復讐と約束

アギト

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第1章 復讐の芽生え

第五話 最初の村

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 ショウは宛もなく森の中を歩き続けていた。
「何処を目指せばいいかを決める前にカシルさんを殺されてしまったからな。どうしたものかな」
そうカシルと共に、作戦を練ってから旅立つ予定であった。しかし、暗殺者の襲撃によりその予定が狂ってしまった。
「こういうときは、魔眼:模倣『生命探知』」
生命探知は、周囲のありとあらゆる生物を探知することができる。個人差はあるが、ショウは半径500メートルを探知できる。因みに、訓練している時にたまたま手に入れたスキルである。
すると、北東の方から走っている魔物と人間の気配を見つけた。
「行ってみるか。」

 子供ゴブリンは、三人の山賊から逃げていた。
「はぁはぁはぁ…」
「待ちな!ゴブリン」
「俺達の宝を返せ!!」
「ぐっ、うわぁ」
子供ゴブリンは、木の根に引っ掛かり転がった。山賊は、
「もう逃さねぇぞ~」
と子供ゴブリンの周りを囲った。そしてナイフを取り出し、
「宝を渡すのと、死ぬのどっちがいい?」
とゴブリンに言った。子供ゴブリンは、その場にあった小石を投げて、強い眼差しで、
「死ぬ気なんかない。そして、これは僕らの宝物だ!!」
と返答した。一人の山賊が、
「だったら死ね!!」
と言って、一斉にナイフを刺そうとした。子供ゴブリンは、目を瞑った。しかし、ナイフが子供ゴブリンに刺さることはなかった。
「おいおい、まだまだ子供だぞ。少しは容赦しろよ。小心者共が」
とショウは子供ゴブリンの前に現れた。山賊の一人が、
「誰だよお前?」
とショウに質問をした。ショウは、汚物を見るような目で、
「どうせ、眠る相手に名前を言う必要はありませんよね。」
と返答してから構えた。山賊達は、
「そうだな~失礼失礼」
と構えた。勝負は一瞬でつくことになる。ショウは、山賊が構えた瞬間、
「落ちな、固有スキル:影使い 影沼」
すると山賊達の影が沈み始めた。
「な、何だこれ!」
「足がぬ、ぬ、抜けない。」
「何処まで沈むんだよ!」
とほざきながら、山賊達を影が全て飲み込んだ。子供ゴブリンは、ショウに怯えながら質問をした。
「何したの?」
「影沼、俺の固有スキル『影使い』の技の一つだ。相手の影を大地と直結させて相手を引きずり込むんだ。」
影使い・・・影を自由自在に操るスキルである。このスキルは、所有者自身の技量によりレベルが上がっていく。因みに、サタンとショウのみが持つスキルである。
ショウは、子供ゴブリンを立ち上がらせて、
「よく弱音を吐かなかったな。カッコ良かったよ。」
と頭を撫でた。子供ゴブリンは、
「いや…結局何もできなかった。もっと強くならなきゃ」
と下を向いて、ショウに聞こえないくらいの声で言った。ショウは、
「まっ、取り敢えず無事で何よりです。ところで、こんなところで何をしていたんですか?『宝が~』どねぇのこねぇの言ってましたけど。」
と子供ゴブリンに聞いた。子供ゴブリンは、
「あいつ等のお頭?とか言うやつが、僕らの村の宝であるこれを力尽くで盗みに来たんだ。」

          数週間前
 今日も何事もない平穏な日を送っていたゴブリン達、子供は友達と遊び、大人は畑を耕したりしていた。しかし、その平穏が一瞬で崩れた。
 村の入口に、多数の人間がぞろぞろと現れた。そしてその中のひとりの男が、
「あ~この村にある宝を貰いに来た。大人しくよこせば、命は助けてやる。」
と魔石を通して、声を出していた。それから村長が出て、
「な、何を仰ってるんですか?」
と声の主にいった。声の主は、
「惚けんなジジイ、あるんだろ?この世で最も希少価値の高い宝石『ラクセム』がな」
と村長に少し圧をかけて言った。村長は焦りの表情で、声の主に聞いた。
「何故それを…」
「ふん、俺の固有スキル『情報開示』は、この世の知りたい情報をすべて見ることができる。その情報によれば、ここに『ラクセム』があること、この村ができた経緯なんかもみれたな~」
「ぐぅぬぬ」
と村長は、拳を握りしめていた。声の主は、
「最後のチャンスだ。『ラクセム』はここにあるのか? 」
と言った。村長は、
「お前等、下世話者にやるものなんて、牛のフン位しか無いわ!」
と返答をした。そして周りのゴブリン達も「気持ちは同じです。」と言わんばかりに、武器になり得るものを持っていた。
「だったら、皆殺しにしてゆっくり探させてもらおう。」
と合図を出すのとともに、手下共が動き始めた。
 そこからは、一方的な虐殺であった。ゴブリン達の目をくり抜いたり、腕を切り落としたりしていた。子供ゴブリンとその母達は、命かながら逃げ延びた。そして、廃村となっていた場所を利用し、ひっそりとしていた。

