復讐と約束

アギト

文字の大きさ
上 下
5 / 21
第1章 復讐の芽生え

第四話 復讐の開始

しおりを挟む
 暗殺者は、隠密行動を得意とする職業である。また、毒などに対する耐性も高く、「完璧な解毒」「抗体生成」などの状態異常回復スキルを複数所持している。
「お前らの目的は何だ?」
ショウは暗殺者に質問をした。暗殺者は鼻で笑い答えた。
「それは、お前ら魔族を殺し、平穏を取り戻すためだ。そんな当たり前のことを何故聞く?」
「いつの時代の人間だ。今は魔物であれ、人間であれ平和に過ごしている。お前等が襲撃してこなければ、崩れなかった均衡だ。」
「けっ、世迷い言はそれだけか!」
と二人が戦闘態勢に切り替えた。

 先に動いたのは暗殺者だった。
「残像歩行」
と緩急のある歩行に加え、不規則な動きで残像を作った。そこから畳み掛けるように攻撃をした。ショウは焦ることなく、すべて躱し、腹部に拳をついた。
「フンッ」
暗殺者は寸前で、両腕でガードした。
「ぐっ、悪くない拳だな。」
「それは、血を出しながら言うことじゃないぞ。」
「何を…?!」
と暗殺者から鼻血が出ていた。
『馬鹿な!ちゃんとガードした。なのになぜ?』
と暗殺者は困惑した。その隙に、ショウは畳み掛けるように攻撃をした。
「影武者:五体」
と自分の影を媒介し、五人の影人を出した。そこから、
「ソニックブロー」
「終の拳:楽胴牙」
とありとあらゆる技を食らわせた。暗殺者は、その攻撃に耐えながら考えた。
『何だ、先程から攻撃が止まない。いくら魔力量が多くても必ず溜めが必要なはず。もしや…』
そして暗殺者は、自身の心臓を突き刺して自害した。

 暗殺者は目を覚ました。その周りにはトレントの群れがいた。
「クソッ、もう解けたのかよ。」
「この人間、流石に早すぎないか?」
「焦る必要はない、我々の目的はあくまで時間稼ぎだ!」
「もう一度、眠れぃ!」
ともう一度「眠りのうねり」を使おうとしたが、
「させるわけ無いだろ」
と暗殺者は、トレント達に強烈なプレッシャーをかけた。周りのトレント達が畏怖している間に、
「火龍円」
と持っていたサバイバルナイフと着火剤を使い、その場で円を描きトレントの群れに喰らわせた。
「あっちぃ!?」
「ふざけんなよ!この人間!」
「湖に飛び込め!」
とトレント達が逃げていった。暗殺者は、
「ふぅ~さてと、何処行ったかな~」
とショウ達を探し始めた。

 一方、ショウ、腹部を抑えているカシルとトレントがいた。ショウは、トレントに礼を言った。
「ありがとうございます。」
「いえ、ここもすぐに見つかってしまうでしょう。」
あの時、近くにいたトレント達が一斉に「眠りのうねり」を発動させ、ショウとカシルを連れて逃してくれていた。
「はぁ……はあ……」
「カシルさん、大丈夫ですか!?」
と重い息をついているカシルに声をかけた。正直、かなり深刻な状況だった。しかし、今の際の力を振り絞り、
「ショウ…さ…ま…」
ショウに声をかけた。ショウは、静かにカシルの言葉を聴いた。
「ショウ様…もしも……時は、我が息子を……頼ってくだ…さ……い」
「はい!頼りにさせていただきます。」
「あり…がとうご…ざいま……す。」
とショウは、涙を溢した。トレントが何かを捉えたのか、
「どうやら、泣いてる場合ではなくなりましたよ。」
と言われた。ショウは涙を拭き、
「あぁ、見ていてくれ。父さん、母さんそしてカシルさん、今こそ訓練の成果を見せるときです。」

