前世で断罪された悪役令息、今世では幸せを願う。

いお。

文字の大きさ
6 / 8

5,再び交わる運命

しおりを挟む
翌日、ついに学園生活がスタートした。
僕と春樹は学園の掲示板に張り出されるクラス表を見るべく、早めに寮を出る。

「あ、あった!同じクラスみたいだよ!」春樹が自身と僕の名前を同じクラス表の中で見つけ嬉しそうに言った。

「うん!良かった。違うクラスだったら心細くて如何しようかと思ったよ。」僕も吊られて笑顔で応えた。

ふと隣のクラス表に目を移すと、東條暁人の名前を見つけた。
どうやら彼は別のクラスみたいだ。僕は少し安堵しながらも、どこか複雑な感情を抱いていた。

前世の記憶が蘇ってから、彼の存在が気になって仕方ない。
前世の事柄ははっきり覚えているのに、なぜか幼年の頃の暁人と遊んでいた記憶は霧がかったように記憶に薄いからだ。

しかし、そんなことを考えるのに時間を費やす暇も無く学園生活は動き始める。
初日の緊張と期待が入り混じった気持ちの中、僕と春樹は教室を目指す。クラスメイトたちと挨拶を交わし、自身の席を見つけて着席したところで、担任の先生が現れた。

「皆さん、おはようございます。本日よりここでの学びが始まります。私は1年の間、担任を受けもつ廣瀬ひろせです。よろしくお願いします。」廣瀬先生はにこやかに自己紹介をし、続けて授業の流れやカリキュラムについて説明をしだした。先生は白髪混じりの髪と深いシワが特徴の穏やかな雰囲気の人だった。その雰囲気に教室の空気も柔らかくなったように感じる。

朝のホームルームで自己紹介などを終え、ついに授業が始まる時間だ。
1限目は科学で早速移動教室になっている。校内の案内も含めてクラス全員で科学室に向かう。

到着して科学室に入ると、既に担当の先生が待っていた。
後ろを向いていたその先生の顔が振り向いた瞬間、僕の心臓がドクンと跳ね上がった。

『ベネディット先生?!』僕は心の中で叫んだ。

教卓に立っていたのは、前世で婚約者と共にヴァイオレットを断罪した王宮魔道士のベネディット先生その人だった。彼は前世で、王妃教育として魔法の授業を担当し、ヴァイオレットに対して厳格な態度を崩さなかったお人だ。

過去の記憶がどんどんフラッシュバックし呼吸が浅くなっていく。
僕の心臓は激しく鼓動し、体が氷つくような感覚に襲われた。

「菫怜?」科学室の入り口でそのまま立ち尽くしていた僕に、春樹が心配そうに声をかけてきた。

「どうした?顔色悪いぞ。」

その声で我に返り、震える手で額の汗を拭う。
「ごめん、何でもないよ。」急いで返事を返したが、不安と恐怖心は拭えない。


「皆さんおはようございます。私は科学の授業を担当する櫻庭さくらばです。」櫻庭と名乗ったベネディット先生は冷静な声で挨拶をした。

早速授業に取り掛かろうと、櫻庭先生の目が教室内を見渡す。僕と目があった一瞬、櫻庭先生の目が揺らいだように見えたが気のせいだろうか。何事も無かったかのように生徒から視線を外して授業の話を始めだした。

『先生が、ここに…なぜ?』心の中で繰り返し問いかけるが、答えは返ってこない。

櫻庭先生はその後も淡々と授業を進めていたが、僕の心はずっと過去に引きずられたままで、この日は授業に集中する事ができなかった。

「そういえば今日は眼鏡かけてるんだね。目悪かったのか?」授業を終え教室に戻る道中に春樹が話しかけてくる。

「うん、少しね。でもこれでよく見えるようになったよ。」

僕は微笑んで答えたが、心の中ではその本当の理由を隠していた。
前世の記憶を思い出してからこれ以上、東條暁人と関わり合いたくないと思った。幼い頃に遊んでいた頃の僕を東條が覚えていれば、声をかけられる可能性だってある。そのため出来る限り目立たないようにしたいと思い眼鏡をかけることを選んだのだった。

