復讐と約束

アギト

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第2章 コロッセオ

第七話 戦闘都市『イウト』

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 ショウは、2週間ほど歩いていた。しかし、一向に着かないのには理由があった。それは、
『周りを冒険者共がいて、気配を殺しながら歩くのは神経使うな。』
そう冒険者が、ショウの辺りを調査していた。ショウは、何もやましいことはしていない。だが、万が一の為に見つからないように歩いていた。
『予定より10日ほど遅れている。とはいえ、『影使い』を使う訳にはいかないしな。』
冒険者には、魔石を配布されている。主な機能は、生体反応の探知とスキル探知である。
『生体反応はどうにでもなるけど、スキル探知はどうにも出来ない。』
スキル探知とは、冒険者や魔物が固有スキル又は特殊スキルを使用したときに反応する。例えば、後ろからスキルを使用し、近付こうとする。すると、魔石が強く光教えてくれる。
 ショウは溜息をつき、
『しょうがない。強行突破するか。』
と決めて、軽く準備運動をした。そして、
「レッグウェア:サンダー」
と足に雷を纏わせ、思い切り走り出した。ショウは、通り過ぎ際に、冒険者の魔石が光ってないことを確認し、更に速度を上げていった。
『予想通りだ。あの魔石が反応するのは、あくまで「スキル」のみだ。つまり、魔法は関係ないということだ。』
ショウは、生体反応に引っ掛からないよう、所々いた魔物に気配を合わせて進んだ。

          二時間後
 ショウが休むことなく、走り続けていると、
「あれが、『イウト』か。凄くでかい街だな。」
と少しずつ速度を落としていった。
 そして、街の入口に差し掛かり、門番らしき2体のゴーレムが前に立ち塞がった。
「ココカラサキニイキタクバ、チカラヲシメセ」
「喋れるゴーレムか、珍しいな。」
ゴーレムは、基本的な意思疎通はテレパシーしかない。喋れるようになるには、魔道士に「言語確立」をかけてもらい話せるようになる。だが、「言語確立」を使用できる魔道士(マジツククリエーターは除く)は、人間・魔物を含めたったの5体しかいない。理由は、かなり高度な魔法技術と繊細な魔力操作が必要だからだ。
「チカラヲシメサヌノカ?」
「どう示せばいいんだ?」
「カンタンナハナシダ。ワタシヲタオシテミヨ。」
と一体のゴーレムが一歩前に出た。ショウは、
「分かりやすくて、助かります。」
そう言って、構えを取った。風がなびくのと同時に、両者動き始めた。
「フンッ」
「だぁ!」
互いに拳と拳がぶつかり合い、周辺の大地がへこんだ。ゴーレムが、
「ナカナカノコブシダ。ダガ、マダココヲトオセルホドデハナイ。」
とショウに言った。ショウは、
「なら、本気の拳を使うか。」
と言い、もう一度同じ構えを取った。それと同時に、ゴーレムが攻撃を仕掛けた。その時、
「終の拳:天海音流」
とショウが小刻みに音速ラッシュを決めつつ、ゴーレムの核となる部分にヒビをいれた。すると、もう一体のゴーレムが、
「オマエノチカラミセテモラッタ。トオッテヨシ」
そう言い、倒れていたゴーレムを立ち上がらせた。そして、
「イマノワザ、「終の拳」カ?」
とショウに、ゴーレムが質問をした。
「そうですけど、何か?」
「マダ、ソノワザヲツカエルヤツガ、イタトハナ」
と小さな声でゴーレムが呟いた。ショウは、
「あの!もう通っていいですか!?」
と大きな声で、ゴーレムに言った。ゴーレムは、
「トオッテイイ、ドウゾ」
と離れて、元の位置に戻った。
 ショウが街に入り、色んな種族の魔物や『人間』がいることに気付いた。
『共存線でないのに、人間が結構いるな。これも、境界線の効力が弱まっている証拠か。』
それぞれの境界線には、魔力のバリアが張られている。それにより、それぞれの境界線で「通行許可書」を持っていないと、入れない仕組みになっている。
『この原因も探っておかないとな。手遅れになる前に』
そう思いながら、街を探索していると、
「あの人集りは何だ?」
とショウが呟いた。すると、近くを通った厳つい顔の大男が、
「あんちゃん、この街は初めてか?」
と声を掛けた。
「はい、今着いたばかりです。」
「そうか、なら教えてやろう。あれは路上試合と言って、参加料を払い、賞金を狙うのさ。」
「なるほど」
「勿論、強さによって参加料も変わるが、賞金も変わる。例えば、あのグローブつけてる獣人を見てみろ。」
「ん?」
と大男の指を指した方を見た。そこには、「参加料:5銅貨」「賞金:3銀貨」と書いてあった。
「あの賞金からすると、まだまだ下っ端だ。逆に、隣のやつは、だいぶ強いぞ。」
と言いながら、指を指した。今度は、刀を持っている男だった。「参加料:3銀貨」「賞金:1金貨」と書いてあった。
「確かに、料金も違うし、プレッシャーが違います。」
「あんちゃん、なかなかにいい勘を持ってるな。まぁ、ここ以外にも戦う場はあるけどな。」
「そうですか。」
と興味なさそうにショウがいった。すると、大男が、
「あんちゃん、一勝負どうだ?」
「どうしてです?」
「見た所、あんちゃん硬貨無いだろ。」
「確かに無いですね。」
「だから、俺が代わりに参加料を持ってやる。その代わりに、賞金の内7割を俺にくれ。相手はあんちゃんが決めていい。」
と提案をしてきた。ショウは、少し考えた。
『う~ん、硬貨には興味無いけど、確かに今後旅で必要不可欠になるから、話にのるべきだろう。だが…』
ショウは、1つの懸念があった。それは、
「もし、僕が敗北したらどうするんですか?」
とショウは質問をした。大男は、
「そん時は…」
と懐からサバイバルナイフを出し、
「あんちゃんの臓器を売るさ」
と悪魔的な笑みを浮かべた。ショウは、
「いいですよ。」
と全く動じることなく答えた。そして、
「対戦相手は、あの魔物にします。」
と指を指した。ショウが指名した相手は、キングリザードマンという槍術の使い手だ。更には、この路上試合最高値の賞金は100金貨である。参加料は、10金貨だった。
「あんちゃん、大きく出たな。」
「早くやりましょう。時間の無駄なので」
と言い、キングリザードマンに挑もうとしていた。

