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第6章 そして~明日へ
第43話 彼と彼女の真実~リアの業
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負の結界が壊れゆく中、目の前に現れた黒い揺らぎ。
俺とリアの二人を誘うかのようにそれは現れた。明らかな罠であることは確かであるが、逆にこれはチャンスでもある。これだけ大掛かりなことをした以上、次に出てくるのは親玉のはず。元より、俺達はそのつもりでここに来た。それに今、行かなくては取り返しのつかないことになる。そんな気がしてならない。
「カズヤ・・・、連戦の上、あれだけの力を使ったのに大丈夫なの?」
「問題ない。“命”の精霊、ラシルが目を覚ましたからな。回復が早いんだ」
「本当?カズヤ・・・嘘ついてない?」
正直なところ、嘘は言っていない。消耗もしたが回復もしている。それでもリアは俺の言葉が信じられず俺の契約精霊に聞き直す。
『本当です。それに竜凰闘衣を纏っている時は体力・精神、ともに回復力が爆発的に高まります。問題ありません』
「うん・・・、でも何かあったら教えてね?カズヤ・・・、絶対無理するから・・・」
『もし、その時が来たなら“キス”してあげて下さい。それだけでマスターは何度でも蘇ります』
「「・・・」」
心配するリアに月風は本当に何でもないように話してくれたおかげで、不安は消えたようだった。呆れた様子で語られる『キスすれば蘇る』発言について、俺とリアも心当たりがあるせいか何も答えられず赤くなってしまった。
「さあ、どうやら出口らしいぞ」
長いトンネルを抜けると、一面真っ白な空間に出た。
この光景、忘れるわけがない。俺にとって新たな始まりとなった場所・・・
「カズヤ!ここって・・・」
「ああ・・・、もう一人の“リア”がいる世界のはずだ」
しかし、彼女の姿がどこにも見当たらない。周囲を探ったところで何者かの気配を感じた。隠す気などは毛頭ないようだ。そいつは堂々とどこからか現れた。
「フフフ・・・、やっと来たようだね・・・」
「あなた・・・、ピヤージュ!」
「へえぇ、まだ名乗っていなかったはず・・・他の奴から聞いたのか。それとも、初めから知っていたのか・・・」
薄気味悪い声の主は、この世界に来た時にリアを苦しめていたクモコウモリだぅった。恐らく本体の方だろう。装備の見た目はあまり変わらないが、性能は遥かに勝るように見える上、それを纏う本人自体の溢れる魔力の波動がまるで違う。
が、やることは変わらない。どんなに強かろうが『斬る』、ただそれだけだ!
「フフフ、まあいい。まずはリア・・・お前の全てを・・・ごふっ!」
「同感だ。俺もどうでもいい」
俺を不快にさせる言葉を言い終わるのを待たずして、瞬時に懐へ飛び込み、顔面を掴んで地に思いっきり叩きつけた。グリグリと押しつける力が増し、白だけの世界だろうとも徐々に陥没していく。
「そういう台詞は聞き飽きた!いい加減、ウンザリなんだよ俺は!」
俺は心底、腸が煮えくり返っていた。散々、力の差を見せつけてきたはずにも関わらず、次から次へとちょっかいをかけてくる始末。
某ゲームでは最弱クラスの魔物でもテイムして“頭の良さ”を“二十”以上に育てれば命令を理解してくれる、とヒカリが話していたのを聞いたことがある。こいつらはきっと“頭の良さ”が“二十”より下なのだろう。だから、いくら示しても効果がない。目の無いサイコロをいくら振ろうが前には進まないのと同じ、ということを俺はしていたことになる。本当に頭に来る!
