復讐と約束

アギト

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第2章 コロッセオ

第十一話 目指せ!萬獄山

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 オーツは、少し昔のことを思い返していた。

          8年前

 オーツは、バーサーカー訓練所「エイチエヌディー」で育った。ここは、この世でバーサーカーになる素質のある人間と魔物が幼い頃に連れてこられる。勿論、同意を受けてのことであることと、膨大の支援金を受け取れる。
 ここでの訓練は、まさに生き地獄のようであった。何千の矢を熱された鉄の上で避けさせられたり、何百トンの枷を付けて8時間以上走ったりした。更には、幾つ物毒物を服用してから十人組手を毎日行った。
 オーツは、鳥型の獣人フィネクスと組手をしていた。
「ガァァァ!」
「グガっ!」
とオーツは、フィネクスに倒された。そして、
「また俺の勝ちだな。」
と狂乱化を解きながら言った。オーツも狂乱化を解き、
「また負けたか。やっぱり強いな」
とフィネクスに言った。
「いやいや、お前も強くなってるよ。『感情がない』のに、俺以外のやつより強いんだからな。」
「お前に勝てなきゃ、まだまだだ。」
「そうかよ。」
バーサーカーの最もの強みは、感情である。感情が高ぶっていればいる程、強くなっていく。しかしオーツには、生まれた時から感情がなかった。だから、涙を流したことも、怒りをぶつけたこともなかった。フィネクスは、
「なぁ、お前は感情が欲しいと思わないのか?」
「思わない。そんなのあっても意味が無い。」
「そうか。でもあったら、きっと…」
とフィネクスがなにか言おうとした瞬間、
ブォーーーーン
と緊急アラートがなり響いた。それと同時に、訓練所を覆う程のドーム状のテリトリーが張られた。フィネクスは、
「何かあったのか!行くぞ、オーツ」
「あぁ」
と言った。しかし、
「その必要はないよ~」
とオーツとフィネクスの後ろから声がした。そこには、武装した集団と軍服で勲章を付けた右眼眼帯の男がいた。フィネクスは、
「どういう意味だ。」
「ん~残りは、君達だけって意味だよ。」
「そんな馬鹿なことあるか!奇襲とはいえ、その対応も訓練済みだ。それをこの短時間で制圧できるわけない!」
「クッフフフフ、簡単なことだよ。教えてもいいけど…その前に死んでもらうけどねぇ~」
「そうはいくか!」
「「固有スキル:狂乱化」」
しかし、スキルが発動しなかった。
「どういう事だ。狂乱化しない!」
「当たり前だよ~だって、君たち専用のテリトリーを張ってるからね~」
「随分と都合のいいテリトリーだな。」
「まぁ、顔面痕の奴がいれば別だけどね。」
「ある程度勉強してきたんだな。」
「当然」
とドヤ顔で指揮官が言った。フィネクスは、
「最後に質問だ。」
「何だい?」
「どうして、いきなり奇襲を仕掛けた?」
「それこそ、もっと簡単なことだよ。君達バーサーカーは、いまこの世で最も危険な存在だ。それを排除しに来ただけだよ。」
「そうか、なら尚の事…」
「さぁ、大人しく死ぬ?そうすれば苦痛なく殺してやる。反抗すれば…とびっきりの苦痛で殺してあげるよ!」
と悪魔的な笑みを浮かべた。フィネクスは、
「死ぬわけにはいかん!」
と言い、軍隊に襲い掛かった。指揮官は、
「そうこなくっちゃネ~来たかいないよ~」
と言い、
「一斉射殺用意!」
それと同時に、銃を構えてから、
「ゴ~トゥヘル!!」
と言うのと同時に、オーツとフィネクスに向けて一斉射撃した。しかし、オーツとフィネクスは左右に避けて、重装備の軍人を倒していった。
