狂い咲き

necropsy

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狂い咲き 90

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「玲子」



 彼の声に私は俯いていた顔を上げた。情けないほどに足が痛い。



 彼が座り込んだままの私に手を差し伸べてくれる。私は彼の手を握った。



 彼の乗った車が第二駐車場へ入ってきた。想像するよりオーソドックスだ。高級車ではあるが周りに見られて困るほどではない。ただ運転手つきとなると少し言い訳が必要かな。



 私は彼の手を握り表情を思わず崩した。



 運転手が降りてくると後部座席のドアを開けてくれる。彼が後部座席に乗り込むと私も乗り込んだ。



 走り出す車がどこに向かうのだろうと思いながら私は彼に「エプロンが必要」だと言った。



 私は彼に凭れかかり、どこかほっとする。



 駅から四十分歩いただけでこの有り様。



 私はいつしか彼に凭れたまま眠ってしまった。



 目を覚ますと悪夢かと思える。



 後部座席のドアが開いた先にあの男がいる。



「いたっ」



 顔面に投げつけられた紙袋に私は思わず顔を顰める。



「バカ女」



 辺りは薄暗くなりだしている。



 しかしどうして、この男がいるのだろうか。ずいぶんと私は疲れ果て、ぐっすりと眠ってしまっていた。



「やめなさいよ」



 この声。



 私が後部座席から降りると一人の女性がいる。



 目の前に敷居の高そうな寿司屋がある。彼が店内からでてくると私に包みを手渡してくれた。



 彼は「疲れているだろうから」と、今日はこのまま私を自宅まで送ってくれると言う。



 隣にいる女性を彼が紹介してくれる。いかにも水商売あがりのケバケバしい感じはするが、どこか親近感がある。



 私の送り迎えを彼女がしてくれると彼は言う。



 年齢は若く見えるが四十代半ばを過ぎていそうだ。



 私が彼をチラリと見ると、彼は「違う」とした顔をする。



 それ以上を突っ込んで、からかってみたいが彼の立場もある。それは後からの楽しみにしておこう。



 彼女は私に「小百合」と呼んでくださいと深々と頭を下げた。



 男が投げつけた紙袋には小百合さんが選んでくれたエプロンが入っていた。私は小百合さんと彼にお礼を言いつつも、なんでこの男がいるのだろう。
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