「相・・・変わらず、ぐうっ・・・、気が・・・短い。アレを・・・見な」
「そんな手に乗るか!すぐにこのまま終わらせてやる!」
「まってカズヤ!・・・あそこ!?」
リアの叫びに気を取られた隙に、魔法で漆黒の槍を召喚し俺の戒めからの回避を試みる。必然的に魔法を避けるため、俺は手を放して後ろに飛ぶしかなくなった。
それより今は・・・
「ひどい・・・」
「お前らは本当に俺を怒らせるの好きらしいな!」
そこには十字架に磔にされたもう一人のリアの姿があった。綺麗な黄金の髪は乱れ、体中に傷が目立つ。その光景はまるで五百年前にセレナがクリスタルに変えられた時の状況の再現、どうしようもない程の怒りが俺の心を・・・魂を駆け巡る。
握りしめた拳から血が滴り出すのがよく分かる。俺の怒りを代弁するかのようにそれは熱かった。
「フフフ、確かカズヤ、だったね。この女がお前に一体何をしたのか知ってて剣を取っているのかしら?・・・いや、知らないはずだ。知っていたら絶対にリアの味方はしないはずだからね・・・」
「や・・・めて、彼にも・・・、その子に・・・も言わ・・・ないで・・・」
血に濡れた黄金の髪を震わせて、虫の息でありながら懇願する様は正に必死だった。
彼女はいくつもの世界を、不幸な終わりを迎える別の世界の自分を見てきている。そして、その不幸な終わりの元凶にはこのピヤージュとかいう奴が関わっていたはずだ。自分の敵と呼べる相手に頭を下げるなど苦痛以外の何物でもない。そうまでして隠したい秘密・・・か、別にどうでもいい。リアはリアだ。俺の大事な、大好きな女の子だ。それで俺は十分だ!
「もういい。茶番は終わりだ!・・・くっ、バリアか!?」
御託を並べるのを止めようと斬りかかったが、「まあ、聞きなって」の言葉と同時に現れた黒い壁によって阻まれてしまう。
「フフフ、いい加減に目を覚ましたらどう?こんな小娘より私の方が魅力的でしょ?」
わざと前かがみになり、胸元のみっともない脂肪を強調する姿に吐き気を覚えてしまう。その様子を見たピヤージュの瞳は喜色に染まり口元を緩ませる。
「お前今、私のことを『気持ち悪い』と思ったでしょ。そして『女』には見えていない・・・」
何を当たり前のことを言っているんだ?こいつは・・・、そんなことは今更ではないか。
「そして、それは私だけじゃない。ゴーラの奴は兎も角、リュゼもトゥーラもミネスもお前には『女』には見えなかった。違う?」
「ああ、そうだ。俺にゲテモノ趣味はないからな、お前達を女性として見るのは俺には無理な相談だ」
俺の言葉を聞き更に嬉しそうに目を細めるその魔物、対照的に磔にされている彼女の方は弱々しく「やめて」とばかり口にしている。
「フフフ、教えてやるよ。お前はね、この女にそういう風に変えられたんだよ!」
「いや、ああ、うぅうう・・・」
彼女の方はとうとう耐えきれずに涙が溢れかえってしまった。
語られる真実は終わらない。
「お前はこの女の我がままのために都合の良いように作られた存在・・・」
「もう・・・、言わないでぇ、うぅうう」
「フフフ、この世界に来て全てが分かったよ」
俺と彼女の真実が明かされていく・・・
「あらゆる並行世界、時間軸の中でどの“リア”も不幸だった。それである世界の特別な力に目覚めた“リア”が気付いたのさ。一つの共通点に・・・」
俺にもわかった。それは・・・
「お前だよ。カズヤ、お前がどの世界にもいなかった。いや、正確には全ての時間軸で同じ時・・・そう、十歳の時に死んでいたんだよ!」
そう、俺はそれを乗り越えるため転生術を発動しリアと共に五百年前となる別の世界へ飛んだんだ。瀕死の重傷から蘇る代償として・・・。
この場所に再び訪れて俺の中の抜け落ちていた記憶が少しずつ呼び起されていた。認めたくはないが、こいつの言っていることは正しいのだろう。
「もう分かっただろう・・・。そのことに気付いたのはこうして今、磔にされているこの女・・・。それでこいつは蹂躪されあらゆる苦痛を受けて奪われながらも、自分の中で負のエネルギーを誰にも知られないように貯めた。そして、ある時とんでもないことをしたのさ」
演説は止まらない。白い世界の彼女も俺の隣にいるリアも悲痛な表情を浮かべている。俺は・・・
そいつは、俺のことを指さし勿体ぶっていた物を吐き出すように語り出す。
「お前のことさ。そう・・・、『“カズヤ”が命を落とす』事実を!運命を書き換えたんだよ!何らかの形で生き残るようにね・・・。分かるか?全ての世界が書き換えられたんだ。そして、“カズヤ”のいない世界は全て崩壊させられたのさ、その女の手によって・・・当然、その世界に住む何も知らない多くの人間も含めてね。どれだけの数の人間が殺されたんだろうねぇ?フフフ」
