ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
31 / 213

攻防

しおりを挟む
「あっ」

 ユウトが思わず声をもらす。その声の空気の震えが届くより早く、騎士はすでに動き出していた。
 一瞬の思考も挟まない。まるで腕が自律したように自然な動きで右手でロングソードを引き抜き振りかぶった。

 ユウトはその動きをただ見ている事しかできない。振り上げた騎士の剣がひるがえり後は振り下ろすだけとなった瞬間、初めて騎士の殺意が発せられる。その殺意を感じとりやっとユウトの身体は動き出した。

 すでに剣先は弧を描きだしている。

 とれる行動は絶望的に少ない。かわすには遅すぎた。

 ユウトは腰の魔剣に手を伸ばし掴む。

 騎士の剣の軌道を予測、そのライン上対角に光の刃を展開。

 光の刃に実体はない。受け止め防御することはかなわず、できるのは超高温で焼き切ることのみ。

 ユウトは力を込める。

 どこまでも細く、どこまでも熱く、刃を展開せよと。

 剣の刃と光の糸がついに触れる。

 剣の速度はそのままに剣先だけが焼き切れた。だがその剣先は勢いそのまま首元へ飛びかかる。

 重さ、切れ味は未知数。触れればただでは済まない。

 その時ユウトの首に這う黒い毛の塊。

 それは頬から首筋にかぶさり光沢を放った。

 黒いものに触れた剣先は傷も付けずに弾かれた。

 騎士の初手は不発に終わる。

 しかし騎士は臆さない。剣はその斬撃の成否にかかわらず、すでに二撃目へと移行していた。

 剣先を落とされようといまだ剣としての機能はまだ果たせる。

 焼き切れた剣の鋭利な切り口がユウトを捕えようとした瞬間、軌道がそれる。

 ユウトの後方から伸びる槍が騎士の身体を押し込んでいる。

 わき腹に触れるすんでのところで剣は届かない。

 騎士は体制を崩す。その隙はユウトが反撃を行うのに十分な間だった。

 相手の高い実力をユウトはこの数手で感じ取っている。手加減はできない。

 剣先を切り落とした刃そのままに騎士へ向かって振り放つ。

 その時ユウトは確かに見た。波紋。あるはずのない水面の壁から波の輪が広がり騎士が歪んで見える。波紋の発生する中心は騎士の盾だった。

 光の刃が波紋に触れる。すると刃は波紋に誘われ波打ち曲がった。

 そして波紋はさらに早く大きく震え出し、空気の壁がユウトを押し飛ばす。その威力はユウトの後方で槍の突きを放ったレナまでおよんだ。

 ユウトは異変に気付いて一瞬身構えたおかげか飛ばされつつも体制を維持する。しかしレナは無理をして槍を押し込んだせいか自身の体制をうまく立て直せないでいた。ユウトは咄嗟にレナと床との間に自身を滑り込ませ衝撃を緩和させる。セブルも全身を目一杯膨らませクッションになりようやく二人は静止した。

 仰向けで床に横たわった二人だったがレナは素早く立ち上がり槍を構える。レナがすぐに立ち上がったおかげでユウトの視界は開けた。レナの残り香に頭がくらっとしたが目の前の脅威へと全力で意識を振り向ける。この騎士の戦闘能力なら今の隙に攻撃を見逃すはずはなかった。

 しかし騎士は動いていない。構えた盾はそのままに何か動揺しているようにユウトには見えた。先ほどまでの殺気は感じられない。

「ソレは何だ?魔物なのか?」

 騎士はレナに問う。吹き飛ばされた距離分、騎士は声を張り上げた。

 瞬間の攻防の過程から騎士はまったくの想定外な推論が導き出されたのだろうとユウトは考える。

「魔物じゃない。彼の名はユウトだ。討伐遠征で保護されたゴブリンの姿にされた人。
 あたしのチョーカーは今、ユウトに着けられている。使用権限はギルドマスターガラルド」

 騎士はグッと黙り込む。瞳を閉じ眉間にしわをよせ苦悶の表情をした。そして自然な表情になり瞳を開けると構えを解く。剣先が切り落とされたロングソードを鞘に戻した。

「信用しよう。僕は調査騎士団所属ディゼル=ストラード・・・非礼を詫びる」

 そう言うとディゼルは首を前に倒す。レナはその様子に驚いていた。

「騎士が詫びるなんて・・・」

 ささやくような独り言をユウトは聞き取る。レナも構えを解いてふぅと息を吐いて脱力した。

「あたしの未熟さから起こったこと。この件はなかったことにしてもらいたい」

 レナはユウトの方を向きそういうことでいいか、と尋ねる。ユウトはうなずいた。

 そこへ数人の兵士が城壁の屋上へ集まってくるのがユウトにはわかる。金属のこすれる音、足音が聞き取れた。ユウトはフードをかぶり顔を隠す。

 鎧を身に着けた兵士が集まり出す。殺気はない。おそらく騎士が使った盾の不思議な能力の発動音を聞きつけたか魔剣の光できづいたのだろうとユウトは思った。

 集まった兵士たちは状況が分からずあたふたしてユウトたち三人から距離をとっている。その兵士達をかき分け周りの兵士とは違う装備の男が急いでディゼルに近づいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...