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どん底
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日が昇る。暗闇からだんだんと青く明るくなり、枝葉の隙間から暖かい光の帯が伸びてテントを照らし出す。
小鬼殲滅ギルドの野営キャンプ。その端っこの小さなテントの中で毛皮を着こんで丸まったいるのはユウトだった。
ヨーレンの救護テントを出たのちガラルドに革製の防具を着付け野営キャンプのルールについてごく簡単な説明があった後、あてがわれた小さなテントで一晩を明かす。とは言え今にも切れてしまいそうなほど張り詰めてた精神状態では一睡もできなかった。
次の朝から戦闘の修練が始まる。鞘付きのショートソードを手渡されそれを振ることがガラルドからの課題だった。ガラルドから手本を見せられたのは一回。その動きを真似しろという内容だった。
ユウトはガラルドの言った通りに課題へ取り組む。キャンプの中央、だれからも見通せる目立つ場所でまるで監視されるようにひたすら剣を振る。場所の指定もガラルドだったので仕方がなかったがかなり目立ち、周りからの冷ややかな視線がユウトの精神を圧迫する。
ガラルドも付きっ切りというわけではなく他の隊員に指示を出したり調査に出たりしていたためユウトは一人でいる時間が長かった。まるで見世物のようで落ち着かず、ある種の拷問ではないのかと思うほどに辛いものだった。
そんないたたまれなさを振り払うようにただただがむしゃらに振るだけだった。
殺傷するための道具を扱うということもユウトにとっては精神的な重圧になる。慣れ親しんだゲームなどで使用する剣とは全く訳が違う。手になじまず実際の重量以上に重く感じる。
ここで怠けたりあきらめてしまえばすぐに殺されてしまうかもしれないという悪い想像が頭一杯に駆け巡り冷静さも失っていた。
何も考えず振るばかりでは当然すぐにばてきってしまいユウトは地面に座り込んでしまう。疲労困憊の身体と不安と焦りで埋め尽くされた頭は著しく思考力を落とし嫌な記憶を掘り起こしだす。
出ない結果。実らない努力。届かない目標。
楽しみ方も忘れ、ただ生活だけを追いかける日々。何のために生きてどうして生きているのかをふと考えてしまう元いた世界の記憶。
全く知らないこの世界に来たこと、直接命のやり取りをすることで高揚した精神状態が悪い意味で冷静になってしまい無力感が渦を巻いてユウトを飲み込もうとしている。
「ユウト。聞こえているかユウト」
名を呼ばれていることに気づき顔を上げるとガラルドが立っていた。
顔を見せない鎧兜で表情を読み取ることはできなかったがへたり込んでしまっているユウトからは見下げられているような気さえしている。
「今の状態がお前のどん底だ。敵前でその状態では死しかない。その状態にならないために工夫しろ」
「え?」
ガラルドの唐突な物言いにユウトはあっけに取られてしまう。蔑みもないただ平坦な口調で語る。ただただ身もふたもない。ユウトはこれをどう解釈すればいいのかわからず混乱した。
ガラルドはさらに言葉を続ける。
「今日はここまでだ。救護テントのヨーレンに食事を用意させてあるから食べておけ。次は明日だ。残りの時間で疲れを取っておけ」
そう言うとガラルドはその場から去っていった。
ユウトは文句の一つも叫びたかったが疲れ切った頭と体では何も言葉が出てこず一時ほうけていた。すると唐突に腹がぐぅと鳴ったのを聞いてはっと我に返りフラフラと立ち上がると、救護テントへと歩き出す。手に持った剣に鞘の隙間から光が漏れていたがユウトが気づくことはなかった。
救護テントの中に入るとヨーレンが前日と同じように椅子に座っている。ヨーレンはユウトに気づいて声を掛けてきた。
「お疲れ様、ユウト。そこの椅子に座るといい」
ユウトは返事をする気力もなく促されるままに椅子に座る。
「修練が始まってそんなに経っていないけど随分疲れ切っているね」
「オレはガラルドがどんな人間かわからないってことがよくわかったよ」
ユウトの物言いにヨーレンは何かを悟ったのか苦笑した。
「あの人にはみんな振りされっぱなしだよ。まぁあの過剰な実直さと強引さに惹かれるのかもしれないけどね」
ヨーレンはそう言いながらポットのような容器に水瓶から水を入れ石が中央に据えられたコンロにかける。
「・・・なんだそれ」
ユウトはガラルドの理不尽さしか感じとれなかったが疲労困憊で腹を立てる気力もわかない。
「あの人は誰かに何かを教えることはかなり不得手だから仕方ないとあきらめるしかないかな。それでもユウトの自身の追い込み方はガラルド隊長の予想を超えてたと思うけどね。正直申し訳なさも感じているんじゃないかな」
短い付き合いだがガラルドならありえるとユウトはうなだれる。そうしているとポットから湯気が上がりだした。ヨーレンはそのポットを別に用意していた器に注ぎさらにその器から木製のコップへ移してユウトに手渡す。
「疲労回復作用のあるお茶だから飲んでおくといい。食事はそこにあるものを食べて。食事が終わったら疲労を取り除く治癒魔術もかける」
「・・・わかった。よろしくたのむよ」
釈然としない気持ちを抱えたままユウトはヨーレンから受け取ったお茶に口をつける。ユウトにとって初めて飲んだお茶だった。甘い味が強くほのかに苦みがある。妙においしいと感じ、先ほどまでの修練ですり減った精神が癒される気がした。
