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第26話~え?こいつらは…~

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俺と翼は道具や武器を手に入れ、北の洞窟の調査に出発する。

時間的に昼前くらいだが1度野宿をして朝には辿り着ける予定だ。

夜が一番不安だが今回は武器や防具もつけてるし大丈夫だろう。

そして俺達はカルムの街を出ていよいよ冒険者として初めての仕事を行う。


…ってふと思ったけど初めての仕事にしてはハードル高くないか?
今さらそんなこと言っても仕方ないけど、道中は無事に進んでほしい。


街を出てどれだけ進んだろう地図を見てもおそらくまだ4分の1といった所だろうか

街も見えなくなって周りは山や森そして一本道のある広大な草原だ。

洞窟の調査さえなければとても癒される景色なんだけど素直には楽しめない。

と俺が少し憂鬱になってるのを尻目に翼は俺の肩に乗っかっている。歩くのが疲れて武器を俺に預け元の姿に戻って俺の肩に飛び乗ってきた。

せっかく買ったリュックに入ればいいのにと言ったら


「せっかくの外なんやからそん中に入る必要がないやろ」

と言ってきやがった。せっかく買ったのに早くも無用の長物となりそうだ。まあアイテムボックスに入れておけば劣化もしないし大丈夫だけど

何か解せない…

そんなことを思いながら進んでるが幸い魔物という魔物はほとんど出てきていない。

出てきてもウサギに似てるが一回りでかいグランドラビットや翼と同じアライグマ型の魔物クーン・ベアといった小型の大人しい魔物しか出てこない。何となくスキルで見てみると「頸椎」「尻尾」と出てきた頸椎は万物の弱点だし分かるが尻尾が弱点なのか?
そういえば尻尾でバランスをとっているって聞いたことあるしそういうことなのか?と思いながら俺達は進み途中で小休止を取りながらも半分位まで到着したところで日が沈んできたので今日はここまでにして俺達は野宿をすることにした。


最初に野宿をした時と違い準備も万端で何かあっても今回は新しく武器もあるし万が一が起きても大丈夫なはず

そう思いながら野宿の準備をしているんだが翼は全く手伝おうとしない、薪すらも拾わないので新しく買ったガントレットの爪を出して試し刺ししてみようかと言ったらすぐ人間体になって準備をしだした。
ったく最初から手伝えって話しだよ

2人で準備したからあっという間に準備が出来てたき火に火をつけた頃には既に暗くなっていた。

食事はアイテムボックスにしまっていた屋台で買ったもの勿論時間経過がないから出来たてで美味い。

こればっかりはアイテムボックスがあって本当に良かったと思う。保存食だと味もないし食えたもんじゃないから、買って入れておけばいつでも出来立てを食べることが出来るからありがたい。

