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おまけ
迷子のラブレター(翔視点)
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悠人「あ、おはよう。」
(…やめろ。)
悠人「一緒に帰ろ!」
(やめろ!)
悠人「大好き…だよ?」
(もうやめてくれ!)
翔「朝…か。」
自身の悲痛な叫び声で目を覚まし、汗でぐっしょりと濡れたパジャマを着替える。もう何度も繰り返しているけれど、この苦しみに慣れる日はきっとこないだろう。
初めて悠人の力になれた。
もう悠人を傷つけなくていいんだ。
あいつらが仲直りしたあの瞬間、俺は確かに喜びを感じていた。自身がかすかに感じた胸の痛みさえかき消すほどの、大きな喜びを。
あの日以来、悠人は笑顔を見せることが増えた。その笑顔を遠くから見ているだけで、俺は幸せだった。幸せなはずだった、なのに。
(あの笑顔は永久に向けられたもの。悠人が俺に笑いかけてくれる日は、きっとこない。)
日に日にその思いは強くなり、いつしか俺は悠人の笑顔を見ることを避けるようになった。
俺が夢を見るようになったのは、ちょうどその時くらいからだ。
夢の中では今より少し背丈が伸びた俺と悠人らしき人物が幸せそうに過ごしていて、俺自身はその様子を遠くから眺めている。
悠人が同性を恋愛対象として受け入れるかはさておき、悠人に対して攻撃的な行為しかしていない俺といつでも必死に悠人を守ってきた永久、どちらが選ばれるかなんて分かりきったことだ。そんな絶望的な状況の中で見るこの夢は、俺にとって苦痛でしかなかった。
(毎日こんな夢見てたら、身体を休められないな…。)
まだ睡眠を欲している身体を無理矢理起こすように顔を洗い、俺は学校へと向かった。
先生「…うー、翔ー。」
翔「…うん?」
先生「翔、続きの文章読んでくれるか?」
(やべ、寝ちゃってた!?)
翔「は、はい!えっと…すみません、どこから読めばいいですか?」
先生「はぁ…お前、最近居眠りしすぎだぞ。今度居眠りしたら課題増やすからな。」
翔「…はい、すみません。」
(やっちまった、また悠人にかっこ悪いとこ見られたな…。)
悠人に嫌われる、こんな自分が嫌いだ。
授業の時でさえ悠人のことしか考えられない、こんな自分が嫌いだ。
こんな自分、大っ嫌いだ。
自分に対するすべての負の感情を込めて、俺は今日何度目かも分からないため息をついたのだった。
その日の夕方、いつものように俺が大地・恭也と一緒に下校していた時のことだ。
大地「なぁ、最近の翔、変だぞ。もしかして、永久と悠人がいちゃつくようになったから、恋煩いが悪化しちゃったか?」
翔「…そうだよ、悪いか?」
恭也「ばか、変なこと聞くなよ。」
大地「ご、ごめん…。怒らせるつもりはなかったんだけど。」
恭也「話ならいつでも聞くから元気出してくれよな。最近の翔は、見ていて心配になる。」
翔「ありがとう、心配かけてごめん。」
翔・大地・恭也「…。」
三人の間に流れる気まずい沈黙を破るように、大地が続けた。
大地「翔はさ、こんなにも一途に誰かを想えるんだ。だから、いつかきっと、幸せになれると思うよ。」
俺が幸せになれる…?
俺が悠人に笑いかけてもらえる日はこないのに…??
