったはずなのに。いつからか、澄んだ瞳に見つめられると胸が甘く締め付けられた。
共に湯を浴びて床につく。当たり前だったそれらに邪な感情が芽生えた時にはもう、直人は骨の髄までジュリアスに惚れ込んでいた。
それと同時に、ただのペットでしかない自分がジュリアスと結ばれることは永遠にないと理解していた。
「そう落ち込むな。何があるかわからないのが人生だ。諦めずに想い続ければ、報われる日が来るかもしれないぞ。ああ、お前の場合はたぬき生か」
わざと茶化すような言い方で慰めてくれるアンガスの優しさに胸が熱くなった。
「ありがとうアンガスさん。報われなくても、想い続けるだけなら許されますかね」
「誰も咎めたりしないさ。それにジュリアス殿下もきっと──」
慰めるように鼻先で直人の頭を小突いたアンガスが何かを言いかけた。その声を掻き消すようにして、甘く優しい声が耳に届いた。
「ナオ、ここにいたんだね。公務が終わるまで寝台で待っていてと言ったのに、悪い子だね」
「ウユ~ン」
「ごめんなさいって言ってるの? 冗談だよ、怒っていないから一緒に眠ろう」
いつものようにジュリアスの腕に抱き上げられる。気遣わしげなアンガスの視線から隠すようにして、ジュリアスは夜着の裾で直人の体を覆った。
「ナオはアンガスによく懐いているね」
「ウユ~」
「アンガスと一緒に寝たい?」
「ウユ~ッ」
寝たい。できることならこれから毎日アンガスと寝たい。いや、正確にはジュリアスと共寝をしたくなかった。
決してジュリアスのことが嫌いだからではない。美しい主人に邪な感情を抱く自分が許せないからだ。
ジュリアスからすればただペットと添い寝をしているだけ。けれど、直人にとっては恋しく思う相手と床を共にしているのだ。意識をするなと言う方が無理な話で、後ろ暗い感情を悟られる前にジュリアスと距離を置きたかった。
お願いします、と眼差しで訴えかける直人をじっと見据えて、ジュリアスは月夜に輝く金の睫毛を悲しげに伏せた。
「ナオは俺のことが嫌い?」
ジュリアスの一人称は私だ。けれど時々、直人の前でだけは"俺"と口にすることがあった。それがまるで直人にだけは本当の姿を見せてくれているようで嬉しかった。言外に、特別な存在なんだと言われているようで嬉しかった。
だからこそずるいと思う。そんな聞き方をされて、「嫌いです」なんて酷い返事できるはずがない。
慰めるようにそっと鼻先を擦り寄せて、甘えるように喉を鳴らした。
「ウユ~~」
「……ナオ、俺の可愛い子。これからもずっと、一緒にいようね」
「……ウユ~」
この先もずっと、背徳感に苛まれながらそばにい続ける。それは直人にとって苦しくもあり、同時に喜ばしいことでもあるのだから恋とは厄介だ。
力なく頷いた直人に満足したらしく、ジュリアスは長い足を生かして颯爽と寝室へ向かった。
明かりの落とされた寝台に寄り添いあって身を横たえる。大きな腕に全身をすっぽり包み込まれて、引き締まった胸板に抱き込まれた。ジュリアスの香りに満たされるこの瞬間が堪らなく幸福だった。
「ナオ、おやすみ。良い夢を」
ちゅっと額に口付けが落とされた。小さなリップ音を立ててジュリアスの唇が離れていってしまう。名残り惜しむように目で追えば、どこか妖艶な気配を纏った碧眼と交錯した。
わずかに開いた唇の隙間からチラリと赤い舌が覗く。その淫靡さに、ずくりと下腹部が疼いた。
熱を持ち始めた直人の体に異変を察したのか、ジュリアスが少し困ったように微笑んだ。
「いけない子だね」
恥ずかしい。単なる獣の発情期だと思われているのかもしれないが、なんにせよ興奮していることをジュリアスに悟られてしまったことが死にそうなくらいに恥ずかしかった。
顔から火が出そうだ。燃えるように熱い顔をジュリアスの胸板に埋めて体を丸める。
すっかり眠りの体制に入った直人に笑って、ジュリアスがもう一度触れるだけのキスをした。
「おやすみ」
「ウユ~」
「はは、可愛い」
耳たぶをくすぐるような笑い声にすら背筋がゾクゾクした。もうこれ以上醜態を晒したくなくて、ぎゅっと固く目を瞑る。
