ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
30 / 213

騎士

しおりを挟む
 砦の屋上からは周辺が見渡せ、風が心地いい。

 しばらく橋を見つめているユウトとレナに屋上通路の方から一人、近づいてくるのをユウトは感じ取る。自然と顔が近づく人の方へ向いた。

 黒い光沢を持った鎧を着込んだ男だとわかる。左腕には円形をした小型の盾のようなものが埋め込まれたガントレットで腰にはロングソード装備していた。一目で一般人ではないことが分かる。まさに騎士といった姿だった。

 短く刈り上げた黒髪に琥珀色した瞳で表情は穏やかで精悍な顔つき。背は高い。

「突然申し訳ない。ここは夜間の一般人の立ち入りを規制していてね。もうすぐ日も沈むからそろそろ降りてもらってもかまわないだろうか」

 男はにこやかで丁寧な口調で語りかけてきた。

「そう。夜景も綺麗で前は夜も居て大丈夫だったんだけど残念ね。わかったわ」

 レナは素直に注意に従う。ユウトはというとさっきまでの感動から現実に引き戻され改めてレナを意識してしまい必死にこらえていた。

「すまないね。ここ最近、魔獣の出現する頻度が高くなっていて用心のために規則が変わったんだ」

 理由まで教えてくれる騎士の律義さと人当たりの良さにユウトは感心する。

「そっか。騎士も大変そうね。ご武運を」
「ありがとう」

 そんなやり取りをしてレナは上ってきた階段の方へ歩き出す。ユウトもレナに着いて、すこし距離を取りつつ歩き出そうとした時だった。

「ちょっと待ってくれ。君、チョーカーはどうしたのかな」

 騎士の男はレナを呼び止める。レナは罰が悪そうに返答した。

「あー・・・。そうね。ちょっと訳があって今はつけてないんだ。これから大工房に行って着け直してもらう予定なんだけど」

 騎士の緊張が増すのがユウトにはわかる。一瞬で空気が張り詰めた。

「申し訳ないが連行させてもらう。女性がチョーカー未着用で都市を出ることは厳禁だということは知っているね。どうやって検査をすり抜けれたかも含めて話を聞かせてもらうよ」

 騎士は重たい一歩を踏み出しレナに迫る。

「あたしは小鬼殲滅ギルドの一員でいろいろあってここにいるだけなんだって」

 レナは焦りからか言い訳には苦しい返答をする。それを聞いた騎士には怒りの感情がにじみ出していた。

「ギルドの一員ならばあのチョーカーの意味をより理解しているはずだろう!ゴブリンの増殖を防ぐために強制され死の首輪をはめさせられ続けた婦女子の方々の献身を!その努力を君は無に帰するつもりか!」

 これまでの丁寧な物腰だった騎士の怒声にユウトは圧倒される。そしてゴブリンの増殖を防ぐためという文言が強烈に引っかかった。これまで断片的だった魔導チョーカーについての疑問が解けそうになる嫌な予感をユウトは感じている。

 しかし、その予感はかき乱される。怒りよりもより激しい憤怒の渦がレナから発せられだしていた。

「・・・偉そうに!」

 ねじ切るようにつぶやくレナの言葉には言い表せない暗く混とんとした感情が含まれている。

「ゴブリンを軽視し踏みにじられていく小さな村を、その婦女子を見捨ててきた王族の小間使い騎士が語るんじゃない」

 レナは完全に頭に血が上っているようだった。

「連行するなら・・・力づくでやってみろ。アンタ達に庇護してもらうようなか弱い女じゃないって証明してやる」

 レナは担いでいた短槍を構える。半身になって脚を開き腰を低く落とした。

「抵抗するというなら・・・仕方ない。少し痛い目をみてもらうぞ」

 騎士はレナが構えたのをみて左手の小さい盾を前方に突き出して脚を開いて構える。剣は抜かない。レナの方も剣先の鞘は取らなかった。

 ただレナの殺気は本物だとユウトにはわかる。実力差はわからないが高い集中力と力みのない自然な構えをみるにレナも騎士も実力者であることは武術の未熟なユウトにも理解することができた。そしてきっとただじゃすまないことも。

 しかしユウトも決して冷静ではなかった。魔導チョーカーの意味、ゴブリンが何をしてきたのか、目の前の一触即発の状況、収まらない劣情。いくつもの問題を抱えユウトもパニック寸前の中、この状況の打開策を模索する。

 レナと騎士のせめぎ合う集中力が臨界に達しようしたタイミング目掛けユウトは二人の間に割って入った。

「待ってくれ!二人ともいったん落ち着こう!」

 ユウトの完璧なタイミングでの割込みによって二人とも完全に出ばなをくじかれ、一歩体制を崩してしまう。

(よし!うまくいった)

 咄嗟の判断がうまくいきユウトは心の中で自画自賛する。

 だが突拍子もなく動いた結果ユウトの顔を隠していたフードが舞い上がる。フードの毛皮として擬態していたセブルは必死に外れない様にじたばたともがいて努力した。だが努力むなしく、セブルをあざ笑うような一吹きの風がフードを押し落とす。ユウトの異形の顔が夕焼けの明かりに照らし出された。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...