下町育ちの侯爵令嬢

ユキ団長

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プレゼント[ギルバート視点]

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 ソフィアを心配しながらも何も出来ずにいた。
 彼女は王族として戦争に参加している。おれは彼女の運動神経の無さを思い出す。
 ソフィアは真面目で努力家だが体を動かすことが本当にダメなのだ。護身術教室でも技を掛けようとして自分の足に引っかかって転ぶくらいだった。戦場で転んでいたらどうしよう。
 ユインティーナ様にトレース魔法をかける兄さんの気持ちが初めて分かった。ソフィアのことが心配でたまらない。

 ユインティーナ様がイザベル様の護衛としてティリエ領に行く事になった。おれは学園での護衛は出来ても実戦に加われる程の実力はない。学園に居残り決定だ。
 「ユインティーナ様、ひとつだけお願いがあるんだ。おれをアゴンの砦まで連れて行って貰えないか。」
 「ギルバートを戦場には連れて行けないよ。」
 「自分の実力が足りないのは分かっている。おれが用があるのはソフィアにだ。今はソフィア様か。彼女に渡したい物があるんだ。」
 おれが言うとユインティーナ様が頷いた。
 「じゃあ、アゴンの砦まではわたしの護衛として付いて来て。」

 アゴンの砦に着いた後、何故か俺だけ馬車の中に残らされた。しばらく馬車の中で待っているとユインティーナ様の声が聞こえてきた。
 「馬車の中にプレゼントを持って来たの。ソフィア様が絶対に喜ぶプレゼント。」
 えっ、プレゼントってなんだよ。そんなのがあるなんて聞いてないぞ。
 「貴方と私では趣味が違うから絶対に喜ぶとは限らないわよ。」
 「趣味が違っていて良かったね。」
 ユインティーナ様がガチャリと馬車のドアを開けた。スッと彼女が体を逸らすとソフィアとおれの目が合った。
 「ギルバートを連れて来たの。彼が戦場に立つのはまだ早いわ。」
 「うん、だからアゴンの砦までで学園に帰ってもらう予定。わたしからソフィア様へのプレゼントなんだけれど気に入らなかった?」
 ええっ、プレゼントっておれのこと?変にハードルを上げるのはやめてほしい。どんな顔をしていいのか分からず顔が真っ赤に染まった。
 「有難くもらっておくけど、ギルバートも了解の上なのかしら?」
 「その辺りは二人で話しあってね。」
 おれを馬車から下ろすとユインティーナ様の御一行はティリエ領へ向かって走り去ってしまった。
 その場にはおれとソフィアと彼女の護衛のダグラスだけが残された。
 王族になってしまったソフィアと話せる機会なんてまた巡ってくるかどうか分からない。おれは腹を括ってソフィアの前に跪いた。
 「ソフィア様、貴方を望むのはおれには分不相応なのかも知れない。それでも貴方におれの心を貰って欲しい。この琥珀のペンダントを受けとって貰えませんか?琥珀は冷たくならない唯一の宝石です。貴方の心がいつも暖かくいられるように努力し続けることを誓います。」
 おれが言い終わるとソフィアが琥珀のペンダントを受け取って言った。
 「今まで貰った一番嬉しい言葉だわ。ギルバート、私、あなた以外の誰とも結婚したくないの。」
 おれたちは抱き合って初めての口付けを交わした。
 ダグラスがゴホンゴホンと咳払いをして邪魔するまで、だいぶ長い間抱き合っていたと思う。離れ難くて、その後もずっと手を握っていた。恥しそうに微笑むソフィアは世界で一番可愛いと思う。
 
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