1 / 15
1
しおりを挟む物心ついたときから、俺はそこに在った。
白く、四角い空間。
あるのはちょっとした本棚と、ご飯を食べるための机と椅子。そして、俺の背では届かない位置にぽつりと佇む窓だけ。
俺以外、たったそれっぽっちしかない白い空間が俺の世界の全てだった。
「おっはよー! アシュラ! 元気にやってるかー?」
「来てやったわよー!」
「おはようございます、調子はどうですか?」
何もないけどだからそこ完成された空間に、俺以外の存在はなかったけど。
その世界の外からくる仲良くしてくれる大人は、いた。
「ごめんね、アシュラ。私たちには、君が必要なのよ」
いつも優しいニイちゃん。
「だからって、お前に構ってやってるわけじゃないからな!」
やんちゃな、サン。
「辛い思いは、絶対にさせません」
俺のことを心配してくれる、イッチ。
「ーーーうん! ありがとう、みんな!」
変わっている、のだと思う。
その『普通』もただ本で読んだものでしかないけれど、本能的に感じていた。
俺の『日常』は『異常』だと。
「………アシュラ?」
「具合でも悪いの?」
「さては拾い食いしたな!」
「あんたじゃあるまいし…」
「あり得ませんね」
「ヒドっ!」
でもそんなことがどうでもよくなるくらい、その人たちは俺に良くしてくれた。
毎日、まいにち、心を込められた優しさを感じる度に、言い様のない気持ちが溢れる。
けれどそんな時は必ず、ぽっかりと空いている胸の空白が痛んで何かを訴えかけてくる。
…でも、
「あはは! 俺、元気だよ? 今日だってお昼のご飯、二杯もお代わりしちゃったし! みんな心配しすぎ」
笑って、そう答えるんだ。
溢れ出る前に、それを掬い上げて飲み干すことを繰り返していた。
きっとこの人たちに言うのは違う。だってこんなにも俺のことを気にかけてくれてるのに。
そんな風に言い訳をして、深く考えることを放棄していた。
なによりも、
「……元気にしてるか、ガキ」
その人が、いたから。
三人よりもここに来てくれる回数は少なかったけど、俺はここに来る人の中で一番好きだった。
「今日は来てくれたんだね! おいちゃん! さっきまでイッチとニィちゃんとサンが居たんだけどね!」
「……あぁ、知ってる」
「えぇ、何で!? すごいね、わかるんだ!」
「……まぁな」
いつも俺から話しかけてばかりで、その人が発する言葉は少なくて。けれど、くれる言葉はいつも想いが満ちていた。
聞かなくてもわかる。それが、本心かどうかなんて。
それだけその人の言葉は俺にとってもとても貴重で、そして、絶対だった。
「……なぁ、アシュラ」
「なぁに?」
呼ばれて振り向けば、その人は俺の首からさがるペンダントをなぞった。
空色に輝くそれを、同じ色の瞳に憂いを滲ませて見つめてから、願うように言ったんだ。
「……いつか、ここから出られたら、そしたら、俺がお前の行きたいところにどこでも連れてってやる」
「ほんと!? わかった! 俺、いつまでも待ってるよ、おいちゃんのこと!」
待ってろと言われたからには、本当にいつまでも待っているつもりだったんだ。
60
あなたにおすすめの小説
君のスーツを脱がせたい
凪
BL
学生兼モデルをしている佐倉蘭とオーダースーツ専門店のテーラー加瀬和也は絶賛お付き合い中。
蘭の誕生日に加瀬はオーダースーツを作ることに。
加瀬のかっこよさにドキドキしてしまう蘭。
仕事、年齢、何もかも違う二人だけとお互いを想い合う二人。その行方は?
佐倉蘭 受け 23歳
加瀬和也 攻め 33歳
原作間 33歳
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた
谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。
就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。
お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中!
液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。
完結しました *・゚
2025.5.10 少し修正しました。
青龍将軍の新婚生活
蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。
武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。
そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。
「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」
幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。
中華風政略結婚ラブコメ。
※他のサイトにも投稿しています。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
テーマパークと風船
谷地
BL
今日も全然話せなかった。せっかく同じ講義だったのに、遅く起きちゃって近くに座れなかった。教室に入ったらもう女の子たちに囲まれてさ、講義中もその子たちとこそこそ話してて辛かった。
ふわふわの髪の毛、笑うと細くなる可愛い目、テーマパークの花壇に唇を尖らせて文句を言っていたあの人は好きな人がいるらしい。
独り言がメインです。
完結しました *・゚
僕の歓び
晴珂とく
BL
道弥と有一は、交際一年半。
深い関係になってからは、さらに円満なお付き合いに発展していた。
そんな折、道弥は、親に紹介したいと有一から打診される。
両親と疎遠になっている道弥は、有一の申し出に戸惑い、一度は断った。
だけど、有一の懐の深さを改めて思い知り、有一の親に会いたいと申し出る。
道弥が両親と疎遠になっているのは、小学校6年生のときの「事件」がきっかけだった。
祖母に引き取られ、親と離れて暮らすようになってからはほとんど会っていない。
ずっと仄暗い道を歩いていた道弥を、有一が救ってくれた。
有一の望むことは、なんでもしてあげたいくらいに感謝している。
有一の親との約束を翌日に控えた夜、突然訪ねてきたのは、
祖母の葬式以来会っていない道弥の母だったーー。
道弥の学生時代の、淡く苦い恋が明かされる。
甘くてしんどい、浄化ラブストーリー。
===
【登場人物】
都築 道弥(つづき みちや)、25歳、フリーランスデザイナー
白川 有一(しらかわ ゆういち)34歳、営業部社員
常盤 康太(ときわ こうた)道弥の同級生
===
【シリーズ展開】
前日譚『僕の痛み』
時系列
『僕の痛み』→『僕の歓び』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる