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和戸 早雲
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東京の浅草にある兄の探偵事務所、そこで行方不明になっている兄に繋がる手がかりを隆太郎くんと一緒に探していたけれど、何の手がかりも得られないまま終電の時間が差し迫っていた。そんな最中に探偵事務所のガラスドアがノックされた。
「あのー すみません」
ドアの外側から聞こえてきた声は、若い男の子の声。ガラスから透けて見えるその恰好は、ブレザーの制服を着て、学生カバンを手にしているようにも見える。
「こんな時間に、誰だろう…?」
ドアを開けると、そこには高校生が立っていた。少しあどけなさの残るその彼は、美青年というよりは、美少年と言った方がしっくりとくるほど、若干の幼さも見える。探偵事務所に高校生のお客さん? それもこんな遅い時間に? 東京ではこんな時間に制服を着て出歩いていても補導されたりしないのかな?
不思議そうにその高校生を見つめていると、少年は目を見開いてホッとしたような表情を見せた。
「やっと、会えた…」
「…え?」
パソコンのアカウントに入るパスワードを解読しようとしていた隆太郎くんが、ちらりとこちらを見て、それまでせわしなく動かしていたキーボードを打つ手を止めた。
「この前会いに行ったんですけど、会わせてもらえなくて」
「あの… どちら様ですか?」
「あぁ、こんな格好してるからわからないですよね。和戸です」
「和戸…くん? どこかで、会ったことがあったかな?」
「いえ、妹さんとお会いするのは、初めてです」
「…妹さん?」
「はい、実は僕… こちらで探偵をされている望月さんにある調査を依頼してまして。妹さんのことは、何度か聞かせて頂いてました」
「?????それで、こんな遅い時間に、どうしたの?」
「依頼していた件で、望月さんに報告がありまして」
「こんな時間に?」
「寝ていたので、こんな時間にしか来れなくて…」
「残念だけど、お兄ちゃんとは今、連絡が取れないの。それに、こんな時間に高校生が探偵事務所に来てるって通報されたら、色々と問題があると思うの」
「高校生…? あぁ、そうでしたね。それはたしかに…」
「だから、今日のところは帰って… 連絡があるかはわからないけど、何か兄に報告があるなら、メールで連絡した方がいいと思うよ。しばらく、ここには戻ってないみたいだから」
「はい… わかりました」
「家は近いの?」
「はい、地元なんで」
「私もできるだけいるようにするから、昼ならいつでも来ていいよ」
「でも…向こうだと、妹さんに会いに行っても、執事さんが通してくれないんで…」
「それなら大丈夫。私から言っておくから。和戸くんだったわよね? 伝えておく」
「あ、はい。それなら… よろしくお願いします」
和戸くんは、そう言うと礼儀正しく頭を下げて事務所を出て行こうとした。
「ちょっと待って… 和戸くん」
最初、あまりに自然すぎて気付かなかった。
「執事って、なんのこと?」
「なんのことって、セバスチャンさんですよ。メイドさんに頼んでも、書置きを頼んでも、相手にしてくれなくて… 病院に行ったとき、偶然いらっしゃるって聞いて偽名使って会いに行ったのに、それでも通してもらえなくて。今日、ようやくお会いできたんですから」
「…セバスチャン? ちょっと何言ってるの?」
「何って…」
「病院て、どこの病院のことを言ってるの?」
「たしか、聖バーソロミュー病院でしたよね」
「…どういうこと?」
「どうして、和戸くんが… 向こうのことを知ってるの?」
「もしかして、妹さん。気付いてないんですか?」
「あのー すみません」
ドアの外側から聞こえてきた声は、若い男の子の声。ガラスから透けて見えるその恰好は、ブレザーの制服を着て、学生カバンを手にしているようにも見える。
「こんな時間に、誰だろう…?」
ドアを開けると、そこには高校生が立っていた。少しあどけなさの残るその彼は、美青年というよりは、美少年と言った方がしっくりとくるほど、若干の幼さも見える。探偵事務所に高校生のお客さん? それもこんな遅い時間に? 東京ではこんな時間に制服を着て出歩いていても補導されたりしないのかな?
不思議そうにその高校生を見つめていると、少年は目を見開いてホッとしたような表情を見せた。
「やっと、会えた…」
「…え?」
パソコンのアカウントに入るパスワードを解読しようとしていた隆太郎くんが、ちらりとこちらを見て、それまでせわしなく動かしていたキーボードを打つ手を止めた。
「この前会いに行ったんですけど、会わせてもらえなくて」
「あの… どちら様ですか?」
「あぁ、こんな格好してるからわからないですよね。和戸です」
「和戸…くん? どこかで、会ったことがあったかな?」
「いえ、妹さんとお会いするのは、初めてです」
「…妹さん?」
「はい、実は僕… こちらで探偵をされている望月さんにある調査を依頼してまして。妹さんのことは、何度か聞かせて頂いてました」
「?????それで、こんな遅い時間に、どうしたの?」
「依頼していた件で、望月さんに報告がありまして」
「こんな時間に?」
「寝ていたので、こんな時間にしか来れなくて…」
「残念だけど、お兄ちゃんとは今、連絡が取れないの。それに、こんな時間に高校生が探偵事務所に来てるって通報されたら、色々と問題があると思うの」
「高校生…? あぁ、そうでしたね。それはたしかに…」
「だから、今日のところは帰って… 連絡があるかはわからないけど、何か兄に報告があるなら、メールで連絡した方がいいと思うよ。しばらく、ここには戻ってないみたいだから」
「はい… わかりました」
「家は近いの?」
「はい、地元なんで」
「私もできるだけいるようにするから、昼ならいつでも来ていいよ」
「でも…向こうだと、妹さんに会いに行っても、執事さんが通してくれないんで…」
「それなら大丈夫。私から言っておくから。和戸くんだったわよね? 伝えておく」
「あ、はい。それなら… よろしくお願いします」
和戸くんは、そう言うと礼儀正しく頭を下げて事務所を出て行こうとした。
「ちょっと待って… 和戸くん」
最初、あまりに自然すぎて気付かなかった。
「執事って、なんのこと?」
「なんのことって、セバスチャンさんですよ。メイドさんに頼んでも、書置きを頼んでも、相手にしてくれなくて… 病院に行ったとき、偶然いらっしゃるって聞いて偽名使って会いに行ったのに、それでも通してもらえなくて。今日、ようやくお会いできたんですから」
「…セバスチャン? ちょっと何言ってるの?」
「何って…」
「病院て、どこの病院のことを言ってるの?」
「たしか、聖バーソロミュー病院でしたよね」
「…どういうこと?」
「どうして、和戸くんが… 向こうのことを知ってるの?」
「もしかして、妹さん。気付いてないんですか?」
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