97 / 213
過多
しおりを挟む
レナははっきりと確認すると突然、歩きだす。乱暴な足取りで向かう先は部屋に入ってきた扉だった。レナは勢いよく扉をあけ放ち部屋を出ていく。ユウトはレナを追いかけようと席を立とうとしたが腰が浮いたところでそれ以上椅子から離れることができなかった。
ひじ掛けに置いた手が離れないことがわかる。ユウトはジヴァをどういうつもりだという視線でにらみつけ、ジヴァはその視線に答えた。
「交渉はまだ続いている。お前さんがいなければ話が進まないよ」
その答えと同時にセブルがユウトの耳元で声を掛けてくる。
「ボクが追います」
「頼む。行ってくれ」
セブルはユウトから離れ、床に飛び降りるとレナを追って開け放たれたままの扉から走り去っていく。ジヴァはセブルを止めようとはしなかった。
ユウトは胸のもやもやから来る怒りの感情を息にのせて吐き出し、浮いた腰をおろして座り直す。そして部屋へ呼ばれた人物に目を移した。
締め切った上、空気の流れが悪いこの室内で女性が一人増えたことはユウトの身体にとっては由々しき事態であった。しかし緊張と混乱、殺意でよどんだ重たい空気を利用してユウトは本能を無理やり押し殺した。
レナの言葉からユウトの目の前にいる人物、それがチョーカーの発動で死んだと思われていた姉であることは想像がつく。首元にはチョーカーとは違う布が巻かれているのが見えた。
「君は・・・リナで間違いないのか?」
ヨーレンがおそるおそる尋ねる。
「ええ、そうよ。久しぶりねヨーレン」
リナと呼ばれた女性はしっかりと指を組み、沈痛な表情を浮かべて答えた。
この場に存在していることへの罪を感じているような居たたまれない雰囲気が漂っている。ユウトはその様子を見た目以上に感じ取り、過去の自身と重なって居心地の悪さを思い起こされていた。
リナは確かに姉妹であるレナに似ている。ただ細身に鍛え上げたレナと比べると身長も高く少しふくよかに見えた。そしてその陰に何かいることがわかる。リナの後ろでもぞもぞと動く数人の小さな人影。ユウトにとってはリナ以上に注意が吸い寄せられていった。
リナの身に着けた長いスカートは後ろから掴まれているのか横に皴が入っている。ユウトは我慢できなくなり質問しようと声を上げようとした。そのとき、身を隠す人物達の一人が顔を覗かせる。ユウトと目が合うと慌てて顔を引っ込ませた。
それはリナと同じ肌、髪、瞳それぞれの色をしたかわいらしい子供。予想外の事態を目の当たりにしたことでユウトの脳は過度な情報処理で脳の働きが一気に弱まった。
「全員、並べ」
思考力が弱まっているところにロードが指示を出す。その言葉に従いリナの後ろから四人の子供が横に広がり整列した。
「この子ら四人がハイゴブリン。そしてリナの体の半分もハイゴブリンだ」
ヨーレンは額に手を当て天井を見上げる。その様子にヨーレンも非常に悩んでいるのだろうとユウトは想像がつく。整列している子供たちは皆そわそわと落ち着きがなく正面の椅子に座るユウト達を見回していた。
全員女の子ということがユウトには明確にわかる。わかってしまう事実にユウトは少し自己嫌悪を抱いた。
間もなく人形たちが椅子をそれぞれに持ってくる。子供たちの反応は様々に無邪気で、その場だけに漂う全く違う雰囲気にユウトの混乱は加速した。
「説明してくれロード。あまりに突拍子がなくて、どう理解すればいいのかわからない」
ユウトはこの事態に対して状況判断から答えを導き出せそうにないと判断する。何がどうなっているのかわからずお手上げだった。
「自我を持った我は群れから離れ、ゴブリンという種を生き延びさせるために必要なことを考えた。その一つの答えが問題点を修正し最初からやり直すということだった。意図的に調整された性質を逆転させるという手法を取ることにした」
「逆転?改良や排除ではなく?」
ユウトはロードの言い回しの引っかかる。
「そう、逆転だ。ハイゴブリンは雌、女性しか存在しない。そして生まれない。成長速度は落ちるがローゴブリンより個の能力を強化し成長限界を高くしている。思考、感情を制御する自我を持ち、他種族への寄生から共生へ逆転させた」
「ではリナの存在はなんだ。雌であるハイゴブリンのユウトはどうなる」
今度はこれまで黙っていたガラルドが重い声で質問を投げかけた。
「私から説明させてください。ガラルド隊長」
リナが覚悟を決めた強い口調で身体を乗り出し発言する。ロードを一度見てからガラルドに向き合った。ロードもガラルドも何も言葉を返さない。そんな二人を気にすることなくリナは語り始めた。
「私は一度死んだあの日。強い雨で起きた突発的な洪水に私は飲まれました。そのまま下流へ流され、どうにか岸に上がることはできましたが、すでに歩ける状態ではありません。呼吸もままならないほど傷だらけでした。私は死を覚悟して魔術枷の発動を待つばかりの状況。
その時現れたのがロードです。人語を扱うロードとの会話からハイゴブリンの計画詳細聞きました。そして一度はねられた首をつなぎ直す見返りに新たに作られるハイゴブリンの子供達の面倒を見るという提案を受けました。
私は・・・私はその提案を受けました」
リナの語りはそこで一度途切れる。斬首を待つ罪人のように首をもたげ、垂直に落ちる髪でその表情は見えなかった。強く握られた手と小さく肩が震えている。それはまるでこの場にいない誰かへ深く深く懺悔をする姿にユウトは見えた。
