9 / 15
9
しおりを挟む「……オキ? 言われた通り時間通りに来て、」
ガラリと突如開いた扉から顔を出したのは、あいつで。
俺とオキを視界に入れた瞬間に虚を疲れた表情から一転、ざわりと険しくなった。
「…あは、時間どーり。さっすがカイリ、ナイスタイミーング」
「………オキ。お前、何をしている?」
「え? 何が?」
コテリとあざとく首を傾げる彼に、あいつは苛立った顔をした。
「―――何をしていると、聞いている!」
「……っ、」
初めて聞く、あいつの怒声だった。
考えてみれば無理もない。血の繋がった兄が、義理の弟を組み敷いているのだ。
悪夢にさらに悪夢を重ねたような状況。動揺して、怒って、当然だ。
「(……あぁ、また俺は、あいつの、大切なものを、)」
―――壊して、しまう。
「……お、オキ……っや、…まず、退いて…、」
「なんでー? 今俺がお前を口説いてる最中なんだし、邪魔なのはあっちじゃん?」
「…は? ちょ、と……どこ触って…!」
するすると太腿に触れてくる腕に抵抗しながら、溜まった涙で未だ歪む視界の隅にあいつが映る。
ぐっと眉を寄せ、拳を握りしめる姿に、心臓が張り裂けそうになった。
「………っ、オキ…!」
やめて、これ以上、俺はもうあいつを傷つけたくないんだ。
あいつの大切なものを、壊したく…っ。
――ガンッ!
怒声よりも、大きな音だった。
ビシリと固まった俺に対し、してやったりという顔で振り返ったオキは、カイリによって蹴飛ばされ、転がる机を見て笑う。
「…あはは! 何。そんなに妬いたの? ほんっと、心狭いね、お前」
「…………黙れ」
「嫌だよーん。だって俺、お前のそういう顔が見たくて、わざとやってるし」
「………オキ…」
怒りを押し殺す、あいつの声。それをからかう彼の声。交互に飛び交うそれは、もう俺の理解の範疇を超えていた。
それでも、俺が理解できないそれを彼らは理解しているというだけで、嫉妬している自分がいることに気づかされ、嫌悪感と絶望を同時に味わう。
「(…………本当に…最っ低、)」
そう、一言で表すなら、まさにこの言葉が相応しい。
「………変に、ちょっかいをかけるなって言ったろ」
「えー? 返事はしたけど、分かったとは言ってないよー?」
「……っ。そういうのを屁理屈って言うんだが…?」
「だからー? てかさ、そっちがモタモタしてんのが悪いでしょ。俺はただお節介を焼いてるだけー」
「………っ、オキ!」
あぁ、もう聞きたくないよ。
思い知りたくない。これ以上、俺が彼に敵わないことなんて。あいつに俺が必要ないなんて。
……お願い、だから。もっと楽にーーー
「………いい加減にしろ! オキから、離れるんだ!!」
「………っ!!」
あぁ、あいつの特別に焦がれ、けれどあいつの何にもなれない俺の行き着く先なんて、分かりきっていたことじゃないか。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる