まさか推しと戦うことになるなんて……ミッドナイトミッションSPACE‐F-

有馬佐々(ありまささ)

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ミッドナイトミッション

クリアするために

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 その夜、マドカは悪夢にうなされた。 

 夢の中はとても暗かった。

 濃いグレーの景色の中、一人取り残されたマドカは謎の男から必死に逃げ回っていた。

 ――……あっ!

 マドカはショルダーに付けていた青色のキーホルダーを走っている途中に落としてしまい、一瞬立ち止まった。

 慌ててキーホルダーを拾い上げ、直ぐに逃げ腰に戻りマドカは再び走り出した。

 その時、青色のキーホルダーに僅かなヒビが入ってしまった。

 キーホルダーを拾い上げたせいで、出遅れたマドカは、謎の男に捕まってしまった。



 同時に、ミコトも夢を見ていた。

 マドカが一人取り残されて、謎の男に追われながら泣いている夢だった。

 マドカが本当にいるような気がして、助けようと手を伸ばしたが、その手は届かずマドカが消えて行ってしまいそうになった――

 瞬間、ハッと目を覚ましたミコト。

 カーテンの隙間から朝日が漏れていた。

 ――マドカ……!

 ミコトは、目覚めてすぐマドカのことが不安になり、急いで電話を掛けた。

 トゥルルルル――トゥルルルル――トゥルルルル――

 何コール待ってもマドカは電話に出ることはない。

 ――マドカと同じ夢を見ていたような……。

 そう思ったがミコトは確認のしようがなかった。

 そして、その日、朝何時になってもマドカが迎えに来ることはなかった。

 ――今度こそ、学校……休もうかな……。

 今頃、聞こえてくるはずのリンカの甲高い声も聞こえてこなかった。そのせいでミコトはベッドから起き上がれずにいた。

 ――マドカ……レノが言っていた最後のミッション、あの選択肢で本当に、良かったのか……。

 ミコトはふと、SPACE‐F‐での最後のミッションを思い出した。

 ――マドカに、会いたい。……会わないと……。

 そう思い、金色のワンマカキーホルダーをミコトは見つめた。

 急に深い眠気が襲ってきて、朝だと言うのに、ミコトは深い眠りについてしまった。



 ミコトはとてつもない浮遊感に襲われて一つの空間に辿り着いた。そこには病室の待合室のような景色があった。 

 フェンダーとタソが椅子に腰を掛けていて、ミドリは壁にもたれ掛かっていた。そしてレノが待合室の真中に佇んでいた。

 ――これは……前もみた風景だ。

「やっときたわね」                      

 マドカの声だ。その声は前にも聞いた記憶があった。

 ミコトは急いで振り向くと、そこにはマドカを含める三人の姿が確かにあった。

「皆!」

 ミコトは感極まり慌てて声をかけた。

「なによ、そんなに焦って、さあ、次のミッションを聞くわよ」

 マドカは表情を崩さない。

「たく、待ちくたびれたぜ、ミコト」 

 フェンダーが腰を上げる。                                    

「皆揃ったようですね」

 ミドリもミコトの元へと近づいてくる。

「待っていたよー!ミコト君!」

 タソが言う。

 ――この会話、この前もしたような……それにしても、なんで皆平然としているんだ?

「レノ、次のミッション、いや、最後のミッションがあるんだろ?」

 ミコトは確信してレノに言った。

「ピー、ポポポポ……。はい。最後のミッションになります。最後は皆さんの持っているワンマカのキーホルダーをこの世界、SPACE‐F‐に返納してもらいます。それで、ミッションはクリアとなります」

 レノはミッションの説明をした。

 ――前にも聞いたことがある……もしかして、皆あの狂った世界を覚えていない……?いや、マドカと付き合っていた世界線は存在しなかったのか……?

「……キーホルダーの返納が条件なのね……」

 マドカは静かに放つ。

「キーホルダーを返す……」

 タソが考えこむ様子を見せた。

 ミコト以外の四人も不安な表情を見せた。

「ねえ、こんなのどうかしら、皆の持っているキーホルダーを一つずつ交換していくの。だって、私ミッションのクリアより、友情を優先したいもの」

 マドカが提案をする。

「なにそれ!賛成!」

 タソが大きな声を出して、元気を取り戻した。

「僕も賛成です。皆さんに出会えたことを忘れたくありません」

「俺もそれが良いと思う」

 ミドリとフェンダーもマドカの提案に賛成した。

 マドカのショルダーには赤色のキーホルダーが付けられていて、ミドリは青色のキーホルダー、フェンダーは紫のキーホルダー、タソは黄色のキーホルダーを手にしていた。そして、ミコトのスマートフォンにも金色のキーホルダーが付けられていた。

 ――……狂った世界は偶像なんかじゃなかったんだな。待てよ、なんで皆ここに居るんだ……?おい、このままだとまた同じ繰り返しじゃないか。俺はもう皆が消えてしまう世界なんて見たくない……俺が止めないと!