 大男が、10金貨支払い終わった。その間に、ショウとキングリザードマンは軽く準備運動をした。その時に、キングリザードマンから、
「君みたいに挑んでくる命知らずは、久しぶりだよ。」
「そうなんですね。」
「あぁ、特に人間はつまらなかった。圧倒的強さで戦う前に離脱したものは多い。君は、そうならないことを期待しているよ。」
「頑張ります。」
と少し話、お互い戦闘態勢に入った。キングリザードマンが持っている武器は、渦を描いたような槍で、裏表別々の色が使われていた。一方のショウは、丸腰で構えていた。
「さぁ、始めるか。マイテリトリー」
半径約二メートルの円が現れた。
マイテリトリー・・・武闘家や剣士等の魔力を持たない職業のスキル。これを習得するには、才能と努力が必要である。なお、展開できる範囲には個人差がある。
 ショウは、迷うことなくその円に踏み入れた。そして、キングリザードマンは、
「電光千突き」
と千を越える突きをショウにくらわせようとした。しかし、ショウはすべて受け流した。
「な、何!」
と驚いている間に、ショウの右拳を顔面にくらった。そして、キングリザードマンが気絶をした。見ていた周りの奴らは、
「「「「「ウォぉぉぉ!!!」」」」」
と歓声が上がった。ショウは、
「これで100金貨ですか。結構割はいいですね。」
そう言いながら、賞金を貰った。
 賞金の7割を大男に渡した。
「マイド!しっかし、あんちゃんがこんなに強いとは、驚いたぜ。」
「あれより強いヤツと何度も戦ってたんで、大したことないですよ。」
「まっ、俺は金貨を貰えて嬉しいけどな。」
と喜びながら、大男は懐にしまった。ショウは、
「とにかく、約束の7割は渡したので、宿を探します。」
「おう、また頼むわ。」
と大男は手を振りながら言った。

 大男と離れて、しばらく歩いた。
「う~む、なかなか宿が見つからない。」
宿代はあるが、どこもかしこも満室だった。
「近々、何かあるのか?ん?」
と所々に看板を置いているオークがいた。そこで声を掛けてみた。
「あの、近々何かあるんですか?」
「ん?あぁ、『イウト名物 コロッセオ』が始まるのさ。」
「コロッセオ?」
「まぁ簡単に言うと、全五ブロックで予選を行い、予選に残った5人で戦う。最後まで勝ち抜いたやつが優勝っていうのだよ。」
「なるほど、だから魔物と人間で溢れかえっているんですね。」
「そうだ。まぁ、理由は他にもあるけど…」
「他にも?」
「それは…」
「お~い、次の場所行くぞ!」
「分かった。今行く!それじゃあな」
「は、はい」
と言って、オークが走ってもう一体のオークのところに行った。ショウは、
「何か他にもあるのか?」
そう思って看板を見てみた。すると、ある一文を見るやいなやショウは、
「このコロッセオで優勝してやる。」
とコロッセオ出場を決めた。

