前世、俺は『慰み者』だった。

椿木ガラシャ

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第三章 変わりゆく日常

 ――今世において初めてのアナルセックスを経験した俺はいつの間にか意識を失っていた。容赦なく俺を暴いた彼らは、意識を失った俺を抱きしめたまま、自分の欲望を遂げるまで、離さなかったのだという。
 翌朝、深い闇の中から浮上し、ふっと目覚めた。見上げた天井がアパートの木目調の天井ではないことに驚いた。
「よろしですか、坊ちゃま…。こういったことは、ちゃんと順序を守らないと」
「わかってる。だが、ディアに拒まれたかと思うと、どうしようもなかったんだ」
 二つの話し声が聞こえる。そのうちの一つが上條の声だと気づいた途端、ぞくりと肌が粟立った俺は慌てて起き上がり、ベッドから転がり落ちてしまった。
「いたっ」
 体が動かない。全身筋肉痛で、特に下半身が重い。しかも尻の奥が痛い。
 昨晩の痴態が蘇った。初めて抱かれたのにもかかわらず、激しすぎるプレイに俺の意識は朦朧としていた。
「郁!」
 音を聞きつけた上條が、半開きの扉を開けて飛び込んでくる。
「大丈夫か?どこも怪我をしていないか?」
 俺を軽々と抱き上げて、上條が尋ねてくる。つま先も付かないほど持ち上げられ、子どものようにすっぽりと抱きしめられてしまう。
「あのここは…」
「俺の家だ。…すまない。勝手に連れてきてしまった…」
 見回すと全体的にモノトーンだが、シンプルでスタイリッシュだった。
「俺のキッチンカーは!?」
 そこで俺は、気づいた。俺の全財産に等しいものはどこにあるのだろうか。
「心配ない。マンションの駐車場に停めてあるから」
 俺を宥めるように背を撫でてくる。またぞくぞくと悪寒が走る。大人しく抱き上げられてしまっているが、この男の腕の中にいてはいけない。
「離してください!離せ!」
「郁!わかったから、あばれないでくれ、落ちてしまう」
 上條がベッドに下ろすが、俺は必死に距離を取る。あの大きな掌に捕まれてしまったら、俺は逃げられない。
「だめだ、郁。無理をしてしまっては…」
「アンタの顔なんて、見たくありません!」
「ディア!そんなこと、言わないでくれ!お前に拒まれたら、俺は!」
 上條の手が俺に伸びてくる。
「俺はイディアスではありません。何度も言ったでしょう!」
 俺が拒んだ途端、上條の伸ばされた手は宙に浮いたままになる。俺を凝視し、硬直したようになる。
「坊ちゃん、失礼します」
 その時、割り込むように部屋に入ってくる男がいた。
「瀬川…」
「申し訳ありません、坊ちゃま。お邪魔をしてしまい。
 ――郁人さま、今世では初めてお目にかかります」
 上條に『瀬川』と呼ばれた男は、恭しく頭を下げる。
「諒生様のお世話係をしております。瀬川と申します。前世では、『エリオット』と名乗っておりました。
 ――今世でもあなた様にお仕えできること、大変うれしく思っております。どうか今世でも、何なりとお申し付けくださいますよう」
 年は50歳を過ぎたあたりだろうか。白髪交じりの髪をぴっちりとまとめて、恭しく言い添える。ダンディと言ってふさわしい男の登場に、俺は眩暈がするようだった。
 どうやら前世からの転生は珍しくないらしい。続々と現れるイディアスの関係者に、俺はどう接すればいいか分からなかった。

 ――話は前世に戻そう。

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