147 / 213
出立
しおりを挟む
明かりの灯った魔女の館に賑やかなはしゃぎ声が響き渡っている。小鳥のさえずりのように華やかな声でも四つも重なればけたたましかった。
「ほらっみんな!もう出発しなくちゃいけないんだから。ジヴァを困らせないで」
大荷物を抱えながらリナは懇願するように語り掛ける。騒ぎ立つ声は一瞬だけ止むもののすぐに勢いを取り戻した。
焦りの色がみえるリナの声が向けられているのはハイゴブリンの四姉妹達。椅子に腰かけ、渋い顔をしたジヴァの足元に集まっていた。それぞれが体を揺らしたりジヴァの服を握ったりしながら何かを訴えかけている。リナの呼びかけは四姉妹になかなか受け入れてもらえず膠着状態に陥っていた。
「ねぇねぇジヴァぁ。ここにいちゃだめなの?」「いい子にするからもっといさせてよぅ」
「ちゃんとお手伝いもする・・・」「おねがいっ!」
上目遣いに見上げる姉妹達に目を合わせないジヴァは深い深いため息をついて語り始める。
「あんたたちはこれからもっと広い世界に出ていこうとしているんだ。こんな小さな箱庭で満足してるんじゃない」
「広い世界ってなに?どこ?」「広い草原ならもう知ってるよ」
「つまんない」「ジヴァもジェスもいる方がいい!」
姉妹達がすぐさま返答する。ジヴァは渋々視線を落として姉妹達の眼差しを受け止めた。
「いいかい、広い世界ってのは特定の場所じゃない。いろんな人と出会い、環境へ行き、物に触れることだ。もっと明るく、賑やかで、騒がしくなるだろうな」
ジヴァの言葉に姉妹達はぐっと黙ると、間をおいて次第にその瞳をまん丸に開き輝かせ始める。
「まぁそうなるかどうかはあんたたちの頑張りとユウトの踏ん張りしだいだろうがな」
また目をそらしながらぼそりとジヴァは言葉を続けた。
「ほんとにほんとっ?!」「もっといろんなことができるようになるの?」
「・・・新しいことも知れるかも」「おもしろそー!」
姉妹たちはお互いを見合い、わちゃわちゃと騒ぎながらジヴァの元から離れ、慌ただしく駆け出していく。遠ざかっていくはしゃぎ声の中でジヴァとリナの二人だけとなった。
「ありがとうございます、ジヴァ。助かりました」
「まったくだ。ようやくこれでここも静かになる」
ふうと息を吐きながらジヴァは椅子の背もたれに深く身体をあずける。
「これで・・・お別れになってしまうかもしれませんね」
リナはうつむき、寂しさをにじませながら独り言のようにつぶやいた。
「お前さんしだいさ」
ジヴァの声にはっとしてリナは顔を上げる。ジヴァは言葉を続けた。
「選択し、その身を変質させてでもここまで生き延びた。そうしてでも生きることにすがったのは、ここで運に身をゆだねるためではないだろう?」
投げかけられた言葉を受けて、リナは思考するように一瞬視線を落としてジヴァと向き合う。
「そうですね。今更でした。ふふっ、潔く葬られようなんて考えてしまうのは少し緊張しているのかもしれません。手の掛かる妹たちを放ってはおけません」
自嘲するように仄かにリナは笑い、ジヴァも口角を吊り上げた。
リナは背負っている大きな荷物を一度縦に揺らして両肩の掛かる荷物の帯をぎゅっと握り、力強く歩き始める。扉を出て行こうとする直前、一度立ち止まってジヴァへ振り向き語り掛けた。
「近々また会いましょう。
・・・ジヴァはやっぱり優しいですね」
そう告げたリナはジヴァの反応を待たずにそそくさと扉から出ていく。部屋に残ったのはジヴァのため息だけだった。
リナが玄関から外に出るとそこには地面に大きな金属の塊が鎮座している。車輪のない荷台の屋根の縁に留まったジェスが柔らかな光を発し、あたりを照らしていた。
リナは開け放たれた荷台へと向かう。荷台の中からは賑やかな声が発せられていた。
荷台の入口に近づくとリナは足を止めてジェスを見上げ、語り掛ける。
「ジェスもありがとう。また会いましょう」
「はい。その時を楽しみにしています」
リナは笑顔で頷き荷台へ乗り込み柵を上げた。
そして四姉妹を避けながら荷台の最奥へ向かうと降ろされている幕を開けて顔を出し、静かにたたずむ金属の牛のような背中へ言葉を発する。
「起動。目的地を設定、ヴァルの元へ。人目を避けて全速の五。移動を開始」
「承認シマシタ。起動シマス。目的地ヴァル。条件ヲ設定シテ経路設定。移動開始」
抑揚のない声がリナの言葉に呼応して金属の塊から重低音が響き始めた。
すると荷台とそれを引くように配置された金属の牛はふわりと浮き上がりゆっくりと加速を始める。それを確認したリナは荷物を下ろして開け放たれた荷台の後方へと目をやった。
遠ざかっていく魔女の家とジェス。それに向かって上げられた荷台の柵に身をあずけながら
手を振る四姉妹の後姿がリナの目に映る。視線は移り、下ろした荷物に括りつけられた木と鉄の棒へと向けられた。
険しく決意に満ちた表情でちらりとだけそれを見ると四姉妹へ声を掛ける。
「さぁみんな。夕食にしましょ!」
リナの一声に遠く木々の間に消えゆくジェスの光を眺めていた四姉妹は背筋を伸ばして振り向いた。