小鬼殲滅ギルドの野営キャンプ。その端っこの小さなテントの中で毛皮を着こんで丸まったいるのはユウトだった。
ヨーレンの救護テントを出たのちガラルドに革製の防具を着付け野営キャンプのルールについてごく簡単な説明があった後、あてがわれた小さなテントで一晩を明かす。とは言え今にも切れてしまいそうなほど張り詰めてた精神状態では一睡もできなかった。
次の朝から戦闘の修練が始まる。鞘付きのショートソードを手渡されそれを振ることがガラルドからの課題だった。ガラルドから手本を見せられたのは一回。その動きを真似しろという内容だった。
ユウトはガラルドの言った通りに課題へ取り組む。キャンプの中央、だれからも見通せる目立つ場所でまるで監視されるようにひたすら剣を振る。場所の指定もガラルドだったので仕方がなかったがかなり目立ち、周りからの冷ややかな視線がユウトの精神を圧迫する。
ガラルドも付きっ切りというわけではなく他の隊員に指示を出したり調査に出たりしていたためユウトは一人でいる時間が長かった。まるで見世物のようで落ち着かず、ある種の拷問ではないのかと思うほどに辛いものだった。
そんないたたまれなさを振り払うようにただただがむしゃらに振るだけだった。
殺傷するための道具を扱うということもユウトにとっては精神的な重圧になる。慣れ親しんだゲームなどで使用する剣とは全く訳が違う。手になじまず実際の重量以上に重く感じる。
ここで怠けたりあきらめてしまえばすぐに殺されてしまうかもしれないという悪い想像が頭一杯に駆け巡り冷静さも失っていた。
何も考えず振るばかりでは当然すぐにばてきってしまいユウトは地面に座り込んでしまう。疲労困憊の身体と不安と焦りで埋め尽くされた頭は著しく思考力を落とし嫌な記憶を掘り起こしだす。
出ない結果。実らない努力。届かない目標。
楽しみ方も忘れ、ただ生活だけを追いかける日々。何のために生きてどうして生きているのかをふと考えてしまう元いた世界の記憶。
全く知らないこの世界に来たこと、直接命のやり取りをすることで高揚した精神状態が悪い意味で冷静になってしまい無力感が渦を巻いてユウトを飲み込もうとしている。
「ユウト。聞こえているかユウト」
名を呼ばれていることに気づき顔を上げるとガラルドが立っていた。
顔を見せない鎧兜で表情を読み取ることはできなかったがへたり込んでしまっているユウトからは見下げられているような気さえしている。
「今の状態がお前のどん底だ。敵前でその状態では死しかない。その状態にならないために工夫しろ」
「え?」
ガラルドの唐突な物言いにユウトはあっけに取られてしまう。蔑みもないただ平坦な口調で語る。ただただ身もふたもない。ユウトはこれをどう解釈すればいいのかわからず混乱した。
ガラルドはさらに言葉を続ける。
「今日はここまでだ。救護テントのヨーレンに食事を用意させてあるから食べておけ。次は明日だ。残りの時間で疲れを取っておけ」
そう言うとガラルドはその場から去っていった。
ユウトは文句の一つも叫びたかったが疲れ切った頭と体では何も言葉が出てこず一時ほうけていた。すると唐突に腹がぐぅと鳴ったのを聞いてはっと我に返りフラフラと立ち上がると、救護テントへと歩き出す。手に持った剣に鞘の隙間から光が漏れていたがユウトが気づくことはなかった。
救護テントの中に入るとヨーレンが前日と同じように椅子に座っている。ヨーレンはユウトに気づいて声を掛けてきた。
「お疲れ様、ユウト。そこの椅子に座るといい」
ユウトは返事をする気力もなく促されるままに椅子に座る。
「修練が始まってそんなに経っていないけど随分疲れ切っているね」
「オレはガラルドがどんな人間かわからないってことがよくわかったよ」
ユウトの物言いにヨーレンは何かを悟ったのか苦笑した。
「あの人にはみんな振りされっぱなしだよ。まぁあの過剰な実直さと強引さに惹かれるのかもしれないけどね」
ヨーレンはそう言いながらポットのような容器に水瓶から水を入れ石が中央に据えられたコンロにかける。
「・・・なんだそれ」
ユウトはガラルドの理不尽さしか感じとれなかったが疲労困憊で腹を立てる気力もわかない。
「あの人は誰かに何かを教えることはかなり不得手だから仕方ないとあきらめるしかないかな。それでもユウトの自身の追い込み方はガラルド隊長の予想を超えてたと思うけどね。正直申し訳なさも感じているんじゃないかな」
短い付き合いだがガラルドならありえるとユウトはうなだれる。そうしているとポットから湯気が上がりだした。ヨーレンはそのポットを別に用意していた器に注ぎさらにその器から木製のコップへ移してユウトに手渡す。
「疲労回復作用のあるお茶だから飲んでおくといい。食事はそこにあるものを食べて。食事が終わったら疲労を取り除く治癒魔術もかける」
「・・・わかった。よろしくたのむよ」
釈然としない気持ちを抱えたままユウトはヨーレンから受け取ったお茶に口をつける。ユウトにとって初めて飲んだお茶だった。甘い味が強くほのかに苦みがある。妙においしいと感じ、先ほどまでの修練ですり減った精神が癒される気がした。
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