恭也「…!翔、泣いてる?」
翔「…悪い、用事思い出したから先に帰ってくれ。」
大地「翔…。」
俺はそのまま駆け出していた。
体力が尽きるまで走り続け、気がつくと最寄りの商店街にたどり着いていた。
(二人は俺のことを心配して優しい言葉をかけてくれただけなのに。俺、何やってんだろ。)
後悔しても過ぎてしまったことは仕方ない。二人には明日謝るとして、何か美味しいものでも買って帰ろうとしたその時だった。
???「おにいちゃーん…どこぉ…」
迷子であろう小さな男の子の泣いている姿が、俺に怯えて今にも泣きそうな顔をしていた悠人の姿と重なって―
翔「俺が一緒にお兄ちゃんを探してあげるよ。」
気がついた時には、声をかけていた。
???「ほんとぉ…?」
翔「うん。俺は翔っていう名前なんだけど、君のお名前も教えてくれるかな。」
優陽「ぼく、ゆうひっていうおなまえなの…。」
翔「優陽君っていうんだ。じゃあ、次はお兄ちゃんのお名前を教えてくれるかな。」
優陽「おにいちゃんはね、ゆうとおにいちゃん…。」
(ゆうと…悠人のことか?いや、まさかな。)
翔「分かった、じゃあ俺と一緒にゆうとお兄ちゃんを探そう。心配しなくても、きっとすぐに会えるからね。」
優陽「うん、ありがと…。じゃあ、ぼくも、しょうおにいちゃんがさがしてるひと、いっしょにさがすね。」
翔「…?別に、俺は誰も探してないんだけど。」
優陽「そうなの?しょうおにいちゃんも、ないてるから、まいごなのかなって。」
(やべ、俺まだ目赤いのか。
…それにしても「迷子」か、)
翔「…ふふ、そうだね。俺も迷子なのかも。でも、俺が探している人はきっと俺のことが嫌いだから。これ以上探さない方がいいんだ。」
優陽「…?むずかしくて、よくわかんない。」
翔「とにかく、優陽君はゆうとお兄ちゃんを探すだけでいい。」
それからしばらくの間、優陽君と一緒に商店街を歩き回っていると。
優陽「あ、おにいちゃん!」
悠人「優陽!無事でよかった。」
優陽「しょうおにいちゃんとね、おにいちゃんをさがしたんだよ!」
悠人「しょうお兄ちゃん?…って、翔くん?」
(なんでこんな偶然が起こるんだよ…!)
悠人「…えっと、優陽のこと、面倒みてくれてありがとう。」
翔「…いや、別に。それより俺、急いでるから行くわ。」
悠人「あ…行っちゃった。」
優陽「しょうおにいちゃんも、まいごだからかな?」
悠人「迷子…?」
(優陽君に悪いことしたな…。食べ物も買えなかったし、散々だ。)
家に着いてからも、俺の気分は沈んだままだった。
(俺、いろんなことがうまくいかなくなる呪いでもかかってるんじゃないか?神様、俺が一体何をしたっていうんだ。…いや、悠人に対していっぱいしてきたな。)
きっと俺が悪いのだ。もうすべてに疲れてしまった。心身共に疲弊しきった俺は、これまでの睡眠不足も相まってそのまま眠ってしまった。
次の日の放課後、俺が帰る準備をしていると悠人が話しかけてきた。
悠人「翔くん、改めてになるけど、昨日はありがとう。」
翔「別に。放っておけなかっただけだし。」
悠人「そ、そっか…。」
翔「…で?俺、帰りたいんだけど。」
悠人「あ、あのね!優陽が翔くんに『おてがみわたしてきて!』って。優陽、翔くんのことが気になるみたいで。」
拙い文字で『しょうおにいちゃんへ』と書かれた手紙を悠人から受け取り、手紙を開けてみるとこう書かれていた。
『ぼくは しょうおにいちゃんが だいすきだよ』
翔「…ふふ。」
悠人「優陽に『なかはみないで!』って言われたから、手紙の内容は知らないんだけど…。面白いこと、書いてあった?」
翔「これはかわいらしい…いや。優陽君が悠人には内緒にしたいなら、俺も教えてあげない。」
悠人「…そっか。優陽に何か伝えておくこととかある?」
翔「『この手紙、ずっと大切にするから』って伝えておいてくれるか?」
悠人「わかった、伝えておくね。」
翔「じゃ、俺、帰るから。」
悠人「うん…またね、翔くん。」
翔「…!お、おう。またな。」
この日から少しずつ、真っ暗だった俺の世界に光が射し始めた。
(…やめろ。)
悠人「一緒に帰ろ!」
(やめろ!)