温かい腕に抱かれながらぽんぽんと優しく背中を撫でられる内、気づけば穏やかな微睡に意識が溶けていた。
濡れた息遣いと皮膚のぶつかり合う音が鼓膜を揺らす。時折空気の混ざった水音がして、耳を塞ぎたくなるような卑猥な音に体が熱くなった。
「ン、や、あぁ……」
自分の口から悲鳴にも似た情けない声が漏れる。嗜虐心を煽る嬌声に、直人に覆い被さる影が興奮したように息を吐いた。
汗ばんだ額に指先が触れて、そっと前髪を払われた。その微細な刺激にすら反応して腰をくねらせてしまう。卑猥な腰使いに息を詰めた影が、ぐっと直人の腰を掴んで引き寄せた。
グチュヌチュ、とあられもない水音がして、熱く太い何かに体内を押し拡げられていくのを感じた。狭い肉道をこじ開けるようにして進む熱原体には覚えがある。
犯されている。他人の陰茎に秘所を暴かれ、強烈な快感を叩き込まれている。事態を理解するのと同時に爆発的な熱が身のうちに渦巻いた。
肉壁が陰茎を誘い込むように蠕動する。腰を掴む手に力が籠ったかと思うと、バチュンッと容赦ない力加減で腰を打ち付けられた。
「ア゛ァっ、ひ、い……んひっ、ア、アぁ」
かひゅっと掠れた息が喉から漏れる。あまりの快感に背中が弓形にしなり、ピンと足先が伸びた。
過ぎた快感に熱い涙が頬を伝った。イヤイヤと子供のように首を振るが、影は容赦なく直人を犯した。
逃げを打つ腰をぐっと押さえ込み、太く張り出た先端がドチュドチュと行き止まりを叩く。
「ンアっ、や……アァ……ひ、ンゥ」
先走りの滲んだ先端に奥をこねられるたび、全身に甘い痺れが走った。びくびくと魚のようにつま先が跳ねて、内腿は断続的に痙攣を繰り返していた。
「ひァっ、あ、ア……っ、くぅ、ン」
甘えたようなはしたない声が止められない。唇を噛み締めてもくぐもった嬌声が抑えきれず、奥にはめ込んだまま先端で押し潰すように腰を回されると「あぐうっ、ンアぁっ」と余計にひどい喘ぎが溢れた。
荒い息と共に涎が頬を伝う。滑らかな指先が涎の跡を辿り、半開きの口内にクチュリと侵入した。
「ンゥ、ん、んく、ふぅ、ン……っ」
舌先を掴まれてクチュクチュと弄ばれる。口内に溢れた唾液が淫らな音を立てる度、脳髄がぢんぢんと甘く痺れた。
綺麗に整えられた爪が上顎をカリカリと引っ掻き、舌の窪みを舐るような手つきで撫で回す。しなやかな指先に蹂躙され、口内が蜜壺のように熱く蕩けていくのがわかった。
「んは、ア、ンゥ……ン、もっろ、もっとぉ……ンア、んっ」
まるで強請るように指に舌を這わせてしまう。そのはしたなさを叱るように、パチュンッと強く奥を穿たれた。衝撃にビクビクと足先が跳ねる。下腹がひくひくと痙攣して、肉壁が搾り取るように陰茎に絡みついた。
頭上で影が熱っぽい息を吐き出した。艶かしい吐息が額をくすぐる。
「ナオ……っ」
耳慣れた声にドクンッと心臓が強く鼓動した。
影が堪えるように息を詰め、最奥のさらに奥を割り開くようにぐぐっと腰を押し付けられた。ドクドクと脈打つ陰茎に、肉壁が期待にするように蠕動する。
ぬかるんだ最奥にグププと先端がハマるのと同時に、熱い飛沫が奥壁に叩きつけられた。
「ひぁ、アァッ、ンアァ゛……っン゛ぅうぅ~~っっ」
これ以上ないほど奥に注ぎ込まれているというのに、もっとと強請るように腰を押し付けてしまう。影が笑う気配がして、奥壁に精液を塗りつけるようにしてヌチュヌチュと腰を回された。
「んひっ、アぁ……んぁ、ア、アァ~……っ」
体の中心から甘い快感が広がって脳髄まで蕩けてなくなってしまいそうな錯覚を覚えた。
全身をくったりと弛緩させて快楽を享受する。トロンとした目で影を見上げれば、暗闇に浮かび上がる澄んだ碧眼と交わった。
ああ、またこの夢か──恋焦がれてやまないジュリアスの頰に伸ばした手は虚しく空を切るだけだった。
寝ぼけ眼を擦った先には麗しのジュリアスのご尊顔。陽の光を浴びてキラキラと輝く姿は女神や妖精という言葉がよく似合った。
こんなにも美しい人のことを思いながらふしだらな夢を見てしまうなんて。罪悪感からジュリアスの顔を見ていられず、のそのそと身を起こして寝台を降りようとした。けれど、ピョンとジャンプするのと同時に背後からお腹に腕を回されて、あっという間にジュリアスの腕の中に逆戻りしていた。