「待ってくれ、俺は反対だ」

 ミコトは真剣な眼差しで訴えた。

「どうして?」

 マドカが振り向いてミコトに聞いた。

「俺達はミッションクリアするために数々の試練を乗り越えてきたんじゃないか。協力して頑張って乗り越えてきたのも目的はミッションクリアのためだったはずだ。俺たちのミッションは最後までクリアすることに意味があると思う。なあ、そうだろ」

 ミコトはミッションの目的を見失わないようにと仲間に向かって説得した。

「それでも、私たちの友情が壊れるなんて……そんなの嫌よ!」

 マドカはそう言って真っ白な待合室の奥へと逃げだした。

 マドカの逃げる姿は何者かに追われているように悲しそうで、ほんの一瞬だけマドカの後ろ姿を見て立ち止まってしまった。

「マドカ!待ってくれ!」

 ミコトはマドカを追いかけた。

 マドカは真っ白な空間の奥に吸い込まれていきそうで、必死になって逃げまわった。このミッションをクリアして友情がなかったことになるならいっそのこと逃げていたい……とマドカは思った。

 マドカを追いかけている最中、ミコトはレノのガラクタの破片にぶつかり、右手の甲に傷を作ってしまった。それでも、ミコトは気にせずに足を速めて、マドカの手を掴んだ。

「キャッ」

 不意に手を掴まれたマドカは動揺して立ち止まった。

 頬を赤らめて、繋がれた手を見つめるマドカはどことなく幼さを感じられた。

 時間差でタソ、フェンダー、ミドリもやってきた。

「マドカ、そして皆、俺達はこの世界でも繋がれたんだ。これは奇跡と言っても過言ではないと思う。皆、この世界の他にしっかりとした現実があるんだ。その世界でまた巡り合えたらそれはもう運命だ。その運命を信じてミッションをクリアしようじゃないか」

 ミコトはマドカの手を握りしめたまま言い、少しだけ握力が増した。

「……ちょっ、手……」

 マドカはとても緊張した様子でもごもごと口にした。

「あ、ごめん」

 ミコトはマドカが照れていることに気が付いていなかった。

 ミコトがマドカの手を離すと、マドカは慌てて落ち着きを取り戻そうとスカートの裾で手汗を拭った。

「……そ、そうね。ミコトの考えも間違っていないわ。皆はどう?」

 マドカは動揺しながらも、ようやくミコトの提案に賛成した。

「……わかった。俺、このキーホルダーを返すことに決めた」

 フェンダーが静かに話した。

「運命……わかった!私、最後のミッションをクリアするよ!」

 タソも、承知した様子だ。

「……わかりました」

 ミドリは未だに不服そうだったが承知してくれたようだ。

「レノ、俺達、このキーホルダーを返すよ、どこに置けばいい?」

「この箱に入れてください」

 レノの頭上から半透明なプラスチックの箱が降ってきた。

 カコン。

 半透明なプラスチックの箱が静かに開かれた。

「この世界にキーホルダーを返したら、私、この夢から覚めるってこと?レノ」

 タソがキーホルダーを返す直前にレノに尋ねた。

「そうです。SPACE‐F‐でのミッションは終了となります」

「わかった!皆、バイバイ……じゃなくて、またね!」

 そう言ってタソは、持っていた黄色のキーホルダーをそっと箱の中に入れた。

 タソの体が足元から徐々に消えていく。次第にタソの姿が完全に見えなくなってしまった。

「俺、現実と向き合うとするよ、家からも少しは出ないとな。頑張るから、お前らも頑張れよ、またな」

 次にキーホルダーを返納したのはフェンダーだった。

 フェンダーの体も徐々に消えていき、気が付けばフェンダーは居なくなっていた。

「ぼ……僕、戻りたくないです!現実に戻ったら、また病気と闘わないといけなくて、治る可能性も低いし、それまで痛みに耐えなければいけないんです……それならいっそこの世界でずっと逃げ続けていたいです!僕はこのキーホルダーをお守りに体を保っていたんですから!」

 消えていく二人を見てミドリが尻もちをついて勢いよく放った。

 ミコトはその言葉を聞いてとても胸が苦しんだ。

 ――ミドリ、違うんだ……。キーホルダーを持っていてもお前は……あの世界で死んでしまったんだ……。

「ミドリ、この世界で出会った仲間の心がお守りになるさ。レノと、俺達、皆がミドリのこれからの人生を願っている。そう、体もきっと強くなる。だから安心しろ」

 そう言って、ミコトはミドリを後押しした。

「私も応援しているわ」

 マドカもミドリの背中を押した。

「そんな……僕、頑張れるでしょうか……」

 ミドリの目頭に涙が溢れた。

「ミドリは強いんだ。その強さは俺達が一番わかっている」

「二人とも……皆さんありがとうございます。僕行きます。戻ります」

 ミドリは青色のキーホルダーを箱に入れて深く頭を下げた。

 ミドリもSPACE‐F‐から姿を消していった。

 残るはマドカとミコト。

「あとは、俺とマドカか、どっちから行く?」

「ミコトに先に行かれるのも嫌だし、私が見送って一人ぼっちになるのも嫌……最後は一緒に返しましょうよ」

 マドカは少しためらった様子でミコトに向かって言った。

「ああ、構わない」

 ミコトは返事をして、スマートフォンに付けられていた金色のキーホルダーを外していく。

 それを聞いたマドカも、ショルダーに付けられていた赤色のキーホルダーを外していった。

「それじゃ、返すわよ」

「ああ」

「せーっの」

 タイミングを合わせて二人は箱にキーホルダーを入れた。

 ガタガタ、ガタガタ。

 レノの体が動き出す。

「……ミッションコンプリート……。おめでとうございます」

 レノは依然としてガラクタの集まりのような冷淡な口調で放った。

「私、ミコトの言う運命を信じているわ」

 そう言って、マドカは静かに目を閉じた。

 マドカの体が下から上へと徐々に消えていく。

 同時にミコトの体も消えていった。

「またな」

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