「いやぁぁぁぁぁ・・・うっうう」
「わたし・・・」
「・・・」
この世界だけでなく、俺の隣のリアまでうろたえ出した。俺はその手をそっと握りしめた。
「私もねぇ・・・その崩壊に巻き込まれた一人なんだよ。私の世界の“リア”はリュゼの奴が喰らったようだからね。おかげで崩壊する世界から脱出時に体が耐えきれず、しばらく足止めを食っちまったよ。他は全員、死んでしまったからクローンを作り出して、しばらくは地下暮らしさ・・・」
自分勝手なことを散々してきて今更「ヤレヤレ」のポーズか、全く呆れてくる。
「だが、この女の一世一代の大博打も上手くは行かなかった。十歳の頃の死を乗り越えても、その後でどの世界の“カズヤ”もすぐに命を落として、“リア”が贄となる事実は変わらなかった。だから、“カズヤ”には強くなってもらって“リア”を守るナイトになってもらう必要があったのさ」
そろそろか?ピヤージュは「ここが肝心さ。よく聞け」とばかりにオーバーアクション気味だ。まだ吐き出すモノがあるのだろう。俺がお前達を女として見ない理由のことのようだ。
「お前はこの女に呪いをかけられたのさ。“リア”を守るため他の女が言い寄らないようにね・・・。お前との間で恋愛が成立しないように・・・」
それは知っている。
「実はそれはね、私達にも当てはまっているのさ!」
「なっ!」
俺の初めての動揺に奴は最高に愉悦に浸った顔となる。奴の思惑通りの反応をしてしまったことに後悔を覚えるが全ては遅かった。迂闊にもリアの手を放してしまった。二人のリアの表情がみるみる内に青くなる。
再び手を取ろうとした時は拒絶され、宙をさ迷うことになってしまった。
「違う世界で、私達の虜になって逆にリアを苦しめるお前がいたんだよ。だから私達に対して特別強力な嫌悪感を感じるように変えられた・・・。」
「・・・」
「これで分かっただろ?この女は自分が幸せになるためだけに、多くの世界と人を殺し、お前と言う存在を自分の都合の良い通りに仕立て上げた。全てこの女の我がままため・・・。カズヤ・・・お前もこの女の犠牲者だ」
「ごめ・・・ん・・・なさい。でも私は・・・うっうう」
「わたし・・・そんな・・・カズヤ・・・」
「カズヤ・・・、作られた立場と感情に縛られることは無い!私と来い!捻じ曲げられた運命を全てを取り戻すんだよ!私と一緒に!」
全てが語られ真実が明かされた。
俺は・・・
俺の答えは・・・
「くっくくく、あははっ、ははははっ、ふっはっははははははははは!」
高々と笑う俺の声が響いた。
「「カズヤ・・・うっうう」」
「ようやく分かったようだね・・・さあ、私と一緒に来るんだよ」
二人のリアは泣き崩れ、ピヤージュは俺に手を差し伸べる。
「惚れ直した!」
「「「えっ!」」
「はぁ?」
俺は差し伸べられた手を払い、確かに「惚れ直した」と答えた。
「お前は、こいつの勝手な我がままのせいで運命を狂わされているのに・・・それでもか?」
俺の答えはそんなに信じられないものだろうか?結構当たり前のことなんだがな。
「俺はリアがいなければ死んでいたんだろ?それを回避してもらっただけではなく、贔屓してもらっている・・・愛されているじゃないか、俺は。それに『我がまま』だって?上等じゃないか。こんな優しくて綺麗で可愛い子の『我がまま』なんだろ?しかも俺の大好きな人の、だ。」
そうだ。俺の想いは何も変わらない。いや、むしろより昂ぶっている。隣で青い顔をしていたリアを抱き寄せ目元を拭う。
「『我がまま』上等!頼られている、ってことだ。それだけ想われている証拠だ!むしろ嬉しい。男冥利に尽きるじゃないか!」
「「カズヤ・・・」」
「言いたいことはそれだけだな!リアを苦しめたその罪、他の世界の俺と彼女に変わって俺がお前を叩き斬る!」
決意の言葉とともに黒い壁を斬り裂き、磔にされていた白い世界のリアの戒めを解くと、二人のリアを抱き寄せ勝利を誓った。
「不可能だろうが、運命だろうが、邪魔する者は全て切り捨てるのみだ!今の俺に断てぬモノなど、何もない!!」
俺とリアの二人を誘うかのようにそれは現れた。明らかな罠であることは確かであるが、逆にこれはチャンスでもある。これだけ大掛かりなことをした以上、次に出てくるのは親玉のはず。元より、俺達はそのつもりでここに来た。それに今、行かなくては取り返しのつかないことになる。そんな気がしてならない。