後頭部に感じる柔らかな吐息に心臓がバクバクとうるさくなる。
「おはようナオ」
「ウユ~」
「なんだか今日は元気がないね。お腹が空いた?」
「……」
「具合が悪い?」
「……」
「ああ、湯浴みがしたいんだね」
淫らな夢の跡を色濃く残す下腹部を横目に見て、ジュリアスは納得したように頷いた。途端に直人の顔が羞恥に染まった。
ああ、できることなら泡になって消えてしまいたい。動物だからまだいいものの、これが生身の男だったらどんな侮蔑の言葉を吐かれていただろうか。ジュリアスに凍てついた眼差しを向けられることを想像しただけで、目頭の奥がじんわりと熱くなった。
「ナオ、泣かないで。大丈夫、恥ずかしいことじゃないよ」
「ウユ~……」
「ごめんなさいって言ってるの? 謝らなくていいのに。ナオは賢くて可愛くていい子、だから大丈夫だよ」
慰めるように優しくお腹を撫でられると余計に泣きたくなった。
ごめんなさい、夢の中とはいえジュリアス様のことを穢してしまいました。心の中で懺悔して、謝罪の代わりにジュリアスの手に擦り寄った。
「可愛いねナオ、いい子だね」
こうして直人が甘えると、ジュリアスは砂糖菓子を蜂蜜で溶かしたような甘やかな笑みを浮かべるのだ。その笑顔のためならなんだってできると本気で思った。それくらい、直人は深く直向きな想いをジュリアスに寄せていた。
「ナオ、こっちへおいで」
「ウユ~」
「いい子だね」
白魚のように滑らかで、けれど男らしく節くれだった指先が慈しむように直人の頭を撫でる。毛並みを整えるようにして手櫛を通されると心地よさに喉が鳴った。
ジュリアスのペットとして王宮で暮らすようになって早五年。先月の誕生日で十七歳になったジュリアスは、羞花閉月の絶世の美男子として国中の噂の的になっていた。
妙齢の淑女はもちろんのこと、性差を超えた美貌には老若男女問わず誰しもが見惚れ心奪われた。それは決して人に限った話ではない。誰よりも一番近くでその美貌を拝み、あまつさえ寵愛を一身に受ける直人もまた、種族の壁を超えてジュリアスに想いを寄せていた。
まさかジュリアスに恋焦がれることになるなど、出会ったばかりの頃は思いもしなかった。
幼く純粋なジュリアスのことを、我が子のように慈しんでいた。そこには不純な感情などなかったはずなのに。いつからか、澄んだ瞳に見つめられると胸が甘く締め付けられた。
共に湯を浴びて床につく。当たり前だったそれらに邪な感情が芽生えた時にはもう、直人は骨の髄までジュリアスに惚れ込んでいた。
それと同時に、ただのペットでしかない自分がジュリアスと結ばれることは永遠にないと理解していた。
「そう落ち込むな。何があるかわからないのが人生だ。諦めずに想い続ければ、報われる日が来るかもしれないぞ。ああ、お前の場合はたぬき生か」
わざと茶化すような言い方で慰めてくれるアンガスの優しさに胸が熱くなった。
「ありがとうアンガスさん。報われなくても、想い続けるだけなら許されますかね」
「誰も咎めたりしないさ。それにジュリアス殿下もきっと──」
慰めるように鼻先で直人の頭を小突いたアンガスが何かを言いかけた。その声を掻き消すようにして、甘く優しい声が耳に届いた。
「ナオ、ここにいたんだね。公務が終わるまで寝台で待っていてと言ったのに、悪い子だね」
「ウユ~ン」
「ごめんなさいって言ってるの? 冗談だよ、怒っていないから一緒に眠ろう」
いつものようにジュリアスの腕に抱き上げられる。気遣わしげなアンガスの視線から隠すようにして、ジュリアスは夜着の裾で直人の体を覆った。
「ナオはアンガスによく懐いているね」
「ウユ~」
「アンガスと一緒に寝たい?」
「ウユ~ッ」
寝たい。できることならこれから毎日アンガスと寝たい。いや、正確にはジュリアスと共寝をしたくなかった。
決してジュリアスのことが嫌いだからではない。美しい主人に邪な感情を抱く自分が許せないからだ。