悠人「大好き…だよ?」
(もうやめてくれ!)
翔「朝…か。」
自身の悲痛な叫び声で目を覚まし、汗でぐっしょりと濡れたパジャマを着替える。もう何度も繰り返しているけれど、この苦しみに慣れる日はきっとこないだろう。
初めて悠人の力になれた。
もう悠人を傷つけなくていいんだ。
あいつらが仲直りしたあの瞬間、俺は確かに喜びを感じていた。自身がかすかに感じた胸の痛みさえかき消すほどの、大きな喜びを。
あの日以来、悠人は笑顔を見せることが増えた。その笑顔を遠くから見ているだけで、俺は幸せだった。幸せなはずだった、なのに。
(あの笑顔は永久に向けられたもの。悠人が俺に笑いかけてくれる日は、きっとこない。)
日に日にその思いは強くなり、いつしか俺は悠人の笑顔を見ることを避けるようになった。
俺が夢を見るようになったのは、ちょうどその時くらいからだ。
夢の中では今より少し背丈が伸びた俺と悠人らしき人物が幸せそうに過ごしていて、俺自身はその様子を遠くから眺めている。
悠人が同性を恋愛対象として受け入れるかはさておき、悠人に対して攻撃的な行為しかしていない俺といつでも必死に悠人を守ってきた永久、どちらが選ばれるかなんて分かりきったことだ。そんな絶望的な状況の中で見るこの夢は、俺にとって苦痛でしかなかった。
(毎日こんな夢見てたら、身体を休められないな…。)
まだ睡眠を欲している身体を無理矢理起こすように顔を洗い、俺は学校へと向かった。
先生「…うー、翔ー。」
翔「…うん?」
先生「翔、続きの文章読んでくれるか?」
(やべ、寝ちゃってた!?)
翔「は、はい!えっと…すみません、どこから読めばいいですか?」
先生「はぁ…お前、最近居眠りしすぎだぞ。今度居眠りしたら課題増やすからな。」
翔「…はい、すみません。」
(やっちまった、また悠人にかっこ悪いとこ見られたな…。)
悠人に嫌われる、こんな自分が嫌いだ。
授業の時でさえ悠人のことしか考えられない、こんな自分が嫌いだ。
こんな自分、大っ嫌いだ。
自分に対するすべての負の感情を込めて、俺は今日何度目かも分からないため息をついたのだった。
その日の夕方、いつものように俺が大地・恭也と一緒に下校していた時のことだ。
大地「なぁ、最近の翔、変だぞ。もしかして、永久と悠人がいちゃつくようになったから、恋煩いが悪化しちゃったか?」
翔「…そうだよ、悪いか?」
恭也「ばか、変なこと聞くなよ。」
大地「ご、ごめん…。怒らせるつもりはなかったんだけど。」
恭也「話ならいつでも聞くから元気出してくれよな。最近の翔は、見ていて心配になる。」
翔「ありがとう、心配かけてごめん。」
翔・大地・恭也「…。」
三人の間に流れる気まずい沈黙を破るように、大地が続けた。
大地「翔はさ、こんなにも一途に誰かを想えるんだ。だから、いつかきっと、幸せになれると思うよ。」
俺が幸せになれる…?
俺が悠人に笑いかけてもらえる日はこないのに…??
