ありふれた僕の異世界復讐劇

モカ

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死に損なった、先の話

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皐月奏という人間は、本当に平凡な学生だった。

両親と、兄弟は弟が一人。実家から一番近い高校に進学し、顔も成績も身体能力も平均をキープ。

特出したものなんて何もない、強いて言えば本が好きなだけのただの少年。それが、俺だった。

それなのに……



「ようこそ、我が同志よッ! 今ここに席は埋まった…ッ、復讐を開始するのだ!!」


召喚される前の状況は、あまり覚えていない。

ただ、気付いたらこの世界に喚ばれていた。

読めない文字で書かれた魔法陣のようなものの上に転がり、純白を纏った大勢の人間にただ見下ろされて。

もちろん頭は真っ白で、中央の人物が難しい言葉を用いて俺を歓迎していることだけは、意識のどこかで理解していた。


「第四席に相応しき、無限にも等しい可能性を持つ者よ! 貴殿の名は?」


手を差し出し、醜悪な笑みで俺を見下ろす男を、呆然と見上げ、


「……………皐月、です、」


ーーかろうじて苗字を名乗った俺に、拒否権なんて、あるはずがなかった。

この手を取らないなんて選択を、あの場面で出来るはずもなかったんだ。








「―――っ、」


はっと意識が浮上した。

ぱち、とひとつ瞬きをして、首を回して周囲を確認した。

見たこともない、綺麗な部屋だ。真っ白な天井に、寝かされているベッドはふかふかで、傍らに水の入ったコップと、僅かばかりの果物が置かれている。

清潔感のある部屋。こんなの、ウチの本部にはなかったはずだけど…。


「…………」


ぼんやりと、瑞々しい果実を滑る雫を見ながら、ここはどこだろうと思考する。


「………………俺は…」


そうだ、あの最終局面で、俺はシノノメを殺したのだ。

首謀者を炙り出すことにも成功して、もう何も未練なんて、と思って。


「………はぁ、よりにもよって、なんで…」


脳裏に過った、透き通るような水色。ここまでか、と覚悟すらした、絶妙なタイミングで割って入ってきた、靡く漆黒と、翻る銀色。


「(想定していた中で、一番の最悪の事態だな…)」


ーー出来ることなら、あそこで死んでおきたかったのに。




「…お、起きたのか」


ガチャと音がし、この部屋の扉が開いて見覚えのない男が入ってきた。

鎧を解いてはいるが、漆黒のマントを翻し剣を装備している彼は、恐らく騎士なのだろう。…なら、ここにいるのはルイズさんの計らいなのだろうか。


「……あの、」

「あぁいい、喋んな。介抱をしちゃいるが、オラァお前のこと、まだ信用しちゃいねぇ」

「……そう、……………そう、ですよね」


問う前に、お礼を言う前に、ばっさりと切って捨てられた言葉に少しながら傷つく。

恐らく表情に出ていたろうが、それでも取り繕うように笑みを浮かべた。


「……あの、でも、ありがとうございました。それで、ここは、」

「…王都だよ、ここは王城の鍛錬場の仮眠室みたいなとこだ」

「………そう、ですか、」

「ルイズさんは、今日は多分ここにはこれねぇだろ。明日は来るって言ってたし、とりあえずこの部屋から出ねぇで大人しくしてろ。用を足すときは、そこの部屋を使え。じゃあな」


一息に言って、用は済んだとばかりに手に持っていた水の入ったガラス容器を枕元に置いて、男はさっさと部屋を出て行く。

その背中を見送り、ガチャリと閉まった扉を確認してから、ゆっくりと上体だけを起こした。


「…………」


改めて見渡すものの、先程と代わり映えのするものなどなく、ひっそりとため息だけをついた。

でも驚いた。問答無用で牢屋に入れられても仕方ないぐらいだと思っていたのに。こんな清潔感のある部屋で、介抱されてるなんて………それも、ルイズさんの計らいだろうか。

だとしたら、申し訳ないことをした。




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