儚く堕ちる白椿かな

椿木ガラシャ

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白椿のワルツ

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 ――会場中の視線が集まっているとは思ってもいない二人は、曲に合わせたスローダンスを踊っていた。
 雪人は手をコウキの胸元において、顔を上げた。

「コウキさん、お聞きしたい事があるのですが」

「コウキで良いですよ。ツグヤスにもわたしをそう呼んで構わないと、いってありますので」

 雪人は躊躇いながらも頷く。

「ではコウキ。食事をされる時、いつもお祈りされていますね。あれは何といっておられるのですか?」

 雪人は昨夜から気になっていることを、本人を前に口にした。

「ああ、あれは神への祈りを捧げているのです。『今日も神の恵みを口にすることができます。明日もどうか、私たちをお守りください』。ちょっとニュアンスが違うかと思いますが、大方そんな感じです」

「『アーメン』とは?」

「『然り』というと、硬いですね。『神の思し召しのままに』という意味です」

「そんな意味だったのですか」

 雪人は納得した。朝食時にも、クライム父子は祈っていた。確かに彼らの唯一神に対する祈りが、簡単なものであってはならない。
 曲が終わりふたりは壁によった。存外に長い間、ホール部分を独占していたらしい。額に微かに汗が滴ってしまった雪人は、懐から取り出したハンカチで額を拭った。

「もし、興味があるのだったら、どうぞこれを」

 そういってコウキは胸元のポケットから一冊の薄い本を取り出し、雪人に手渡した。

「この本は?」

「祈りの歌が書かれた本です。わたしは小さい頃、これを父にかってもらい、何かあるとこの中の歌を歌って、神への祈りを捧げていました」

 雪人が捲ると日に焼けて劣化した紙の上に、楽譜と共に歌が書かれていた。英語であるが、雪人は英語で書かれた小説も読めるので問題はないだろう。

「どうぞ、差し上げます」

「こんな大切なものを…」

「いえ、良いのです。わたしは全て覚えていますから。それに父も、興味がある人がいたら譲って上げなさいといっていました。それに普段は持ち歩かないのですが、今日はたまたま…。きっとこれも、ユキトにこれを捧げよという神の思し召しでしょう」

 雪人はコウキがくれた歌の本を大切に胸元に抱きしめた。


 ――宴が終わった七種家では、徐々に人々が変える支度をしていた。クライム父子は既に七種家を後にした。
 雪人は誰もいない書斎で、ひとりソファに座っていた。玄関からはまだ賑やかな声が聞こえているが、恐らく誰も雪人の存在には気付いていないだろう。コウキがくれた本を手に取り読んでいた。小説でも余り眼にしない表現や言葉があり、物語を読み解くような楽しさがあった。

「雪人」

 雪人はその声に、あわててソファの隙間に本を隠す。

「ここにいたのか、みな探していたよ」

 雪人に声をかけたのは継貴だった。

「ごめん。人に酔ったみたいで、ちょっと休んでたんだ」

「大丈夫か?」

「うん。もう大丈夫…」

 よくよく見ると継貴は一人ではなかった。継貴の後ろには、ドレスアップした女性が控えている。パーティーに参加した女性の一人だろうか。

「雪人、紹介しておくよ。松宮都美子令嬢だ。松宮銀行のお嬢さんで、知っていると思うけど、俺の婚約者だよ」

 慌てて雪人は立ち上がった。
 継貴は春になれば正式に結納を済ませ、秋に結婚をする予定だったのだ。近頃屋敷に不在がちだったのも、結納の準備に追われているからだ。

「都美子嬢、これが弟の雪人だ」

「始めまして、雪人さん。都美子と申します」

 都美子はまだ18にもいかぬ少女なのだろう。勝気な瞳が、どこかしら幼い。その引き締まった口許から、大財閥の一族になるのだという決意が読み取れた。
 その決意に雪人が気圧されていると、継貴が雪人の肩を抱いた。

「都美子嬢、君も七種家に嫁ぐのだから、知ってもらわねばならない。雪人は、一族にとって至宝と呼べる存在なんだよ」

 継貴は雪人の美しい顔を見て、男らしく笑いかける。何を言い出すのかと雪人は眉を潜めるが、継貴は意に返さない。

「聡明な君だから察することもできるだろうが、君がもし雪人を傷つけるようなことがあったら、俺は躊躇いなく君を離縁する」

「つ、継貴!?」

 雪人が驚いて声を上げる。妻となる女性に対して余りにも気遣いのない台詞だ。
 世間を知らない幼さゆえに、言葉の不可思議さに気付かないのだろうか、都美子は神妙に頷いた。