 ショウは、路上試合で得た賞金を使い、宿をようやく見つけれた。
「まさか、こんなにもいい部屋が、3金貨でいいとはラッキーだ。」
ショウが泊まった宿「セントル」は、イウトでは相当高値の宿舎である。一泊3食付きで、風呂もある。ショウは、そんな高級宿舎に泊まっていると思っていなかった。
「少し街をふらつきながら、情報を集めるか。」
そう思って、「セントル」を出て行った。
 ショウは、この街で初めて屋台に入った。屋台の大将が、
「よう、あんちゃん」
「昼間の」
「そういや、名前教えてなかったな。俺の名前は、ヨネンっていうんだ。よろしくな」
「僕はショウと言います。まさか、屋台の大将だったなんて思いませんでしたよ。」
「まぁな。昼間の金貨のおかげで、いい食材が大量に買えた。ありがとな」
「いえ、こちらも色々教えてもらいましたから。お互い様です。」
「見かけによらず、大人だな。今日は俺の驕りだ。沢山食べてくれ」
と言うと、通しの人面野菜の酢漬けと月輪熊の煮込みを出してくれた。ショウは、
「ありがたく、いただきます。」
とこの街来て、初めての食事を始めた。
『人面野菜の酢漬け、初めて食べたけど野菜本来の甘みがちゃんと出ている。それに、いい歯応えだ。』
ショウは、ヨネンの顔を見て、
「凄く美味しいです。良い腕ですね。」
「ヘヘん、当たり前だろ。」
「次は煮込みをいただきます。」
「おう」
と月輪熊の煮込みを食べた。
『おぉ、熊肉は扱いが難しいのに、一切獣臭くない。それに、少し甘い?』
そう思っていると、ヨネンが、
「少し甘いだろ。その正体わな、今日やっとの思いで、手に入れたハチミツで漬けたからだよ。」
と自慢気にいった。ショウは、
「ハチミツはハチミツでも、ナルカミハチですね。」
「よく分かったな。」
「甘いけど、全然重くないし、食欲が湧いてきたから。そうかなと思いました。」
「ヘヘっ、他にもあるから沢山食いな。」
「ヨーさん、やってる?」
「おう、今日も食って行ってくれ。」
と次々とお客さんが来た。その中に、
「よう、昼間の坊っちゃん」
「貴方は、キングリザードマン」
「俺の名前はダルタンだ。」
「僕はショウです。」
「ヨっさん、冷凍ネンケダイをくれ。」
「ハイよ!」
とヨネンは、忙しくも楽しそうに仕事をしていた。
 屋台に1時間ほどいると、
「そう言えば、近々コロッセオが開催されるらしいですね。」
とダルタンがヨネンに話しかけた。ヨネンは、
「そうだな~でも、今年も優勝はバクネンだろうな。」
「ですかね。最近のコロッセオは、面白みがないんですよね。」
と酒を飲みながら、コロッセオのことを話していた。ショウは、話に割って入った。
「バクネンとは、一体どんなやつ何ですか?」
「そうだな。奴は強さのみを純粋に追い求め続けてるこの街最強の武闘家だよ。因みにオーガだよ。」
「ダルタンさんは、戦ったことあるんですか?」
「勿論、まぁボコボコにされたけど…」
と何か思い出したかのように落ち込んだ。ヨネンは、
「奴を倒せるのは、恐らく主催者ぐらいだろうな。」
と言った。ショウは、
「それは、“武人ソウメイ”ですか?」
と少し圧をかけて、質問をした。ヨネンは、少し怖気付いて、
「あっあぁ、知ってたのか。」
「えぇ、そして優勝するのは僕です。」
と言って、屋台を出た。

 ショウは、少しムキになってしまったことを後悔してしまった。
「はぁ~関係ない者に圧をかけてしまった。」
そう独り言を呟きながら歩いていると、
「おうおう、兄ちゃん。肩ぶつかったよね~」
「……」
「おい!聞いてんのか?」
と5人のオーガが群がっていた。その中に、仮面をつけた虎柄の紋様の入った魔物がいた。ショウは、溜息をついてから、
「何やってるんですか?」
と言った。
「テメェ、誰だよ。」
「カッコつけなら、とっとと帰れよ。今なら見過ごしてやる。」
「カッコつけかどうか、ボコされてから後悔したらいいですよ。」
「テッメェ、死にな!!」
と殴りかかってきた。ショウは、それより早く蹴りを胴にくらわせた。
「ぐっ、調子に乗んな!!お前ら!」
「「「「おぅ!?」」」」
「乗ってませんよ。」
と一気に襲い掛かってきたが、ショウは、
「ハァッ」
と一気に拳をついた。そして、オーガが全員倒れた。
「大丈夫ですか?」
「……」
「まぁ、怪我はなくてよかったです。それでは」
「まぁぁてぇぇ!?」
と震えながら立ち上がり、ナイフを取り出し、襲いかかってきた。すると仮面の魔物が、
「劉観月:朧」
と攻撃をした。仮面の魔物は、
「…助けてくれて、ありがとうございました。」
そう言い、去って行った。ショウは、
「今の動きは…」
となにか思うことがあるものの、その姿はすでにいなくなっていた。

         一週間後の朝方

 日が昇り、ショウはコロッセオへ向かっていた。
「さぁ、復讐の第二幕だ。」
と気合いを入れて歩いた。
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