ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
181 / 213

爆発

しおりを挟む
 巨石に寄り添うようにして四姉妹は遠く大魔獣の大あごが落ちていくのを苦しそうに見つめる。そして一斉にぴくりと身体を震わせた。背後から見守るリナはその変化に気づいて尋ねる。

「みんな、大丈夫?痛む?」

 姉妹達はリナの問いに振り向かず、呆然とした様子で言葉を返した。

「きれちゃった」「なくなった」
「ロードが」「・・・わからない」

 リナは姉妹達が見つめる先を見る。まさに漆黒の大あごが地に触れる瞬間だった。



 中央の物見矢倉の最上階。マレイが構えた槍の青い光があたりを強く照らしていた。

 マレイはじっと大魔獣の動きを捉え、姿勢を保つ。足元の矢倉の木々がみしと音を立てて軋んだ。

 ドゥーセンもラーラも、その場にいる者はマレイから伝わる緊張感を無視できず、ただ黙ってマレイを見ていることしかできない。

「・・・撃つッ」

 高まる緊張感のなかでマレイは前触れなく軽く小さな声でつぶやき、掲げる魔槍を振りぬいて放った。

 青く輝く槍はマレイが振った腕の速さより速度を増しながら、一直線に大魔獣へ向け飛び去ってゆく。その後には青い光が帯のような残像を残していった。

 そして星の大釜外縁両翼に配置されている調査騎士団員、ゴブリン殲滅ギルド隊員が構えていた槍たちがマレイの槍に呼応するかのように追って放たれる。それはまるでマレイの槍に引っ張られているかのような乱れのない間の連鎖だった。



 ユウトの両目はロードを最後までとらえ続ける。頭上を青い光の帯の束が通り抜けようとも気に留めなかった。

 マレイの放った一番先をいく槍がロードに達しようとする瞬間、ロードの身体が端から強く輝きだし、次第に消滅してゆく。そして槍が着弾し、光の柱が打ちあがった。

 次々と槍が光の柱に突入し光は膨張を繰り返す。大魔獣の巨体は光の渦に飲み込まれ、漆黒の身体は打ちあがる白い布のようなもやに包まれて姿を消した。

 それを見てユウトは大魔剣を構え、力を込める。

 大釜の中心から草原の草を押し付けるような色の変化が同心円状に広がってきた。

 変化の境界線が迫り、ユウトは大魔剣を横一線に振りぬく。するとユウトに触れたのは一瞬の強風だけだった。大魔剣の刀身はぼんやりと輝き、動作音が低く響いている。刀身を濡らしていた血は跡形もなく消え去っていた。



 打ちあがる光の渦を見て、リナは姉妹達の前に出るとぎゅっと全員の肩を抱いて覆い、巨石に身を寄せてしゃがみ込むと顔を伏せる。そこにもう一人覆いかぶさる者がいた。

 そしてほどなくして衝撃波があたりを通り過ぎていく。リナが顔を上げると一緒に身を寄せていたのはレナだった。

 レナはすぐに立ち上がり、周囲を見ながら声を上げる。

「みんな無事?」

 その声に対し、全員が無事を伝えた。

 それぞれ巨石の陰に隠れたり防御態勢を取ったりしている。ヴァルはその巨体を盾にするように姉妹達の前方で大きく身体を開いていた。

「レナ、皆無事カ?」

 ヴァルは背中を向けたままレナに語り掛ける。レナはしゃがみこんでいた姉妹達を見下ろした。姉妹達はぽかんとしてレナを見上げており、その目と目が合う。リナも含めた全員の視線にレナは恥ずかしそうにすぐ顔をそむけ、その場から距離を取った。

「全員無事だよ。ヴァル」

 ヴァルの横に向かいながらレナは報告する。そんなレナの後姿をリナは困ったような笑顔で見つめていた。



 大釜の底から発生した衝撃波は少なからず物見矢倉まで到達する。どん、という重低音と共に物見矢倉は揺さぶられた。木材が悲鳴を上げるように軋み、観客たちには動揺が広がる。その中においても幾人は冷静さを失わず状況を把握しようとしていた。

「マレインヤー執政官、この矢倉は倒壊したりしないでしょうね?」

 ドゥーセンは手すりにつかまり、しゃがみながらマレイに尋ねる。

「もちろんです、ドゥーセン中央政務官。ここまでは予定通りです。この程度には耐えうるように建築されております」

 マレイは仁王立ちしながらドゥーセンに手を差し伸べた。

 ドゥーセンの手を取り、立ち上がらせながらマレイは大釜の底を見つめる。そこにはもうもうと白い煙が立ち上るばかりで何も確かなものが見えなかった。



「逝ったか」

 ぽつりとジヴァはつぶやく。切れ長の目を伏せて見つめる先には星の大釜があった。

 ジヴァが一人、誰もいない崩壊塔の頂上の端で佇んでいる。風を切る音が響きながら態勢はまったく変わらず、長髪と服がゆったりと揺れていた。そこから見える星の大釜はとても小さい。しかしジヴァは全く意に介する様子もなく、ただじっと見つめていた。

「面白いものを見せてもらったよ、ゴブリンロード。その身に似合わぬ理性で抑圧してきた本性。すべてを尽くした最後に開放できた喜びは格別だったろう。その真意と力を知る者は少なく、記録されることもない。だがわしが記憶しておいてやろう。永劫の記憶の中で生き続ける・・・その役目がわしだけのものになるかはこの戦い次第、か」

 ジヴァは淡々とした口調で語り終える。そして薄っすらと笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...