ひじ掛けに置いた手が離れないことがわかる。ユウトはジヴァをどういうつもりだという視線でにらみつけ、ジヴァはその視線に答えた。
「交渉はまだ続いている。お前さんがいなければ話が進まないよ」
その答えと同時にセブルがユウトの耳元で声を掛けてくる。
「ボクが追います」
「頼む。行ってくれ」
セブルはユウトから離れ、床に飛び降りるとレナを追って開け放たれたままの扉から走り去っていく。ジヴァはセブルを止めようとはしなかった。
ユウトは胸のもやもやから来る怒りの感情を息にのせて吐き出し、浮いた腰をおろして座り直す。そして部屋へ呼ばれた人物に目を移した。
締め切った上、空気の流れが悪いこの室内で女性が一人増えたことはユウトの身体にとっては由々しき事態であった。しかし緊張と混乱、殺意でよどんだ重たい空気を利用してユウトは本能を無理やり押し殺した。
レナの言葉からユウトの目の前にいる人物、それがチョーカーの発動で死んだと思われていた姉であることは想像がつく。首元にはチョーカーとは違う布が巻かれているのが見えた。
「君は・・・リナで間違いないのか?」
ヨーレンがおそるおそる尋ねる。
「ええ、そうよ。久しぶりねヨーレン」
リナと呼ばれた女性はしっかりと指を組み、沈痛な表情を浮かべて答えた。
この場に存在していることへの罪を感じているような居たたまれない雰囲気が漂っている。ユウトはその様子を見た目以上に感じ取り、過去の自身と重なって居心地の悪さを思い起こされていた。
リナは確かに姉妹であるレナに似ている。ただ細身に鍛え上げたレナと比べると身長も高く少しふくよかに見えた。そしてその陰に何かいることがわかる。リナの後ろでもぞもぞと動く数人の小さな人影。ユウトにとってはリナ以上に注意が吸い寄せられていった。
リナの身に着けた長いスカートは後ろから掴まれているのか横に皴が入っている。ユウトは我慢できなくなり質問しようと声を上げようとした。そのとき、身を隠す人物達の一人が顔を覗かせる。ユウトと目が合うと慌てて顔を引っ込ませた。
それはリナと同じ肌、髪、瞳それぞれの色をしたかわいらしい子供。予想外の事態を目の当たりにしたことでユウトの脳は過度な情報処理で脳の働きが一気に弱まった。
「全員、並べ」
思考力が弱まっているところにロードが指示を出す。その言葉に従いリナの後ろから四人の子供が横に広がり整列した。
「この子ら四人がハイゴブリン。そしてリナの体の半分もハイゴブリンだ」
ヨーレンは額に手を当て天井を見上げる。その様子にヨーレンも非常に悩んでいるのだろうとユウトは想像がつく。整列している子供たちは皆そわそわと落ち着きがなく正面の椅子に座るユウト達を見回していた。
全員女の子ということがユウトには明確にわかる。わかってしまう事実にユウトは少し自己嫌悪を抱いた。
間もなく人形たちが椅子をそれぞれに持ってくる。子供たちの反応は様々に無邪気で、その場だけに漂う全く違う雰囲気にユウトの混乱は加速した。
「説明してくれロード。あまりに突拍子がなくて、どう理解すればいいのかわからない」
ユウトはこの事態に対して状況判断から答えを導き出せそうにないと判断する。何がどうなっているのかわからずお手上げだった。
「自我を持った我は群れから離れ、ゴブリンという種を生き延びさせるために必要なことを考えた。その一つの答えが問題点を修正し最初からやり直すということだった。意図的に調整された性質を逆転させるという手法を取ることにした」
「逆転?改良や排除ではなく?」
ユウトはロードの言い回しの引っかかる。
「そう、逆転だ。ハイゴブリンは雌、女性しか存在しない。そして生まれない。成長速度は落ちるがローゴブリンより個の能力を強化し成長限界を高くしている。思考、感情を制御する自我を持ち、他種族への寄生から共生へ逆転させた」
「ではリナの存在はなんだ。雌であるハイゴブリンのユウトはどうなる」
今度はこれまで黙っていたガラルドが重い声で質問を投げかけた。
「私から説明させてください。ガラルド隊長」
リナが覚悟を決めた強い口調で身体を乗り出し発言する。ロードを一度見てからガラルドに向き合った。ロードもガラルドも何も言葉を返さない。そんな二人を気にすることなくリナは語り始めた。
「私は一度死んだあの日。強い雨で起きた突発的な洪水に私は飲まれました。そのまま下流へ流され、どうにか岸に上がることはできましたが、すでに歩ける状態ではありません。呼吸もままならないほど傷だらけでした。私は死を覚悟して魔術枷の発動を待つばかりの状況。
その時現れたのがロードです。人語を扱うロードとの会話からハイゴブリンの計画詳細聞きました。そして一度はねられた首をつなぎ直す見返りに新たに作られるハイゴブリンの子供達の面倒を見るという提案を受けました。
私は・・・私はその提案を受けました」
リナの語りはそこで一度途切れる。斬首を待つ罪人のように首をもたげ、垂直に落ちる髪でその表情は見えなかった。強く握られた手と小さく肩が震えている。それはまるでこの場にいない誰かへ深く深く懺悔をする姿にユウトは見えた。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる