狂い咲き

necropsy

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狂い咲き105

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 彼の目が薄っすらと開いた。
 私の下顎を彼は軽く掴んだ。
 誘いかけるように彼のくちびるが私のくちびるに触れる。
 強引に私のくちびるを彼は押し開く。
 日常の彼とは違う舌使い。
 情欲を浮かべた彼の舌先が私の舌先を絡みとろうとする。
 彼を突き放すべきか、応じるべきかわからないままに彼のもう片側の手が私の腕を痛いまでに掴む。
 息苦しさにもがこうとする私を彼の腕が押さえつける。
 まるで彼に犯されている気にさえさせられる。
 逃げようとする私を背後から彼は抱きよせた。彼を振り払おうとしながらもどこか、欲情している自分に気づかされる。

 一つ、二つとシャツのボタンがはずされる。
 欄干に押しつけられた私は戸惑いながらも彼のされるがままになろうとしている。
 手繰りよせる私の意識を彼は絡みとった。
 一つ彼の豹変を受け入れたのならその先は激しさしかない。
 このまま欄干から彼に突き落とされるのかと私は思えてくる。
 今にも頭上から真っ逆さまに転落してしまいそうなほどに私は彼に押される。
 必死に欄干に掴まる私は自らで胸を迫り出している。肉欲を味わおうとする彼の舌先に私は声を押し殺しながらも階下が迫っている。
 死の恐怖――――
 必死に欄干に掴まりながら私は死の快楽を味わう。
 死の恐怖を背にして、自分でもわかないほどに興奮している。
 スリル
 どうしていいのかわからない恐怖と快楽。彼の目が妖しく光る。
 これが倒錯なのかと思うほどに自分がわからなくなる。
 彼すべてが、あやかし。
 泡沫の味わいを自らでせがむように彼をみつめた。吐息が泡となる。
 どんなアトラクションにも負けない激しい興奮がある。

 今にも彼に突き落とされそうな恐怖に苛まれながらも彼を通じて私は感じてしまう。

 死を感じさせるすべてが、これほどに本能的にさせられるなんて。
 彼の世界もまた死と隣り合わせ。
 サラリーの囲いから飛び出した私は今まで小さな釣堀の魚でいた。
 釣られては捨てられ、捨てられたら次の餌を欲しがった。

 台本のない最高の演出を飾るのが死なら、その死に向かってどれだけ疾走し続けられるだろうか。


 欄干にしがみつく手が自分をもう支えきれない。
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