 ショウは悲惨な状況を聴きいた。
『ここまで廃れやがったか、人間共』
と心の中で更に怒りが込み上げてきた。
「何とかあいつ等の寝所を見つけて、『ラクセム』を奪い返せたんだ。でも…」
「追手に追いつかれて、危うく死ぬところだったと」
「本当にありがとう。」
「別にいいよ。それより『ラクセム』っていうのを見せてくれないかな。」
「う、うん」
と子供ゴブリンは、「ラクセム」をショウに渡した。ショウは、「ラクセム」を魔眼に通してみた。すると、思わぬことがわかった。
『何だこれ!魔力が尋常じゃないくらい溢れている。』
通常、宝石には魔力が宿ることはない。魔石はある一定量の魔力しか宿せない。(因みに基準は、魔力50~100が魔石に当たる。)つまり、「ラクセム」は宝石でも魔石でもない。
『この石の情報は持ってないが、これだけは分かる。この石は、下手をすれば天変地異が起こる。』
とショウは魔眼を通して理解した。そして、子供ゴブリンに「ラクセム」を返し、
「なぁ、近くに村とかないかな?宿だけ借りたいんだけど」
と子供ゴブリンに尋ねた。子供ゴブリンは答えた。
「なら、うちの村が近いよ。」
「どの位離れてる?」
「う~ん、ここからだと大体二十キロは離れてるけど。」
「そうか、それなら5分も掛からないね。」
そう言うと、ショウは子供ゴブリンを背負い、
「方角は?」
「南東をずっとまっすぐ」
「了解」
と尋常じゃない速さで、森を駆け抜けた。

          数分後
「ふぅ~到着」
「あばばば…」
「お~い、しっかりして~」
と子供ゴブリンに声をかけた。あの距離を数分で駆け抜けたショックで、子供ゴブリンは気を失いかけていた。子供ゴブリンは、頭を振り、
「もう大丈夫、下ろして」
「そうか」
とショウの背中から下りた。そして、
「あそこが、うちの村『ランケル村』だよ。」
と村の看板に指をさした。ランケル村は、少し廃れているように見えた。そして村の中に入り、辺りを見渡して、
『家はおろか、子供や大人もみんな痩せ細っている。周りには、食材となる獲物は沢山いたはずだが…』
と思っていた。ショウは、食材となる獲物を沢山見つけていた。それに、立地自体も悪くない。だが、ここまで廃れている理由が分からなかった。すると、子供ゴブリンに気付いたのか、一人の大人ゴブリンが近付き、
「何やってたんだい!ショック」
ショックと言われた子供ゴブリンのほっぺを叩いた。ショックは、
「ごめんなさい。でも、どうしても取り返したかったから…」
と手を震えさせながら、「ラクセム」を出した。大人ゴブリンは、
「このバカ…ショックの命のほうが大事でしょ。」
と泣きながら、ショックを抱きしめた。そして、ショウに気付き、
「この子を助けてくれたんですか?ありがとうございます。」
「いえ、たまたまですから。」
「何かお礼をしたいんですが、あいにく何もできなくて…」
と下を向いていった。ショウは、「気にしてない」という顔で、
「今晩、宿を借りれればいいですよ。それと、少し情報が欲しい。」
と言った。大人ゴブリンは、
「そんなことで良ければ。」
とショウを自分の家に入れた。
 中に入り、
「水しか出せませんが…」
「いえ、大丈夫です。それより…」
「はい」
「あなたの知っている情報を聴かせてください。」
「分かりました。まずは何を?」
と大人ゴブリンは、ショウを見てそう言った。
「まず、ショック君の持っていた『ラクセム』とはなんですか?見てみましたが、とてつもない魔力量だった。あれは一体…」
「『ラクセム』は、我々の先祖が見つけた宝石です。『ラクセム』には元々魔力は籠もってませんでした。」
「え?でもそんな例は、一つもないはずです。仮にあれば、書物になっていても可笑しくないですよ。」
「そうですね。でも、これには、突然魔力がこもったんです。」
「というと?」
「あれは、200年ほど前になります。」

          200年前
 まだゴブリン達が、村を作る前の話。
ゴブリン達が、川で遊んでいると、
「んご、んごごん!(これは、キレイな石だ!)」
「んごん。んごご~(ホントだ。いいな~)」
「んごごご~(いいだろ~)」
と綺麗な石を見つけた。因みに、この時代は、まだ独自の言語で話していた。そして、
「んごんごん(長は知ってるかな)」
「んごん?(どうだろうな?)」
と話しながら、住処へと帰った。
 住処に帰り、
「んご!(長!)」
「んごご!(何だ!)」
「んごご(これを)」
とゴブリンは、長に渡した。長は、まじまじと石を見て、
「んごごご?(なにか知ってますか?)」
「んごんご、んご…(宝石だな、しかし…)」
「んご?(どうしましたか?)」
「ん~んごごんん(ん~俺の知ってる宝石でないな)」
「んごんん(そうですか)」
「んんごご(ちょっと貸しといてくれ)」
「んご(はい)」
と長は、その宝石を借りて奥に行った。