「結構な重装備だから、動きが鈍いな。ツメが甘かったな」
「フフッ」
指揮官は、不気味な笑みを浮かべた。すると、倒した軍人が急に立ち上がり、フィネクスを殴った。
「クッ、人間の硬さじゃない。まさか!」
軍人が装備を外すと、鋼鉄でできた身体と表情が変わらなかった。指揮官は、
「そう!こいつ等は改造ロボット!万一のために、こいつ等には顔面痕のバーサーカーのデータをインプットさせている。まぁ、今の君たちには絶対に倒せないけどね~」
「ちっ」
「バーサーカーハ、排除スル」
そう言い、更に追い打ちをかけた。しかし、
「大丈夫か?フィネクス」
とオーツが改造ロボットの攻撃を受け止めた。そして、
「速絃連波」
と改造ロボットを切り刻んだ。それを見た指揮官は、
「ほぉ~まだまだ改善の余地ありか~来てよかった。」
と顎に手を当てていった。そして、
「今度は、一斉に魔弾を撃て!」
「「「「ハッ」」」」
そう言い、改造ロボットが一斉に無数の魔弾を撃たれた。オーツは、
「さすがに、捌ききれないか。」
と無表情で言った。すると、後ろからフィネクスが、オーツを引っ張り、
「グッ、ガァァァ」
とオーツを身を挺して守った。
「ど、どうして?お前のほうが強いから、守ろうとしたのに…」
と言った。フィネクスは、
「いや、お前には未来があると感じたからな。さっき言いそびれたことを言うわ。………」
「……!」
フィネクスは、最期の言葉を言うと笑顔で心臓が止まった。
「さてと、最後は君か~せめてものの慈悲だ。友とおんなじ死に体にしてあげよう~」
と言い、改造ロボットが一斉にオーツに攻撃した。オーツは、
「ガァァァ!!」
と怒りと哀しみから涙を流し、顔面痕の狂乱化をした。そして、改造ロボット達を一瞬で全て破壊した。指揮官は、
「これは予想外!顔面痕のバーサーカーは、10万人に1人の確率だ。それをこの土壇場でなるとは、ゾクゾクするよ!!」
と言い、戦闘態勢に入った。
「ガァァァ!」
「単調だねぇ~」
そう言うと、眼帯をずらし、
「星霜の眼 時間操作:飛ばし」
すると、オーツが指揮官の遥か遠くにいた。
「速いね~わずか1秒でそこなんて、身体痕とは全然違うね~」
「ガァガァ!」
「フッ、早く終わらせようか~時間操作:早送り」
そして、二人がとてつもない速さで闘っていた。そして、
「これで終わりだよ。時間操作:一時停止」
とオーツの動きを止めた。
「もっと闘いたかったけど、遊びすぎると怒られちゃうからな~」
と言い、ジリジリと近づき、
「じゃあねぇ~」
と軍刀で斬り刻んだ。
「時間操作 解除」
「グガァァァ!」
とオーツが倒れた。指揮官は、嬉しそうに話した。
「さっきの回答は分かったろう~僕の星霜の眼で、周囲の時間を止めて攻撃した。たった5秒間でね。でも、止まった時間の5秒は、気が遠くなるほど長いからね…え?」
指揮官が振り返ると、オーツがいなかった。そして、指揮官が突然倒れた。
『な、何だ?何故私から血が流れている?』
すると指揮官の前にオーツが現れた。その姿を見て、答えがわかった。
「な…るほど、特殊…スキルも得ていた……のか」
「ガァガガア!?」
とオーツは、容赦なく切り刻んだ。
「ガァァァ!!!」
と大声で叫んだ。
 そこから、指揮官の死を確認したのと同時に都市の軍隊が動いた。しかし、ありとあらゆる手を尽くしてもオーツを殺せなかった。核兵器や改造ロボット、最終的には災害級の魔物を使った。それでもオーツが止まらなかった。止まった頃には、都市の軍隊を壊滅させていた。
「これを俺がやったのか?」
と自身に問た。無表情のままだった。すると、フィネクスの言葉が脳に響いてきた。