 暗殺者は、ショウを探していた。しかし、ショウは堂々と暗殺者の前に現れた。暗殺者は戦闘態勢に入った。一方のショウは、構えを取らずに暗殺者に話をかけた。
「お前は絶望したことはあるか?」
「はぁ~何だ急に?」
「質問に答えろ、卑怯者」
「何度かはあるな。だがそれがどうした?なんの関係がある?」
「そうか、安心した。所詮は人間だな。」
とショウは、悪魔の笑みを浮かべた。それと同時に、
「魔剣生成『断感刀』」
とショウは魔剣を生成した。
そして、
「なら苦痛もなく死ねるな。絶望した事が無ければ、初めての苦痛だったろうから、苦しいかと思った。でも良かった、何度かしていて」
と悠長に喋った。暗殺者は、
「一つネジが外れたのか」
と冷や汗をかいた。暗殺者は、
「五感超覚醒」
五感覚醒させ、ショウの一挙手一投足に神経を集中して見た。
 ショウは、突風が走り抜けた瞬間に動いた。暗殺者は、それに合わせて動いた。ショウが魔剣で斬り掛かったが、それを暗殺者は回避し、サバイバルナイフで斬りかかる。それをガードした。
『チッ、五感を覚醒させても、カウンターで手一杯だ。こんなことあり得るのかよ。』
五感超覚醒・・・自身の五感を極限まで覚醒させる。それにより、生物の動きが遅く見えたり、何十キロと離れている滝の音が聞こえたりする。
そんな状態である暗殺者でも、何とかカウンターに転ぜれるぐらいであった。
 ショウは屈んで断感刀で斬りかかり、暗殺者に掠り傷を負わせた。暗殺者は距離を置き、
「何のこれしき…!痛みがない。どういうことだ!」
と自分の痛覚が消えていることに気付いた。ショウは、魔剣の説明を始めた。
「僕の生成した魔剣『断感刀』は、斬った対象の感覚をランダムで奪うんだよ。」
断感刀・・・斬った対象の感覚を一時的にランダムで奪う。一撃喰らえば、聴覚を奪われ。二撃喰らえば、視覚を奪われる。と言う風に奪われる。長期戦では、とても有利に進めることができる。
「そんなのありかよ。」
「お前も人のこと言えないだろ。卑怯者いやカビ野郎」
「舐めるなよ、残像歩行」
と先程夢で使った技を使って、ショウに斬り掛かった。しかし、ショウは魔眼を発動させ、
「魔眼:未来予測」
全ての攻撃を躱し、本体をドピシャで断感刀を当てた。暗殺者は、目の前が暗くなっていくのを感じ、
「次は色覚か!」
と自分の感覚を奪われている事に焦り始めた。
『クソッ、どうしてさっきから状態異常回復スキルを使っても回復しない。』
断感刀は、一時的に感覚をランダムで奪う刀である。その時間は一分間である。しかし、ショウの魔力を込めた断感刀はその時間を五分間にすることを可能にした。なお、時間の縛りがあることで、どんな状態異常回復スキルを使っても無効化される。
 ショウは、
「なんか考えてるみたいだけど、戦闘中だよ。」
と間髪入れず攻撃を畳み掛けた。暗殺者は苦し紛れに、
「ステルス!?」
と自分の全てを消した。
 暗殺者は走り駆け抜けた。
『一旦退却するしかない。あいつ等と合流して、態勢を立て直すんだ。』
夢中に走っていたため、トレント達が周りにいることに気付けなかった。そして、トレントが伸ばした枝が腕に刺さった。
「ぐっ、トレントが!」
「さっきはよくも焼いてくれたな。」
と少し黒くなっているトレント達が近付いてきた。暗殺者は、
「どおしてわかった!?俺のステルスは、気配や足音を消せるんだぞ。」
と質問をした。トレント達は、「何を言ってるかわからない。」という雰囲気で答えた。
「はぁ?お前俺達の事知ら無さ過ぎだろ。植物系の魔物は、ありとあらゆる生物の異変に敏感なんだよ。気配や足音を消しても、空気の揺らぎや呼吸音が聴こえれば、俺達は簡単に対象を把握できる。」
「何!」
暗殺者は、何とか切り抜けようとサバイバルナイフを取り出し、
「幽蘭逸」
攻撃を仕掛けようとするのと同時に軌道を変えるを何度も繰り返し、いつの間にか居なくなっていた。トレント達は、
「あぁ、逃げれちまった。」
「まぁ、後はあの方がやってくれる。」
と焦ることなく話していた。