「継貴様、松宮様のお迎えがこられました」

 女中が迎えが来たと知らせに来ると、継貴は都美子を見送りに出掛けた。継貴に部屋で待っているように告げられた雪人は急いでソファからコウキに貰った本を持ち出し、継貴の部屋に行く前に地下室へ寄ってベッドの下へと隠した。
 その際、階段で躓いてしまい腕をついてしまったせいで、腕に擦り傷ができたが、急いで継貴の部屋に入った。
 間も無くして、継貴もやってきた。玄関から部屋に帰ってくるまでに既に蝶ネクタイを解いていた継貴は、部屋に入ると腰掛け椅子に放り投げた。
 ベッドに座っていた雪人は立ち上がり、スーツを脱ごうとする継貴を手伝った。

「ああ、ありがとう」

 雪人はジャケットを手に取ると、クローゼットを開けてハンガーにかけた。シャツを捲った継貴は、その雪人の背後に近寄ると強く抱きしめた。後ろから抱きしめたまま、肩越しに雪人の赤い唇を奪う。ちゅ、ちゅと啄ばむように接吻を落とすと、雪人の左の手首を掴んだ。

「どうしたんだ、これ?血が滲んでるじゃないか」

 腕の擦り傷をしっかりと見咎められていたらしい。

「ちょっと…転んじゃって」

 雪人は気まずそうに継貴に返した。

「またか…。やっぱり、地下室に移ってから、どんどん視界がわるくなっていくな」

 継貴は腕を持ち上げて、そこの部分を舐める。滑った感触に、びくりと体を震わせると、継貴が愉しそうに笑った。

「甘い雪人の血の味だ」

 継貴は腰掛け椅子を引き寄せて座ると、雪人を乗せた。腰を深く抱き寄せると、また雪人の赤い唇を奪った。接吻を与えながら、手を椿の着物の下に忍ばせる。手触りの良い下着の上から、ゆっくりとそこを揉む。

「継貴…」

 雪人は白い頬を微かに染める。継貴は愛らしいその表情に満足そうに笑うと、口を寄せた。

「雪人。兄貴と継保が雪人のどこが欲しいかって言い合ってたんだって。まったくあの二人も、面白いことを言い始めるな」

 言いながら継貴は雪人の形の良い耳に口付けた。

「なら俺は、耳を奪ってしまおうか。この形の良い耳を。耳が聞こえなくなれば、お前を誘惑する声も聞こえなくなるだろう。声が聞こえなければ、音がわからず喋ることも忘れてしまう」

 継貴は形の良い耳を口の中に含んでしまうと厭らしく舌で転がした。

「お前は音のない世界で、俺たちが来るのを待っているんだ。無声映画のように音のない美しい世界を、お前は生きるんだよ」

「い、痛い…!」 

 強く耳を噛まれ、悲鳴を上げる。継貴は雪人が声を上げたにも関わらず、噛むのをやめず、ぎりぎりと噛み締めた。

「継貴!やめてっ」

 雪人が美しい眦から涙を流すと、ようやく継貴は噛むのをやめた。震える手で雪人が耳を塞ぐ。

「どうしてこんなことするの…?俺の一部が欲しいって、そんなこと、俺は…」

「望んでいないってか?」

 そう、愉しそうに兄弟たちが己に告げてくることを、当事者である雪人は望んでいない。

「望んでいないんじゃない。雪人はまだ自覚していないだけだよ、愛されて生きる悦びに」

「違うっ」

 愛されて生きるだけなんてごめんだ。男に産まれ、男として生きているのに、一生囚われているのなんて…。

「違わない。お前はまだ、気付いていないんだ。狂おしい俺たちの想いを」

 言いながら胸元を探られ、雪人は離れようと必死で抵抗した。

「やめて、継貴っ。こんな時に…」

「お前にはしっかり解って貰わないといけないんだ。どうせなら、継保でも呼ぶか。兄貴でも良いぜ」

「いや!」

 雪人は己の体を抱きしめた。一度に何人も男に犯されるのなんて、あの夜を思い起こさせる。清一の死体の傍で散々陵辱されたあの夜を…。
 『逃げない』と約束させられ、『許して欲しい』と泣き叫んだあの夜を、雪人は思い出されるのが耐えられない。
 硬く瞳を閉じている雪人を見ながら、継貴は雪人の帯を解いた。しゅるりと音を立てて形を崩す帯を絨毯に置き、腰紐をといて、細い肩から着物をずらした。

「だったら、大人しく抱かれていろ、雪人。お前が、他の男とダンスを踊ったことを、俺たちが怒っていないとでも思ったのか」

 その時初めて雪人は、コウキと踊ってしまったことの重大さを知った。雪人は、一族外の男といたことを咎められているのだ。そう今まではなかった。あのような席で親しく言葉を交わすことも、ましてやダンスを踊ることも…。
 継貴の視線は冷たい。常に朗らかな継貴が沈黙しているのが雪人は恐ろしく、従うしかなかった。
 長襦袢もずらされ胸元を晒すことになった雪人は、なされるがまま足を肘掛部分に乗せることになり大きく足元を開いて、継貴に見せつける形になった。