「カズヤ・・・、連戦の上、あれだけの力を使ったのに大丈夫なの?」
「問題ない。“命”の精霊、ラシルが目を覚ましたからな。回復が早いんだ」
「本当?カズヤ・・・嘘ついてない?」
正直なところ、嘘は言っていない。消耗もしたが回復もしている。それでもリアは俺の言葉が信じられず俺の契約精霊に聞き直す。
『本当です。それに竜凰闘衣を纏っている時は体力・精神、ともに回復力が爆発的に高まります。問題ありません』
「うん・・・、でも何かあったら教えてね?カズヤ・・・、絶対無理するから・・・」
『もし、その時が来たなら“キス”してあげて下さい。それだけでマスターは何度でも蘇ります』
「「・・・」」
心配するリアに月風は本当に何でもないように話してくれたおかげで、不安は消えたようだった。呆れた様子で語られる『キスすれば蘇る』発言について、俺とリアも心当たりがあるせいか何も答えられず赤くなってしまった。
「さあ、どうやら出口らしいぞ」
長いトンネルを抜けると、一面真っ白な空間に出た。
この光景、忘れるわけがない。俺にとって新たな始まりとなった場所・・・
「カズヤ!ここって・・・」
「ああ・・・、もう一人の“リア”がいる世界のはずだ」
しかし、彼女の姿がどこにも見当たらない。周囲を探ったところで何者かの気配を感じた。隠す気などは毛頭ないようだ。そいつは堂々とどこからか現れた。
「フフフ・・・、やっと来たようだね・・・」
「あなた・・・、ピヤージュ!」
「へえぇ、まだ名乗っていなかったはず・・・他の奴から聞いたのか。それとも、初めから知っていたのか・・・」
薄気味悪い声の主は、この世界に来た時にリアを苦しめていたクモコウモリだぅった。恐らく本体の方だろう。装備の見た目はあまり変わらないが、性能は遥かに勝るように見える上、それを纏う本人自体の溢れる魔力の波動がまるで違う。
が、やることは変わらない。どんなに強かろうが『斬る』、ただそれだけだ!
「フフフ、まあいい。まずはリア・・・お前の全てを・・・ごふっ!」
「同感だ。俺もどうでもいい」
俺を不快にさせる言葉を言い終わるのを待たずして、瞬時に懐へ飛び込み、顔面を掴んで地に思いっきり叩きつけた。グリグリと押しつける力が増し、白だけの世界だろうとも徐々に陥没していく。
「そういう台詞は聞き飽きた!いい加減、ウンザリなんだよ俺は!」
俺は心底、腸が煮えくり返っていた。散々、力の差を見せつけてきたはずにも関わらず、次から次へとちょっかいをかけてくる始末。
某ゲームでは最弱クラスの魔物でもテイムして“頭の良さ”を“二十”以上に育てれば命令を理解してくれる、とヒカリが話していたのを聞いたことがある。こいつらはきっと“頭の良さ”が“二十”より下なのだろう。だから、いくら示しても効果がない。目の無いサイコロをいくら振ろうが前には進まないのと同じ、ということを俺はしていたことになる。本当に頭に来る!
「相・・・変わらず、ぐうっ・・・、気が・・・短い。アレを・・・見な」
「そんな手に乗るか!すぐにこのまま終わらせてやる!」
「まってカズヤ!・・・あそこ!?」
リアの叫びに気を取られた隙に、魔法で漆黒の槍を召喚し俺の戒めからの回避を試みる。必然的に魔法を避けるため、俺は手を放して後ろに飛ぶしかなくなった。
それより今は・・・
「ひどい・・・」
「お前らは本当に俺を怒らせるの好きらしいな!」
そこには十字架に磔にされたもう一人のリアの姿があった。綺麗な黄金の髪は乱れ、体中に傷が目立つ。その光景はまるで五百年前にセレナがクリスタルに変えられた時の状況の再現、どうしようもない程の怒りが俺の心を・・・魂を駆け巡る。
握りしめた拳から血が滴り出すのがよく分かる。俺の怒りを代弁するかのようにそれは熱かった。
「フフフ、確かカズヤ、だったね。この女がお前に一体何をしたのか知ってて剣を取っているのかしら?・・・いや、知らないはずだ。知っていたら絶対にリアの味方はしないはずだからね・・・」
「や・・・めて、彼にも・・・、その子に・・・も言わ・・・ないで・・・」
血に濡れた黄金の髪を震わせて、虫の息でありながら懇願する様は正に必死だった。
彼女はいくつもの世界を、不幸な終わりを迎える別の世界の自分を見てきている。そして、その不幸な終わりの元凶にはこのピヤージュとかいう奴が関わっていたはずだ。自分の敵と呼べる相手に頭を下げるなど苦痛以外の何物でもない。そうまでして隠したい秘密・・・か、別にどうでもいい。リアはリアだ。俺の大事な、大好きな女の子だ。それで俺は十分だ!