 暗殺者は走り逃げた。後の影にも気づかず、
「こんな事あるのか、嘘だろ!」
「本当だよ。」
「い、いつの間に!」
「トレント達が囲っていた時からずっと」
「マジかよ」
ショウは少しスピードを早め、暗殺者を蹴りで落とした。暗殺者は何とか受け身を取り、ショウは着地した。暗殺者はショウに話をかけた。
「やはり、あの時に殺しておくべきだったんだ!」
「言い残したいのはそれだけ?」
暗殺者は苦し紛れにサバイバルナイフを振り回した。ショウは、哀れむような目で攻撃を躱した。そして暗殺者を転ばせ、
「カビ野郎、勇者は何処にいる?」
「……!」
「早く答えろ」
と見下した目で言った。暗殺者は、
『どうする!こんな奴を敵に回してしまっていたのか。』
とショウに恐怖したが、
「言うわけ無いだろ。」
と言った。そして、隠し持っていた白煙玉を取り出し、
「また会ったときは、必ず殺してやる。」
と思い切り叩きつけ、煙幕を張った。それから上に逃げた。しかし、それを知っていたかのようにショウも飛んだ。
「な、何!?」
「死んで母さんと父さんに可愛がられるといい。」
と言って、山の方に蹴り飛ばした。だが暗殺者に致命傷を負わせなかった。暗殺者は少し安堵し、
『バカめ!そんな程度では、死なんぞ!次は必ず殺してやるぞ。覚えとけよ!』
と心で復讐心を燃やしていた。しかし、ショウの言葉でそれが一気に消えることになる。
「最後を決めるのは、僕じゃない。」
『は?』
と目の前を見ると、殺したはずのカシルとトレントがいた。カシルは、テリトリーを展開し、ずっと構えていた。トレントは、自らの枝からカシルに生命力を渡していた。暗殺者は、
「どういう事だ!?確実に殺したはず」
とほざいていた。
トレントのもう一つのスキル「生力注入」は、死にかけのものに自身の生力を分け与えるスキルだ。カシルが息を引き取ってからスキルを使用したため、三分間が限界であった。
「まずい、このままでは」
と言ってるうちに、カシルのテリトリーに足を踏み入れた。その瞬間、
「残光閃華:彼岸」
と一瞬で暗殺者を葬った。トレントは、
「何という執念と生命力なんだ。とっくに三分越えてたのに、ずっと構えるとは、お見事です。」
とカシルを称賛した。空中にいたショウも、
「カシルさん、ありがとうございました。」
と一礼した。

         二週間後
 ショウは、カシルの墓を建てた。その隣に、サタンとソフィアの墓も作った。そこで手を合わせ、
「この前はカシルさんがとどめを刺してくれた。今度は、俺が全員を殺します。父さん、母さんそしてカシルさん、見ていてください。」
と言って、立ち上がり歩き始めた。
 しばらく歩いていると、トレント達が前に出て、
「ショウよ。いえ、ショウ様」
「え?何で様付け?」
「我々は、貴方のお父様に当たるサタン様と交流がありました。そして、私はサタン様に助けていただいたのです。戦いが無くなり、貴方様の話をよくされていた。」
「そうか…」
「あの場で、助けてあげられず、申し訳御座いません。」
とトレントの群れが謝罪をした。ショウは、困惑したが、
「謝らないでくれ、最終的に危険だと分かっていて、僕とカシルさんを助け出してくれたんだ。」
といった。
「し…しかし…」
と何か言おうとしたが、ショウがそれを遮った。
「それに、僕の足りない物も教えてくれたんだ。ありがとう」
「勿体無いお言葉です。」
とトレント達が涙を流し、
「ショウ様のご武運を祈って、お待ちしております。」
と言って、姿を消した。ショウは、
「行ってきます。」
と言って、三年間訓練を積んだ場所から離れた。
 次の復讐相手を探して、七魔将軍との合流を念頭に置いて歩き始めた。
しおりを挟む

処理中です...