『感情があればきっと、世界が変わって見える。そして、オーツも変わる。』

「そんなのあり得ないだろ。でも…」
オーツは、その都市を出て行った。そして、
「お前の言葉は、不思議と本当になりそうな気がする。」
と旅に出た。

「全く、お前の言う通りだったよ。最高だ!」
「ハイジョ!」
と改造ロボットと対峙した。オーツは、身体痕の狂乱化で闘った。
「ハイジョ」
「そうかいそうかい、だが、お前はここで終わりだ!」
そう言うと、オーツは双剣を取り出し、
「研磨」
というのと同時に、改造ロボットは、
「デプロイメント」
と両腕を武器にした。
「双龍剣路」
「スラグター」
と互いの技がぶつかった。そして、土煙が舞った。
 土煙が晴れ、視界が良くなってきた。そこには、
「ハ…イ……ジョ」
「前より弱くなったな。いや…俺が強くなったんだな!」
と改造ロボットを踏みつけ、オーツが高らかに言った。それを見たザギルは、
「あのロボットをいとも容易く壊すなんてな。エグいな、アイツ」
と呑気に言った。その時ショウは、気絶していた。

 アルセイノは、ソウメイを賢者のところに連れて行った。そこは、薄気味悪い洞窟だった。中には、殺した魔物の腐敗臭が酷かった。
「相変わらず、悪趣味だな。」
「魔王の子は殺せたのか?」
「いや、ソウメイを助けて、それは無理だった。」
「そうか、まぁいい」
と立ち上がり、石でできたベッドを持ってきて、
「ソウメイを」
「おぅ」
とソウメイを寝かせた。そして、
「治癒魔法:天神の息吹」
とソウメイを翠色の風が包んだ。それが止むと、
「う…某は…」
とソウメイが目を覚ました。アルセイノは、
「運良かったな。『未完成の』終の拳だったから、死ぬ一歩手前だったんだよ。そこを俺が助けたんだ。感謝しろ」
と高らかにいった。ソウメイは、
「そうか、かたじけない。アルセイノ」
と言った。賢者は、
「さぁ、もう治療は終わった。早く他の仲間を探せ。戦士や踊り子は、大丈夫だろ。勇者とは早めに合流しておきたい。」
と言った。アルセイノとソウメイは、
「わかったよ。行くぞ、ソウメイ」
「助けられた命分は、賭けてやる。」
そう言い、洞窟を出ていった。
 賢者は、一人になったのを確認すると、
「はぁ~あいつ等ほんと使えねぇな。魔王の子を殺すのにどんだけ時間かけてんだよ。」
そう愚痴りながら、洞窟の外へと歩いた。
「まぁいいや、勇者と合流次第、すぐ殺してやる。待ってろよ、ショウ」
と悪魔的な笑みを浮かべた。そして、その眼は赤黒くなっていた。

            5日後

 ショウは、コロッセオ主催者が、提供している病院で目が覚めた。
「腕は治っているな。」
「目が覚めたか?」
「ザギル」
ザギルは仮面をずらし、林檎を食べながら言った。ショウは、
「ソウメイは?」
と聞いた。ザギルは、
「残念だが、逃げられた。あと一歩だったな。」
と言った。
「次は完璧に決める。」
「そうか、ならさっさと治さないとな。」
「えぇ」
「それに、彼奴もうずうずしていやがる。」
と目線の先には、剣を研いでいるオーツがいた。
「あんなに強い奴が、まだ沢山いるのか~楽しみだぜ!」
「え?どういうことですか?」
「何言ってんだよ。ショウ、お前について行くって事だよ。」
「い、いいんですか?」
ショウがそう聞くと、ザギルとオーツは、
「それは、ショウに『初めて会った時』から決めていた。だからついて行く。」
「俺は、強い奴と闘えればついて行く。それに、お前等といれば楽しそうだ!」
と言った。そして、ザギルが仮面を外し、
「ショウ、俺は親父の代わりにあんたの刃になる。」
とショウの前で跪いた。その姿は、カシルを彷彿とさせた。
「親父…まさか!」
「あぁ、俺はカシルの息子だ。」
「やっぱり、でもカシルさんは…」
「何となく察しはついてる。だが、ショウが無事ってことは、親父はちゃんと守ったんだな。それなら、俺は誇らしく思う。」
「そうか」
ショウは、ザギルとオーツを見て、真剣な表情で言った。
「それでは、二人に今から僕のやるべきことを教えます。」
「おう」
「あぁ」
「僕は、今勇者一行を殺すべく旅をしています。それと同時に、いまこの世で何が起きているのかを調べています。」
「ほう」
「いきなりつまらないな~」
「オーツは、武器を研いでろ。」
「はいはい」
と少し茶番が入った。ショウは、
「続けますね。それを達成するには、まず七魔将軍と合流しておきたい。」
「その七魔将軍の居場所は、分かってるのか?」
「それが、まだで…」
「じゃあどうする?当てずっぽうで、旅でもするか?何年かかるんだよ?」
とオーツから言われた。ザギルは、
「とりあえず、この街の奴らに聴いてみるしかないだろうな。都合の良いことに、この都市じゃ有名人だからな~俺ら」
と言った。ショウは、
「とりあえず、そうしましょう。」
と言い、立ち上がった。ザギルとオーツは、
「まぁ、そうするか。」
「だな~」
そう言い、病室を出て行こうとした。すると、病室の扉が開き、
「ショウ君…目が覚めたのか?」
「ダルタンさん」
「良かった~腕は、もう治ってるのか。すごい治癒力だな。」
「何しに来たんですか?」
「ちょっと見舞いにね。それより、ザギル君とオーツ君は、何しに行こうとしたのだ?」
「実はな…」
とダルタンにザギルが説明をした。ダルタンは、顎に手を当てて、
「そうか、七魔将軍か…」
「知らないか?あんた程の者なら、分かるんじゃないか?」
「ひとりなら、心当たりがある。」
「そ、それは誰ですか?」
「武術家アルキだ。アルキは、バクネンの師匠に当たる存在だからな。」
「え、そいつザギルにボコられてなかったか?」
「あぁ、本当にあてになるのか?」
とザギルは、疑いの目を持っていった。ダルタンは、真剣な表情で、
「言っておくが、バクネンはアルキの門下生の中では『最弱』だからな。」
そう言った。オーツは、笑みを浮かべ、
「成る程、少し興味が湧いてきた。」
と楽しそうにした。
「それに、アルキは一等級の魔物だからな。俺のような三等級とは次元が違う。」
「等級?何だそれ?」
「等級っていうのは、魔物のランクだよ。五等級から災害級とつけられている。」