食事にも満足して後は寝るだけだがまたあの時みたいになっても困るから交代で見張って寝るようにしたが幸いなことに今回は魔物が襲ってくることはなく少し安心した。


朝になって朝飯を軽く食べてすぐに出発した。

今から行けば昼過ぎ位には目的地に辿り着けるはずだ

それに行方不明になっている冒険者もどうなっているか分からないし出来るだけ早く着いた方がいいだろうし。

この後の道中は幸いにも昨日と同じで魔物に会うことはほとんどなく順調に進み昼位になった時にようやく目的地に着くことが出来た。

そこは森の中に少し入ったところにある
人が数人入れる位のぽっかりと大きな口を開けた洞窟が目の前にあった。

まだ日が昇って明るい時間のはずなのに森の中は薄暗く不気味さが滲み出ている。そして洞窟の奥はまさに暗闇で何も見えない

俺はアイテムボックスから翼の武器を出し渡しながら聞いてみた


「な、なあ翼何か気配とか感じるか?」

「いや、この身体だと何となく気配を感じる事が出来るけど今は何も感じひん。魔物になった方が分かるかもしれん」


そういって翼は一度魔物の姿になって気配を感じていたすると

「確かにこの中に気配を感じるで。でも1つ2つやないでいくつもある感じや」

「え?それってもしかして冒険者以外の気配もあるってこと?」

「分からんけど多分そうやろ。もしかしたら冒険者やなくて魔物だけかもしれんが結局は入ってみないと分からんからな」

「そ、そうか…ま、まぁどのみち入らないといけないわけだし行くしかないんだけどやっぱり怖いな」

「何怖がってんや!ここまで来て弱音はいても仕方ないやろ。とにかく入って冒険者見つけたらとっととズラかればそれでええんやから。さっさと終わらせて帰るで!」


いつの間にか人間に戻っていた翼がそう言いながら1人で入っていった。俺は慌てて後をついて行き翼に武器を渡して明かりをつけながら進んだ。



中に入り進んでみると松明の火がなければ何も見えずそして思っていたよりも広い事がわかった。

一体この洞窟は何なんだろうと思うと急に道が2つに別れていた。


「道が別れてるどっちに進めばいいんだ?」

「分からんけど何となく右の方から気配を感じるでそれに足元をよく見てみぃ」

「足元?」


翼がそう言って下を見てるので俺も見てみると足元にはいくつかの「何か」の足跡がある。

こっちに何かがあるのだろうか?


「多分やけど何かが冒険者とか物を運んだんやろこっちに行けばそれがわかるはずや」


翼の洞察力に驚いたが、その分俺は余計に緊張した。何故なら人1人運ぶのはそんな簡単なことじゃない。

人間で言えば、筋肉にも出せる出力がある。

それは断面積に比例し、1cm²につき、最大10kgの重量を持ち上げる力が出るって言われてる。 成人男性だったら筋肉の断面積平均は約25cm²と言われているから、計算上では片手で約250kg、両手で約500kgの重量を持ち上げる事が可能だと言われているが、これはあくまで全力を出せた場合の数値であってそれ以上を持ち上げれば骨が耐えられず折れてしまう。

通常はリミッターによって約5分の1の力しか出ないようになってるから片手だと約50㎏だ。

冒険者がどんな人か分からないが持ち上げて普通に歩いているとしたら魔物だとしてもそいつはかなりの怪力の可能性が高い。

俺は1人冷や汗を出しながら松明を握る手に力が入った


「どしたんや?大丈夫か?」

「え?あ、ああ大丈夫。ちょっと考え事してた」

「考え事?呑気やな、手がかりがあるんやからさっさとこっちに進むで」


そう翼に言われて俺達は歩を進めた。

どれ位進んだだろうか?暗闇を進む時間は10分なのか1時間なのか時間経過がわからない。もしかしたら5分もかかってないのかもしれない。

そう思っていると目の前にぼんやりと明かりみたいなのが見えた。

さらに進んでいくとそこには篝火が2つあり真ん中には洞窟の中には似つかわしくない重苦しい鉄扉みたいなのがあった。


暗闇の中から急に出てきたそれは何とも不気味な存在感を出していた

俺と翼は立ち止まりお互いに目が合った


「この中に冒険者達がいるのかな?」

「分からん。せやけど何かの気配がこの中にいることは間違いないで」


そう翼の言葉を聞いて改めて緊張が走り手が震える。

すると翼が声をかけてきた。

「心配せんでええ1人やったら俺も心細いけどお前がおるから俺も安心できるんや。せやからアオイも俺がおるんやから安心しぃ。」

「翼…」

俺は翼の言葉に胸を打たれた


「それにアオイがおらんと金もないし食うもんもないから俺1人では生きていけんやろ?だから死なんでくれよ?」


…前言撤回。翼はやはり翼だ…

だが逆に肩の力が抜けてリラックス出来た。

もしかしたらわざとそんな風に言ったのかもと思ったが翼がそんな器用なこと出来るわけないと思って考えるのをやめた。


「行くぞ?」

「おう!」


改めて2人で扉に手を当てて思いっきり押し扉が開いた。

その先に見た光景は後にも先にも後悔するものだった。


何故なら扉の先にはそこかしこに散らばる人らしき骨があり、真ん中には人らしき姿をした魔物達が「何か」を食っていたからだ…

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