「そうなんだ。眼鏡も似合ってるよ。」

春樹にそう言われ、僕は照れ臭そうに笑った。
先程まで胸中を渦巻いていた暗い感情が春樹との会話で、少し落ちつきを取り戻した。





授業に身が入らないまま、お昼休みを迎える。
僕達は昼食をとるため1階の食堂へ向かうことにした。

「そういえば今年の代には留学生が来てるらしいよ。すごく優秀だって噂だ。」

「へぇ、そうなんだね。」春樹の話に軽く頷き返す。
今だに櫻庭先生のことで頭がいっぱいだった僕は、その話にあまり興味を示さなかった。

食堂に着くと、すでにたくさんの生徒たちが談笑と食事を楽しんでいて賑わいを見せている。
ここの食堂はフードコートのような形式になっており、様々な種類の料理がカウンターに並んでいる。その中から好きな料理を選び、学生たちは学生証を提示する事で1食分の食事を注文する事ができるという仕組みだ。

僕と春樹も選んだ食事を受け取り、空いている席を見つけて食事を始めようと椅子に腰を降ろしたところ。突然、食堂の一角が騒がしくなる。

「何だろう?」僕と春樹はざわめく方向に顔を向けた。

どうやら騒ぎの中心には件の留学生が立っているようだ。異国の風貌と威厳ある佇まいで周囲を圧倒している。

「あ、さっき話した留学生のアルベルトだよ。」春樹が僕に顔を近づけて囁いた。

遠くに居て容貌がはっきりとは見えない。
先程までは興味をもっていなかったが、何故か無性に彼の事が気になり始める。そして彼がこちらの方に近づくにつれてその輪郭がはっきりと見えてきた。

『アルベルト…まさかクリストファー王子?』

僕が驚きに目を捲ったその時、アルベルトが入ってきた方角とは逆の入り口から東條が現れた。そして更に追い打ちをかけるかのように僕を驚かせたのは、東條の後ろを歩いている2人の顔に見覚えがあったからだ。

『もしかしてロータスとエリオットなのか?』

その姿はまさに前世で婚約者ウィルフレッドと共に私を断罪した、宰相子息のロータスと護衛騎士のエリオットである。

前世で関わりのある4人が一堂に会する光景は、まるで運命の再開を象徴するかのようだった。

「久しぶりだな、暁人!」

アルベルトが暁人に近付き挨拶を交わした。2人の間に一瞬緊張感が漂ったが、すぐに友好的に会話を始めたようだ。
4人で仲睦まじく会話をする彼らの姿は、前世で見ていた光景そのままである。

その光景を遠くから見つめていた僕は、自分の中で何かが沸々と湧き上がってくるのを感じた…前世で断罪された場面が鮮明に蘇り、心に痛みと苦しみが渦巻く。

そしてその4人の姿が仲睦まじく見えるほど、心の中には深い孤独感が同時に広がっていく。重くのしかかる感情と痛みに耐えきれなくなり、視界がだんだんとぼやけ始める。

「菫怜、どうした?…菫怜!」

春樹の呼ぶ声がする。応えたいのに声を音にして出すことが出来ない。

前世の記憶と現世の現実が交錯する中、僕はついに意識を手放した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

『悪役令息』セシル・アクロイドは幼馴染と恋がしたい

佐倉海斗
BL
侯爵家の三男、セシル・アクロイドは『悪役令息』らしい。それを知ったのはセシルが10歳の時だった。父親同士の約束により婚約をすることになった友人、ルシアン・ハヴィランドの秘密と共に知ってしまったことだった。しかし、セシルは気にしなかった。『悪役令息』という存在がよくわからなかったからである。 セシルは、幼馴染で友人のルシアンがお気に入りだった。 だからこそ、ルシアンの語る秘密のことはあまり興味がなかった。 恋に恋をするようなお年頃のセシルは、ルシアンと恋がしたい。 「執着系幼馴染になった転生者の元脇役(ルシアン)」×「考えるのが苦手な悪役令息(セシル)」による健全な恋はBLゲームの世界を覆す。(……かもしれない)

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

聞いてた話と何か違う!

きのこのこのこ
BL
春、新しい出会いに胸が高鳴る中、千紘はすべてを思い出した。俺様生徒会長、腹黒副会長、チャラ男会計にワンコな書記、庶務は双子の愉快な生徒会メンバーと送るドキドキな日常――前世で大人気だったBLゲームを。そしてそのゲームの舞台こそ、千紘が今日入学した名門鷹耀学院であった。 生徒会メンバーは変態ばかり!?ゲームには登場しない人気グループ!? 聞いてた話と何か違うんですけど! ※主人公総受けで過激な描写もありますが、固定カプで着地します。 他のサイトにも投稿しています。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...