「俺のを取り出して、立たせてみろよ」

 雪人は震える手で継貴の一物を取り出した。いまだ何の反応も示していないそれを、手で握る。震える手で擦り上げるが、未だ怒りが収まっていないのか、少しの反応も示さない。雪人は泣きそうになった。

「継貴…」

「お前のと一緒に擦ってみれば良いだろ」

 命令に近い口調で、継貴は雪人に言い放つ。雪人は羞恥を感じたが、こんなに怖い目で見下ろしてくる継貴にどうすることもできなかった。雪人は上肢を継貴に預ける形で、微かに腰を上げて下着を脱いだ。
 継貴を跨いだままの恰好なので、下着はそのまま太ももに絡ませたまま、腰を継貴の下肢に密着させた。手を伸ばし継貴と己の物をくっ付ける。継貴の一物は、雪人とは質も量も違う。二人のものを雪人は両手で包むと、ゆっくりと擦り始めた。
 羞恥もあり始めはゆっくりとだったが、敏感な雪人は、刺激を求め擦る手を早めた。

「あ、ん」

 雪人は更に腰を密着させ、己の陰嚢を継貴の一物に擦り付けた。徐々に形を変えていく雪人の陰茎に、継貴のものもようやく反応を示し始める。先走りの液が雪人の陰茎から漏れ始め、雪人の手を塗らしていく。
 継貴はその手をとり、自ら腰を密着させた。顔を上げた雪人は、継貴の顔が、怖いものから雪人の知る顔に戻っているのに気付き、ほっと息を吐いた。

「首、掴んでろ」

 雪人は細い腕を伸ばし、継貴の首を掻き抱いた。継貴は腰を動かして、雪人と己のものを擦り上げる。
 継貴のものが質量を増しながら、雪人のものを刺激すると、雪人は自らも腰を押し付けた。

「あ、だめ…、い、く」

 継貴の耳元に囁きながら雪人は弾けた。続いて、継貴が吐き出したものを密着した腹部に感じながら、雪人は継貴にしな垂れかかった。
 二人の吐き出した物は雪人の腹にべっとりと張り付き、そこから流れ出した物は雪人の下肢を伝っていった。
 続いて継貴は雪人の背筋に手を滑らせながら、白く程好い硬さの尻を両手で掴んだ。穴を広げるように割り開かれ、雪人は背筋を強張らせる。
 継貴の指は菊門の周りを、指で刺激し始めた。雪人の体はそれだけで反応する。 継貴は一物で雪人の陰嚢を擦っていた。

「うぅ…」

 雪人の菊門に、継貴の指が入り込んでいた。まずはゆっくりと一本が差し込まれ、ゆっくりと中を擦られる。

「そんなに締め付けるなよ」

 内壁は継貴の指を締め付ける。もっと奥を弄って欲しいと、奥へ奥へと誘うような内壁の動きに、継貴は2本目の指を捧げた。

「は、あ」

 雪人は吐息を漏らす。継貴の指をただ体内に咥え込んでいるだけなのに、こんなにも体が熱い。快楽を期待し、更に求めようとする己の体が信じられず、雪人は継貴の首筋に顔を埋めた。
 継貴は雪人の尻を抱えると、菊門の先に一物を宛がった。それだけで雪人の菊門は自ら息をした。薄紅から、充血した紅に変貌した壁が、継貴の一物を待ちわびていた。

「雪人、言ってごらん」

 継貴は意地悪く雪人の耳元に囁きながら言った。

「どうして欲しいのか言ってごらん。どうやって、抱いて欲しい?どうやって、俺に抱かれたいんだ?」

 腰に響くような低く甘い声で囁かれ雪人は唇を震わせながら、欲望を口にした。

「もっと…ちょうだい。…継貴の、大きいの…いっぱい、欲しい…」

 次の瞬間、雪人の嬌声が上がった。望まれるまま、継貴は激しく腰を打ちつけて、雪人の奥へ一物を入れた。
 前立腺を見つけると、そこを激しく突いて雪人を翻弄させた。瞼の奥を光りが走り抜けるような強い快楽に、雪人はやり過ごす術が見つからず、継貴の背にすがりつく。
 雪人は快楽に酔い、何を口走ったか覚えていないほど激しく継貴に求められ、最後は力が抜けてしまい継貴の胸元に倒れこんだ。
 荒く息を吐きながら、雪人は耳元に甘く囁かれた。

「愛してる」

 それが一生の鎖のように己を縛るように聞こえ、雪人は瞳を閉じた。
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