狂い咲き

necropsy

文字の大きさ
69 / 118

狂い咲き69

しおりを挟む
 そう語りかけてくる彼の笑みに私は戸惑いながらも足を進めだした。



 緊張と不安だけがある。



 ぎこちない私の笑みに彼は静かに微笑んだ。



 戸惑う私の手が無意識なまでに彼に手を伸ばす。



 押し潰されそうな不安。



 先の見えない不安を私は押し殺すように彼に私は項垂れた。



 まだ怖いと思う気持ちと彼のぬくもりが私をどこか穏やかに包んでくれる。



 彼はなにも言わない。



 私が会社を辞めたことを言わないだけなのだろうか、それとも本当に知らないのだろうか。彼に身体を預けたまま私は動けずにいた。



 彼は私の不安を包み込むように優しく抱きしめてくれる。



 夕暮れになろうとする雑踏は行きかう人で賑わっている。



 彼は私の不安をすべて受け止めるように、なにも言わず抱きしめ続けてくれる。



 意味のない涙を私は覚える。



 私が彼を伺うようにそっと顔をあげると彼は「大丈夫」と力強い笑みをむけてくれる。



「そうね」と言ってしまいそうなとても力強い彼の笑み。私は彼に預けた身体を安らぎを求めるように彼にさらに私は身体を預けた。



 彼は私のなにもかもを受け止めるように静かに、ただ私を抱きしめ続けてくれる。



 私がようやく落ち着くと彼は「どうしたの?」とばかりの顔をする。



 私は「ううん」と彼の腕をとった。



 彼はなにも聞かない。



 知っているからなのか。本当に知らないのだろうか。それとも私が言うのを待っているのだろうか。



 彼を見ていると、どちらでもいい気がしてきた。



 もし彼がなにも知らないのなら私から打ち明ける。できることなら再就職に苦戦した勝利を彼に伝えたいが見事な大敗だろう。



 私が歩き出そうとすると彼は「どこに行こうか」と聞いてくれる。



 一年前の私なら「お腹が空いた」といつも言っていた。



 私はそのまま一年前と同じことを言う。



 彼もまた一年前と変わらず足を止めると軽く考える。彼の足が目的地へと歩き出す。



 今日は時間がなくて二時間ほどで帰る。



 私が彼に頷くと「日曜日」と言った。



 私は「無理をしなくていいよ」と言ったが彼は「いや」としか言わない。

 彼と会う前、あまりガツガツするのもと思い。少しお菓子は食べてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...