ジュリアスからすればただペットと添い寝をしているだけ。けれど、直人にとっては恋しく思う相手と床を共にしているのだ。意識をするなと言う方が無理な話で、後ろ暗い感情を悟られる前にジュリアスと距離を置きたかった。
お願いします、と眼差しで訴えかける直人をじっと見据えて、ジュリアスは月夜に輝く金の睫毛を悲しげに伏せた。
「ナオは俺のことが嫌い?」
ジュリアスの一人称は私だ。けれど時々、直人の前でだけは"俺"と口にすることがあった。それがまるで直人にだけは本当の姿を見せてくれているようで嬉しかった。言外に、特別な存在なんだと言われているようで嬉しかった。
だからこそずるいと思う。そんな聞き方をされて、「嫌いです」なんて酷い返事できるはずがない。
慰めるようにそっと鼻先を擦り寄せて、甘えるように喉を鳴らした。
「ウユ~~」
「……ナオ、俺の可愛い子。これからもずっと、一緒にいようね」
「……ウユ~」
この先もずっと、背徳感に苛まれながらそばにい続ける。それは直人にとって苦しくもあり、同時に喜ばしいことでもあるのだから恋とは厄介だ。
力なく頷いた直人に満足したらしく、ジュリアスは長い足を生かして颯爽と寝室へ向かった。
明かりの落とされた寝台に寄り添いあって身を横たえる。大きな腕に全身をすっぽり包み込まれて、引き締まった胸板に抱き込まれた。ジュリアスの香りに満たされるこの瞬間が堪らなく幸福だった。
「ナオ、おやすみ。良い夢を」
ちゅっと額に口付けが落とされた。小さなリップ音を立ててジュリアスの唇が離れていってしまう。名残り惜しむように目で追えば、どこか妖艶な気配を纏った碧眼と交錯した。
わずかに開いた唇の隙間からチラリと赤い舌が覗く。その淫靡さに、ずくりと下腹部が疼いた。
熱を持ち始めた直人の体に異変を察したのか、ジュリアスが少し困ったように微笑んだ。
「いけない子だね」
恥ずかしい。単なる獣の発情期だと思われているのかもしれないが、なんにせよ興奮していることをジュリアスに悟られてしまったことが死にそうなくらいに恥ずかしかった。
顔から火が出そうだ。燃えるように熱い顔をジュリアスの胸板に埋めて体を丸める。
すっかり眠りの体制に入った直人に笑って、ジュリアスがもう一度触れるだけのキスをした。
「おやすみ」
「ウユ~」
「はは、可愛い」
耳たぶをくすぐるような笑い声にすら背筋がゾクゾクした。もうこれ以上醜態を晒したくなくて、ぎゅっと固く目を瞑る。
温かい腕に抱かれながらぽんぽんと優しく背中を撫でられる内、気づけば穏やかな微睡に意識が溶けていた。
濡れた息遣いと皮膚のぶつかり合う音が鼓膜を揺らす。時折空気の混ざった水音がして、耳を塞ぎたくなるような卑猥な音に体が熱くなった。
「ン、や、あぁ……」
自分の口から悲鳴にも似た情けない声が漏れる。嗜虐心を煽る嬌声に、直人に覆い被さる影が興奮したように息を吐いた。
汗ばんだ額に指先が触れて、そっと前髪を払われた。その微細な刺激にすら反応して腰をくねらせてしまう。卑猥な腰使いに息を詰めた影が、ぐっと直人の腰を掴んで引き寄せた。
グチュヌチュ、とあられもない水音がして、熱く太い何かに体内を押し拡げられていくのを感じた。狭い肉道をこじ開けるようにして進む熱原体には覚えがある。
犯されている。他人の陰茎に秘所を暴かれ、強烈な快感を叩き込まれている。事態を理解するのと同時に爆発的な熱が身のうちに渦巻いた。
肉壁が陰茎を誘い込むように蠕動する。腰を掴む手に力が籠ったかと思うと、バチュンッと容赦ない力加減で腰を打ち付けられた。
「ア゛ァっ、ひ、い……んひっ、ア、アぁ」
かひゅっと掠れた息が喉から漏れる。あまりの快感に背中が弓形にしなり、ピンと足先が伸びた。
過ぎた快感に熱い涙が頬を伝った。イヤイヤと子供のように首を振るが、影は容赦なく直人を犯した。
逃げを打つ腰をぐっと押さえ込み、太く張り出た先端がドチュドチュと行き止まりを叩く。
「ンアっ、や……アァ……ひ、ンゥ」
先走りの滲んだ先端に奥をこねられるたび、全身に甘い痺れが走った。びくびくと魚のようにつま先が跳ねて、内腿は断続的に痙攣を繰り返していた。
