ようこそ 霊感探偵事務所へ!

丹波このみ

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幽霊だってお客様

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ある日突然、あたしは特異体質になった。


「ただいま」
「「「おかえりー」」」
「あ、トメさん。三丁目の交差点で乙吉さんが浮いてたよ」
近くの机に荷物を起きながら来客用のソファの上に浮いたお婆ちゃんに声をかける。
「おやまあ。また道に迷ってるんかいね、じいさまは」
お婆ちゃんはそう言うと、ありがとね、と一言残し、煙のようにその場から消え失せた。

「ところで、あかね。そのちっちゃいのはどうしたん?」
派手な柄の着物を粋に着崩し、長い髪を一纏めにした女性がおもむろに口を開く。
言われて、ん?と足元に視線を移すと、三歳くらいの、着物を着た女の子があたしのスカートの裾をしっかりと握りしめていた。

....全然気がつかなかった。

帰る途中、やたら視線を感じたのはコレか。

あたしの特異体質は幽霊が見えるだけでは、ない。
幽霊は何故かあたしに触れたり、あたしの持ち物を持っていると、周囲の人間にも姿が見える、らしい。
あたし自身は普通に見えてしまうので、その違いがわからないんだけどね。
はぁ…と深く溜め息を吐くと、あたしはスカートの裾を掴んで離さない少女に話しかけた。

「お嬢ちゃん、お名前は?」
「…月乃」
「どこから来たの?」
「…わかんない」
「お父さんとお母さんは?」
「…わかんない」
「そっか。行くところなくて困ってるなら、ここにいる?」
「えっ…?」

うつむき加減でぼそぼそ言っていた少女が初めて顔を上げた。きらきらした目で見上げてくる。
あたしは安心させるようににっこりと微笑んで言った。

「とりあえず、おてて離そうか?」


ここは神楽坂霊感探偵事務所。
あたしは所長の神楽坂あかね。
人探しとか浮気調査とか、普通の探偵業務もするんだけど、幽霊絡みの案件や、幽霊からの依頼も受けつける探偵事務所である。
所員は人間はあたしだけ。
調査員はすべて幽霊。
見た目小学生の甚平姿の琥太郎、着物姿の関西弁のお姐さんが夏菜さん、軍服姿の高村祐一郎さんの三名。
それぞれ亡くなった時の年齢だったり服装だったりするのでちぐはぐな感じなんだけどね。

事務所的には幽霊ネットワークを使って人探しとか定評があり、そこそこ繁盛、というの変かもだけど、食べるには困らない程度に依頼は来る。
霊感の方の依頼もまあ来るんだけど、本当に幽霊が原因だったって話は結構少なくて。殆どが人間による仕業だったり、一番たち悪いのが、生霊。
本体は生きてるし、本体の無意識下で暴れ回るので、話が通じないことが多い。
まあ結局、怖いのは霊じゃなくて人間だ、って痛感したわけなんだけれども。

「留守中に依頼とかあった?」
「今のところ特には」

琥太郎がそう答えた瞬間、事務所の電話が鳴った。
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