恭也「…!翔、泣いてる?」
翔「…悪い、用事思い出したから先に帰ってくれ。」
大地「翔…。」
俺はそのまま駆け出していた。
体力が尽きるまで走り続け、気がつくと最寄りの商店街にたどり着いていた。
(二人は俺のことを心配して優しい言葉をかけてくれただけなのに。俺、何やってんだろ。)
後悔しても過ぎてしまったことは仕方ない。二人には明日謝るとして、何か美味しいものでも買って帰ろうとしたその時だった。
???「おにいちゃーん…どこぉ…」
迷子であろう小さな男の子の泣いている姿が、俺に怯えて今にも泣きそうな顔をしていた悠人の姿と重なって―
翔「俺が一緒にお兄ちゃんを探してあげるよ。」
気がついた時には、声をかけていた。
???「ほんとぉ…?」
翔「うん。俺は翔っていう名前なんだけど、君のお名前も教えてくれるかな。」
優陽「ぼく、ゆうひっていうおなまえなの…。」
翔「優陽君っていうんだ。じゃあ、次はお兄ちゃんのお名前を教えてくれるかな。」
優陽「おにいちゃんはね、ゆうとおにいちゃん…。」
(ゆうと…悠人のことか?いや、まさかな。)
翔「分かった、じゃあ俺と一緒にゆうとお兄ちゃんを探そう。心配しなくても、きっとすぐに会えるからね。」
優陽「うん、ありがと…。じゃあ、ぼくも、しょうおにいちゃんがさがしてるひと、いっしょにさがすね。」
翔「…?別に、俺は誰も探してないんだけど。」
優陽「そうなの?しょうおにいちゃんも、ないてるから、まいごなのかなって。」
(やべ、俺まだ目赤いのか。
…それにしても「迷子」か、)
翔「…ふふ、そうだね。俺も迷子なのかも。でも、俺が探している人はきっと俺のことが嫌いだから。これ以上探さない方がいいんだ。」
優陽「…?むずかしくて、よくわかんない。」
翔「とにかく、優陽君はゆうとお兄ちゃんを探すだけでいい。」
それからしばらくの間、優陽君と一緒に商店街を歩き回っていると。
優陽「あ、おにいちゃん!」
悠人「優陽!無事でよかった。」
優陽「しょうおにいちゃんとね、おにいちゃんをさがしたんだよ!」
悠人「しょうお兄ちゃん?…って、翔くん?」
(なんでこんな偶然が起こるんだよ…!)
悠人「…えっと、優陽のこと、面倒みてくれてありがとう。」
翔「…いや、別に。それより俺、急いでるから行くわ。」
悠人「あ…行っちゃった。」
優陽「しょうおにいちゃんも、まいごだからかな?」
悠人「迷子…?」
(優陽君に悪いことしたな…。食べ物も買えなかったし、散々だ。)
家に着いてからも、俺の気分は沈んだままだった。
(俺、いろんなことがうまくいかなくなる呪いでもかかってるんじゃないか?神様、俺が一体何をしたっていうんだ。…いや、悠人に対していっぱいしてきたな。)
きっと俺が悪いのだ。もうすべてに疲れてしまった。心身共に疲弊しきった俺は、これまでの睡眠不足も相まってそのまま眠ってしまった。
次の日の放課後、俺が帰る準備をしていると悠人が話しかけてきた。
悠人「翔くん、改めてになるけど、昨日はありがとう。」
翔「別に。放っておけなかっただけだし。」
悠人「そ、そっか…。」
翔「…で?俺、帰りたいんだけど。」
悠人「あ、あのね!優陽が翔くんに『おてがみわたしてきて!』って。優陽、翔くんのことが気になるみたいで。」
拙い文字で『しょうおにいちゃんへ』と書かれた手紙を悠人から受け取り、手紙を開けてみるとこう書かれていた。
『ぼくは しょうおにいちゃんが だいすきだよ』
翔「…ふふ。」
悠人「優陽に『なかはみないで!』って言われたから、手紙の内容は知らないんだけど…。面白いこと、書いてあった?」
翔「これはかわいらしい…いや。優陽君が悠人には内緒にしたいなら、俺も教えてあげない。」
悠人「…そっか。優陽に何か伝えておくこととかある?」
翔「『この手紙、ずっと大切にするから』って伝えておいてくれるか?」
悠人「わかった、伝えておくね。」
翔「じゃ、俺、帰るから。」
悠人「うん…またね、翔くん。」
翔「…!お、おう。またな。」
この日から少しずつ、真っ暗だった俺の世界に光が射し始めた。
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