「ひァっ、あ、ア……っ、くぅ、ン」
甘えたようなはしたない声が止められない。唇を噛み締めてもくぐもった嬌声が抑えきれず、奥にはめ込んだまま先端で押し潰すように腰を回されると「あぐうっ、ンアぁっ」と余計にひどい喘ぎが溢れた。
荒い息と共に涎が頬を伝う。滑らかな指先が涎の跡を辿り、半開きの口内にクチュリと侵入した。
「ンゥ、ん、んく、ふぅ、ン……っ」
舌先を掴まれてクチュクチュと弄ばれる。口内に溢れた唾液が淫らな音を立てる度、脳髄がぢんぢんと甘く痺れた。
綺麗に整えられた爪が上顎をカリカリと引っ掻き、舌の窪みを舐るような手つきで撫で回す。しなやかな指先に蹂躙され、口内が蜜壺のように熱く蕩けていくのがわかった。
「んは、ア、ンゥ……ン、もっろ、もっとぉ……ンア、んっ」
まるで強請るように指に舌を這わせてしまう。そのはしたなさを叱るように、パチュンッと強く奥を穿たれた。衝撃にビクビクと足先が跳ねる。下腹がひくひくと痙攣して、肉壁が搾り取るように陰茎に絡みついた。
頭上で影が熱っぽい息を吐き出した。艶かしい吐息が額をくすぐる。
「ナオ……っ」
耳慣れた声にドクンッと心臓が強く鼓動した。
影が堪えるように息を詰め、最奥のさらに奥を割り開くようにぐぐっと腰を押し付けられた。ドクドクと脈打つ陰茎に、肉壁が期待にするように蠕動する。
ぬかるんだ最奥にグププと先端がハマるのと同時に、熱い飛沫が奥壁に叩きつけられた。
「ひぁ、アァッ、ンアァ゛……っン゛ぅうぅ~~っっ」
これ以上ないほど奥に注ぎ込まれているというのに、もっとと強請るように腰を押し付けてしまう。影が笑う気配がして、奥壁に精液を塗りつけるようにしてヌチュヌチュと腰を回された。
「んひっ、アぁ……んぁ、ア、アァ~……っ」
体の中心から甘い快感が広がって脳髄まで蕩けてなくなってしまいそうな錯覚を覚えた。
全身をくったりと弛緩させて快楽を享受する。トロンとした目で影を見上げれば、暗闇に浮かび上がる澄んだ碧眼と交わった。
ああ、またこの夢か──恋焦がれてやまないジュリアスの頰に伸ばした手は虚しく空を切るだけだった。
寝ぼけ眼を擦った先には麗しのジュリアスのご尊顔。陽の光を浴びてキラキラと輝く姿は女神や妖精という言葉がよく似合った。
こんなにも美しい人のことを思いながらふしだらな夢を見てしまうなんて。罪悪感からジュリアスの顔を見ていられず、のそのそと身を起こして寝台を降りようとした。けれど、ピョンとジャンプするのと同時に背後からお腹に腕を回されて、あっという間にジュリアスの腕の中に逆戻りしていた。
後頭部に感じる柔らかな吐息に心臓がバクバクとうるさくなる。
「おはようナオ」
「ウユ~」
「なんだか今日は元気がないね。お腹が空いた?」
「……」
「具合が悪い?」
「……」
「ああ、湯浴みがしたいんだね」
淫らな夢の跡を色濃く残す下腹部を横目に見て、ジュリアスは納得したように頷いた。途端に直人の顔が羞恥に染まった。
ああ、できることなら泡になって消えてしまいたい。動物だからまだいいものの、これが生身の男だったらどんな侮蔑の言葉を吐かれていただろうか。ジュリアスに凍てついた眼差しを向けられることを想像しただけで、目頭の奥がじんわりと熱くなった。
「ナオ、泣かないで。大丈夫、恥ずかしいことじゃないよ」
「ウユ~……」
「ごめんなさいって言ってるの? 謝らなくていいのに。ナオは賢くて可愛くていい子、だから大丈夫だよ」
慰めるように優しくお腹を撫でられると余計に泣きたくなった。
ごめんなさい、夢の中とはいえジュリアス様のことを穢してしまいました。心の中で懺悔して、謝罪の代わりにジュリアスの手に擦り寄った。
「可愛いねナオ、いい子だね」
こうして直人が甘えると、ジュリアスは砂糖菓子を蜂蜜で溶かしたような甘やかな笑みを浮かべるのだ。その笑顔のためならなんだってできると本気で思った。それくらい、直人は深く直向きな想いをジュリアスに寄せていた。
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