五等級・・・危害をくわえてこない。もしくは、戯れ程度に襲ってくる。
四等級・・・危害をくわえるが、大した脅威とはならない。
三等級・・・十人程度なら殺せる。
二等級・・・都市一つの人間を殺せる。
一等級・・・軍隊を一体で壊滅させれる。
災害級・・・世界を終わらせれる力を持っている。ただし、人間にも魔物にも敵になる。
因みに、冒険者達も同じくランクがある。依頼は、この等級を見て割り振られます。

「へぇ~、災害級の奴とは、いつか殺りあってみたいな。」
「それは無理だろう。」
「何故だ?」
「災害級は、そう簡単に現れないからな。最近現れたのは、約27年前だしな。」
「そんなに前か!」
「まぁ、自然発生はね。封印は、8年前に発生したよ。もう討伐されたらしいけどね。」
「そうか」
と残念そうに言った。それを倒したのは、紛れもないオーツなのですが、記憶がなかったのでしょうがありません。ザギルは、その話を制して聞いた。
「それより、アルキは何処にいるんだ?」
「あぁ、この都市を出て、南東に100キロほど行ったところに萬獄山という山がある。その頂上に、大きな門があって、その中の道場にいるだろう。」
「それは、本当か?」
「まぁ、5年前に聴いた話だから、今は知らないけどね。」
「いや、充分だ。早速向かおう。」
とショウが言った。しかしザギルは、
「まだ治ってねぇだろ。完治してからだ。」
とショウに釘を差した。ショウは、
「う、分かりました…」
と言い、寝ころんだ。ザギルは、
「ダルタンさん、情報ありがとうございます。」
と言った。ダルタンは、
「いいんだ。じゃあ、俺はこの辺で」
と言い、病室を出て行った。
 病室を出たところで、ダルタンは、
「俺も、もっと強くなる為に、この都市を出るとするか。」
と言って、歩き出した。その瞳は、とても真っ直ぐで綺麗だった。

         2週間後
「ふぅ~やっと退院できた。」
ショウは病院を出て、そう呟いた。ショウは、都市の門まで歩いて向かった。
 門の前までいくと、ザギルとオーツがいた。
「行けるか?」
「もちろん」
「へばったら、俺が担いでやるよ。」
「意地でも断る。」
「そんな茶番はいい。とりあえず…」
「行こう!いざ、萬獄山へ!」
そう言うと、三人は走り始めた。
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