「ほらっみんな!もう出発しなくちゃいけないんだから。ジヴァを困らせないで」
大荷物を抱えながらリナは懇願するように語り掛ける。騒ぎ立つ声は一瞬だけ止むもののすぐに勢いを取り戻した。
焦りの色がみえるリナの声が向けられているのはハイゴブリンの四姉妹達。椅子に腰かけ、渋い顔をしたジヴァの足元に集まっていた。それぞれが体を揺らしたりジヴァの服を握ったりしながら何かを訴えかけている。リナの呼びかけは四姉妹になかなか受け入れてもらえず膠着状態に陥っていた。
「ねぇねぇジヴァぁ。ここにいちゃだめなの?」「いい子にするからもっといさせてよぅ」
「ちゃんとお手伝いもする・・・」「おねがいっ!」
上目遣いに見上げる姉妹達に目を合わせないジヴァは深い深いため息をついて語り始める。
「あんたたちはこれからもっと広い世界に出ていこうとしているんだ。こんな小さな箱庭で満足してるんじゃない」
「広い世界ってなに?どこ?」「広い草原ならもう知ってるよ」
「つまんない」「ジヴァもジェスもいる方がいい!」
姉妹達がすぐさま返答する。ジヴァは渋々視線を落として姉妹達の眼差しを受け止めた。
「いいかい、広い世界ってのは特定の場所じゃない。いろんな人と出会い、環境へ行き、物に触れることだ。もっと明るく、賑やかで、騒がしくなるだろうな」
ジヴァの言葉に姉妹達はぐっと黙ると、間をおいて次第にその瞳をまん丸に開き輝かせ始める。
「まぁそうなるかどうかはあんたたちの頑張りとユウトの踏ん張りしだいだろうがな」
また目をそらしながらぼそりとジヴァは言葉を続けた。
「ほんとにほんとっ?!」「もっといろんなことができるようになるの?」
「・・・新しいことも知れるかも」「おもしろそー!」
姉妹たちはお互いを見合い、わちゃわちゃと騒ぎながらジヴァの元から離れ、慌ただしく駆け出していく。遠ざかっていくはしゃぎ声の中でジヴァとリナの二人だけとなった。
「ありがとうございます、ジヴァ。助かりました」
「まったくだ。ようやくこれでここも静かになる」
ふうと息を吐きながらジヴァは椅子の背もたれに深く身体をあずける。
「これで・・・お別れになってしまうかもしれませんね」
リナはうつむき、寂しさをにじませながら独り言のようにつぶやいた。
「お前さんしだいさ」
ジヴァの声にはっとしてリナは顔を上げる。ジヴァは言葉を続けた。
「選択し、その身を変質させてでもここまで生き延びた。そうしてでも生きることにすがったのは、ここで運に身をゆだねるためではないだろう?」
投げかけられた言葉を受けて、リナは思考するように一瞬視線を落としてジヴァと向き合う。
「そうですね。今更でした。ふふっ、潔く葬られようなんて考えてしまうのは少し緊張しているのかもしれません。手の掛かる妹たちを放ってはおけません」
自嘲するように仄かにリナは笑い、ジヴァも口角を吊り上げた。
リナは背負っている大きな荷物を一度縦に揺らして両肩の掛かる荷物の帯をぎゅっと握り、力強く歩き始める。扉を出て行こうとする直前、一度立ち止まってジヴァへ振り向き語り掛けた。
「近々また会いましょう。
・・・ジヴァはやっぱり優しいですね」
そう告げたリナはジヴァの反応を待たずにそそくさと扉から出ていく。部屋に残ったのはジヴァのため息だけだった。
リナが玄関から外に出るとそこには地面に大きな金属の塊が鎮座している。車輪のない荷台の屋根の縁に留まったジェスが柔らかな光を発し、あたりを照らしていた。
リナは開け放たれた荷台へと向かう。荷台の中からは賑やかな声が発せられていた。
荷台の入口に近づくとリナは足を止めてジェスを見上げ、語り掛ける。
「ジェスもありがとう。また会いましょう」
「はい。その時を楽しみにしています」
リナは笑顔で頷き荷台へ乗り込み柵を上げた。
そして四姉妹を避けながら荷台の最奥へ向かうと降ろされている幕を開けて顔を出し、静かにたたずむ金属の牛のような背中へ言葉を発する。
「起動。目的地を設定、ヴァルの元へ。人目を避けて全速の五。移動を開始」
「承認シマシタ。起動シマス。目的地ヴァル。条件ヲ設定シテ経路設定。移動開始」
抑揚のない声がリナの言葉に呼応して金属の塊から重低音が響き始めた。
すると荷台とそれを引くように配置された金属の牛はふわりと浮き上がりゆっくりと加速を始める。それを確認したリナは荷物を下ろして開け放たれた荷台の後方へと目をやった。
遠ざかっていく魔女の家とジェス。それに向かって上げられた荷台の柵に身をあずけながら
手を振る四姉妹の後姿がリナの目に映る。視線は移り、下ろした荷物に括りつけられた木と鉄の棒へと向けられた。
険しく決意に満ちた表情でちらりとだけそれを見ると四姉妹へ声を掛ける。
「さぁみんな。夕食にしましょ!」
リナの一声に遠く木々の間に消えゆくジェスの光を眺めていた四姉妹は背筋を伸ばして振り向いた。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる