【R18】旦那様が閨を共にしないと言ったので

結城ユキチ

文字の大きさ
34 / 52

チャンスのタイミング

屋敷に戻ると、アレクセイは私室にアリスティアを呼び、長椅子に並んで座らせてから話し始めた。

「先日の夜会でアリスティアのドレスに、ワインを掛けた者が誰か判明した」
「何方ですか?」
「ベルティエ侯爵の孫娘である、ソフィーという令嬢だそうだ。目撃者がいたらしい」


ソフィーはイザベラの従姉妹であり、他家に嫁いだベルティエ侯爵の娘が産んだ子である。実家は父から代替わりしていて、兄が家督を継いでいる筈だ。ソフィーは幼少の頃から、領地にいる家族と離れて王都の侯爵邸で暮らしていたので、アリスティアは昔から顔見知りだった。

「そうですか」

アリスティアが静かに一言返すのを聞いてから、アレクセイは話を続けた。


「ソフィー嬢には今後王宮での夜会など、出入を禁止する事も検討しているが」
「その件について、少し待って頂いてもよろしいでしょうか?明後日私の実家で、妹がお茶会を開くのですが、 ソフィーの事も招待しております。そこで、本人から直接事情を聞いてみようと思います」

「事情?」

アレクセイは訝しんだ目で、アリスティアを見る。ドレスにワインを掛けるのに、嫌がらせ以外の事情があるのか疑問だ。アリスティアはあの件について、珍しく怒りを露わにしていた記憶がある。しかし現在は犯人の名前を聞いても、落ち着き払っていた。

「事を大きくしない方が、話しやすい場合もあるでしょう」
「アリスティアがそういうなら。だが今後また何かしてきたら、相応の対応をさせて貰う」
「はい。その時は、頼りにさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ。勿論だ」

頼りと言われるなんて意外で、喜びと驚きにより言葉を失いそうになったが、持てる威厳を前面に押し出して頷いた。


「あの……そこで、急で申し訳ないのですが、明日一日だけ実家に泊まりたいと思っております。妹が始めてお茶会を主催するのです。今迄妹は、わたくしの隣で補佐的な立ち回りをしていたのですが、何だか心配で……。過保護ですみません」

「そうか、構わないが」

返事をした直後、アリスティアは家族思いなのかと感心しつつ、アレクセイの頭をとある言葉が過ぎった。以前ドレスを汚された時に言っていた『貴族社会的に殺す』という言葉が脳内を反芻している。

(まさか前日入りして仕返しの策を練りつつ、罠を張ろうとしているとかではないよな)

真意を測りかね、固まったまま微笑を貼りつかせた。そんなアレクセイの隣で、アリスティアは口元を綻ばせる。

「ありがとうございます。それと良かったら旦那様も、ご一緒致しませんか?わたくしだけ実感に帰るのも変ですし。リュシエール家での晩餐会を兼ねて、旦那様をご招待させて頂きたいのですが」

「いや、この数日仕事が立て込んでいて、明日の帰宅時間も何時になるか分からない状態なんだ。アリスティアは実家でゆっくりしてくるといいよ」

アレクセイが告げると、アリスティアは視線を落とした。

「……そうですか、お仕事お忙しそうですしね。急で申し訳ありませんでした。
それに私の実家だと、夜はわたくしと同室になってしまいますしね」

「え」

一般的に夫婦とは同じ部屋で夜を過ごすもの。
この屋敷意外で、シルヴェスト夫妻が寝所を別にしている事を知られる訳にはいかない。
婚姻前のアレクセイなら気にする必要はなかったが、今は決して妻と不仲だと思われる訳にはいかない。
王命での婚姻は中々覆らないように考えられるが、万が一のことを考え、これ以上夫婦間の問題を作る訳にはいかない。決してこの結婚に横槍を入れさせてはならないのだ。 

幸い夫婦仲は良好だと世間で認識されている。

にも関わらず、妻の実家で寝所を別にするなんて出来る訳もなく、アレクセイがアリスティアを妻として扱っていないと思われてしまう。

という事は逆を言えば、アリスティアと必然的に同衾出来たという事だ。

氷の棘がアレクセイの胸に深く突き刺さり、アリスティアの言葉を遅れて理解すると、ようやく痛みが走った。

「それでは、失礼致します」
「……」

アリスティアは礼をすると、優美な所作で部屋から出ていった。

(しまった!!アリスティアと同衾出来るチャンスを、自分から逃してしまった!!)


この事態は悔やんでも悔やみきれないが、仕事が立て込んでいるのも事実であり、発言を撤回する事は出来ない。
一人残されたアレクセイは、アリスティアが出て行った扉を見つめながら、ただただ呆然と失意にくれるのだった。
感想 198

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──