 長は、ゴブリンから借りた宝石を見たり、叩いたりした。
「んん(ふむ)」
しかし、どこからどう見ても宝石で、一切傷がつかなかった。長は、少し考えた。
「んごごご、んごんん(よくわからん、何だこれ)」
長ゴブリンは、宝石について詳しかった。自身の見つけた宝石を叩いたり、臭いで『宝石の種類』か判るようになるくらい。しかし、先程叩いたりしても、自身の計測値にはなく困惑した。長ゴブリンは、
「んご、んごごご(でも、危険性は無さそうだな)」
宝石には、危険なもの数多くある。例えば、硫砒鉄鉱には多量のヒ素が含まれている。その為、化学的処理をすると、猛毒、発がん性等の有毒ガスが発生する。因みに、ハンマーで叩くと火花を散らすので見分けができる。しかし、この宝石にはその反応はなかった。
「ん……んごん、んごご(う~ん……取り敢えず、ここに入れておくか)」
といつも宝石を管理している箱に入れた。

          数ヶ月後
 長ゴブリンと他ゴブリンは狩りに出ていた。しかし、生憎なことに、オーガ一族に遭遇してしまった。
「おい、ゴブリン共」
「んご(何だ)」
「その食料寄こせ、そうすれば命は助けてやるよ。」
「んごごん!(そんなことできるか!)」
「「「「んごんご!(そうだそうだ!)」」」」
「なら、死ね」
とオーガの一体が、剣を振りかざした。長ゴブリンは、
『あいつらを守らねば!』
と思い、両手をひろげみんなを守ろうとした。その瞬間、持って来ていた宝石が、忽然と光りだした。そして、長ゴブリンに青い光が覆い、
「これは一体」
「んご!(長!)」
「何だ!あれ?人語が喋れてる。」
長ゴブリンは、人語が喋れてることに驚いた。その間に、オーガはもう一度剣を振りかざした。しかも先程よりも多勢で、
「「「死ね!!」」」
「おら!!」
と長ゴブリンは、オーガ達を殴り飛ばした。長ゴブリンは、その力にも驚いた。そして、
「お前ら、これを持ってみてくれ。」
「ん!(はい!)」
と持たせてみた。すると、その瞬間先程の青い光が覆い、
「長、あれ?自分も人語を…」
「やっぱり」
「これは一体?」
「さぁな、ただ…」
と宝石を取り、ニオイを嗅いでみた。そこには、魔力のニオイがした。
『魔力量は分からないが、魔力が籠もったのはわかった。』
と心で思った。他のゴブリンが、
「んご、んごご(長、どうなってるんですか)」
「俺も困惑している。」
と言った。
後に、長ゴブリンが独自で研究をして、魔力が籠もった理由を見つけた。それは、この宝石には『元々』魔力が籠もっていた。そして、その魔力が復活したのは、強い思いに反応した。

「それから、色々な周りの魔物との交流が増え、村まで発達していったんです。」
『魔力が籠もっていた宝石、一体どうやって作ったんだ?』
宝石に魔力を籠める方法は存在しない。もし込めようものなら、宝石が耐えきれず壊れてしまう。
 ショウは、「ラクセム」に違和感を感じながら、
「因みに、何で『ラクセム』っていうんですか?」
と聴いた。母ゴブリンは、
「確か、村長から聴いたのは、最初に宝石を見つけた人の名前ですよ。」
と答えた。そして、ショウは真剣な表情に戻し、
「分かりました。次の質問です。」
「はい」
「勇者一行について、知ってることを教えてください。」
と聴いた。母ゴブリンは、
「勇者一行?とはなんですか?」
と逆に質問をされた。ショウは戸惑い、
「実は…」
と自身のことを一部隠して話した。そして母ゴブリンは、
「そうでしたか…ごめんなさい。全く知りません。」
と返答をした。ショウは、少し落ち込んだ表情で、
「そうですか。」
と言った。ゴブリン達は、魔物間での交流は多かったものの、人間には交流が一切なかった。更には、サタンの存在自体を知らないときた。そう思ったとき、ふとショウはあることを思い出した。
「そう言えば、あなた方の村を襲った奴らの頭が固有スキルを使えたんですよね?」
「はい、確か『情報開示』と言っていました。」
それを聴いて、ショウは少し考えた。
『その「情報開示」を魔眼で模倣できれば、奴らの情報を手に入れることができる。しかし、やつにどう使わせるか。』
魔眼:模倣・・・相手のスキルや魔法等を模倣できる。条件は、見て理解することである。理解出来ない又は見ていなければ模倣はできない。
つまり、情報を聞くだけでは、模倣ができない。ショウは考えていると、
バンッ バンッ
と何か壊されている音がした。母ゴブリンは、恐る恐る窓の外を見ると、
「あいつ等は!」
そこには、山賊が8人いた。ショウは母ゴブリンに、
「8人か、あれで全員?」
と尋ねた。母ゴブリンは、首を横に振り、
「いえ、奴らは20人ほどいたかと。恐らく、私達を殺しに来たんです。」
と震えながら、ショックを守って言った。ショウは、
「ここに居てください。僕が出ます。」
と言って、山賊達の前に出ていった。
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