【完結】俺が一目惚れをした人は、血の繋がった父親でした。

モカ

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本編

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心地の良い倦怠感に促されるように、意識が浮き上がった。


目を開けると、窓から陽が燦々と差し込んでいて。もう朝を過ぎ、昼に近づいたぐらいの時間のようだった。

ぼんやりとそう認識しながら、ふと陽が自分に降り注いでいないことに気づいて顔を上げると、窓掛けが俺側のものだけ掛かったままだった。

父上が、気を遣ってくれたのかな…。

そう思いを馳せてハッとする。そうだ、父上は…?

ガバリと身を起こすと背中の傷が微かに痛んだ。昨日同様手当がされているし、記憶もないが寝間着も着ている。これも…父上が?


「………は、」


なるべく傷に響かないように動いて辺りを見渡すけれど、その姿はどこにもなくて。寝台の上に手を滑らせても、熱すら、跡形もなくなっていた。


「…………ゆめ、」


いや、流石にこの倦怠感は気のせい、ではない。はず。触れた熱を覚えているし…あらぬところもジンジンするし。…………でも、父上が、いない。


「………ぐず、」


天国からいきなり地獄に突き落とされたような気持ちになって、自分でもおかしいと思うけど涙が込み上げてきた。

視界が滲んでいくのを認識しながら俺の中の冷静な何処かの部分が、これからどうすべきか考えるべきだ、と思っていると、微かに扉が開く音がした。


「…テオン?」


父上の声がして、顔を上げると歪んだ視界で人影が近づいてきた。瞬きをすると溜まった涙が流れ落ちて、目の前が少しだけ鮮明になる。

ぼんやりと滲んで見える父上は、涙を流す俺を見て驚いているようだった。


「………ちち、うえ」

「おはよう、テオン。どうした?何故泣いている?呂律も回っていないが…」


優しい言葉と当たり前のように伸ばされる手を、断腸の思いで顔を背けて拒絶した。涙を拭おうとした手が行き場をなくし彷徨うのを横目に、瞼を固く閉じた。


ーー触れられたら、またその体温に溺れてしまう。


想いが通じたからといって、今までの関係を継続することも、かといって父上の隣に立つことも叶わない。どこまでいってもこの関係が不毛なことは、馬鹿な俺にだって分かっている。

だから、覚悟を決めなければ。


どんな結果になっても、この思い出だけで生きていける。


「…ーー父上」


意を決してから目を開け、父上の黄金を見上げ視線が絡み合った瞬間。いつの間にか後ろに回っていた腕に引き寄せられ、気づけば口付けをされていた。


「…ん、」

「……っち、……んん、…ぅえ、…ぁ」


咄嗟に抵抗したものの、昨夜で知り尽くされた身体はいとも簡単に征服されてしまい、力が抜けて父上に寄りかかるとゆっくりと唇が離れていった。

涙は、いつの間にかとまっていた。


「ーー何度も言わせないでくれ、テオン」


息も絶え絶えで見上げた父上は、黄金に仄暗い闇を灯しながら緩く笑んでいた。


「『お前を手放す気はない。』…俺は、お前の気持ちがないと知った上で縛り付けようとした人間だぞ?お前の心が俺にあるというのに手放す訳がない。だから、全て俺に委ねて、諦めなさい」

「……っ、」


考えていたことを伝える前に諭すような物言い、更に雁字搦めに縛るような言葉。

大きな掌で頬や目尻をすりすりと撫でられながら、それに恐怖を感じるよりも先にときめいてしまった俺は、本当に、どうしようもない。


「……いいん、ですか?」


息子としてではなく1人の人間として愛されている実感と、涙腺が壊れたのか、とまったはずの涙がじわじわと湧き上がってくるのが分かった。


「これからも…父上を好きで。……もう、父上を諦めようとしなくても、いいの……?」


しゃくり上げながらボロボロと泣く俺の涙を、今度こそ父上の指が拭ってくれた。

それでも涙はとまらなくて。顔を俯けてぐしぐしと拭おうとすると、両手を掴まれた。


「諦めようとしていたなんて、悪い子だ。………お仕置きが必要か?」


どこか楽しそうな響きを伴って放たれた言葉に顔を上げれば、滲んだ視界でも悪どい顔をして笑う父上が見えた。

あまり見ない表情と、お仕置きという言葉に、胸とお腹の奥がきゅんとする感覚を覚えて、無意識に父上に顔を寄せたとき。

ドン、と鈍い音がした。

思わず体を強張らせた俺と、何故か眉を寄せた父上。

音の発生源が分からず、辺りを見回すと再度鈍い音が聞こえた。

多分、音がするのは父上が入ってきた扉からだ。俺の推測があっていれば、あそこは隣の部屋への続き扉のはず。……ということは、父上の部屋に誰かがいる…?

嫌な想像が頭に浮かんだ瞬間、扉の向こう側から聞き慣れた声がした。


『父上‼︎兄様を起こすのにどれだけ時間をかけているのですか‼︎僕だって暇ではないのですよ‼︎早く兄様に会わせて下さい‼︎』


扉の向こう側、そしてその扉から少し離れている寝台まではっきりと聞こえる声で叫んでいるのは、弟のサディアだった。



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