「もういい。茶番は終わりだ!・・・くっ、バリアか!?」
御託を並べるのを止めようと斬りかかったが、「まあ、聞きなって」の言葉と同時に現れた黒い壁によって阻まれてしまう。
「フフフ、いい加減に目を覚ましたらどう?こんな小娘より私の方が魅力的でしょ?」
わざと前かがみになり、胸元のみっともない脂肪を強調する姿に吐き気を覚えてしまう。その様子を見たピヤージュの瞳は喜色に染まり口元を緩ませる。
「お前今、私のことを『気持ち悪い』と思ったでしょ。そして『女』には見えていない・・・」
何を当たり前のことを言っているんだ?こいつは・・・、そんなことは今更ではないか。
「そして、それは私だけじゃない。ゴーラの奴は兎も角、リュゼもトゥーラもミネスもお前には『女』には見えなかった。違う?」
「ああ、そうだ。俺にゲテモノ趣味はないからな、お前達を女性として見るのは俺には無理な相談だ」
俺の言葉を聞き更に嬉しそうに目を細めるその魔物、対照的に磔にされている彼女の方は弱々しく「やめて」とばかり口にしている。
「フフフ、教えてやるよ。お前はね、この女にそういう風に変えられたんだよ!」
「いや、ああ、うぅうう・・・」
彼女の方はとうとう耐えきれずに涙が溢れかえってしまった。
語られる真実は終わらない。
「お前はこの女の我がままのために都合の良いように作られた存在・・・」
「もう・・・、言わないでぇ、うぅうう」
「フフフ、この世界に来て全てが分かったよ」
俺と彼女の真実が明かされていく・・・
「あらゆる並行世界、時間軸の中でどの“リア”も不幸だった。それである世界の特別な力に目覚めた“リア”が気付いたのさ。一つの共通点に・・・」
俺にもわかった。それは・・・
「お前だよ。カズヤ、お前がどの世界にもいなかった。いや、正確には全ての時間軸で同じ時・・・そう、十歳の時に死んでいたんだよ!」
そう、俺はそれを乗り越えるため転生術を発動しリアと共に五百年前となる別の世界へ飛んだんだ。瀕死の重傷から蘇る代償として・・・。
この場所に再び訪れて俺の中の抜け落ちていた記憶が少しずつ呼び起されていた。認めたくはないが、こいつの言っていることは正しいのだろう。
「もう分かっただろう・・・。そのことに気付いたのはこうして今、磔にされているこの女・・・。それでこいつは蹂躪されあらゆる苦痛を受けて奪われながらも、自分の中で負のエネルギーを誰にも知られないように貯めた。そして、ある時とんでもないことをしたのさ」
演説は止まらない。白い世界の彼女も俺の隣にいるリアも悲痛な表情を浮かべている。俺は・・・
そいつは、俺のことを指さし勿体ぶっていた物を吐き出すように語り出す。
「お前のことさ。そう・・・、『“カズヤ”が命を落とす』事実を!運命を書き換えたんだよ!何らかの形で生き残るようにね・・・。分かるか?全ての世界が書き換えられたんだ。そして、“カズヤ”のいない世界は全て崩壊させられたのさ、その女の手によって・・・当然、その世界に住む何も知らない多くの人間も含めてね。どれだけの数の人間が殺されたんだろうねぇ?フフフ」
「いやぁぁぁぁぁ・・・うっうう」
「わたし・・・」
「・・・」
この世界だけでなく、俺の隣のリアまでうろたえ出した。俺はその手をそっと握りしめた。
「私もねぇ・・・その崩壊に巻き込まれた一人なんだよ。私の世界の“リア”はリュゼの奴が喰らったようだからね。おかげで崩壊する世界から脱出時に体が耐えきれず、しばらく足止めを食っちまったよ。他は全員、死んでしまったからクローンを作り出して、しばらくは地下暮らしさ・・・」
自分勝手なことを散々してきて今更「ヤレヤレ」のポーズか、全く呆れてくる。
「だが、この女の一世一代の大博打も上手くは行かなかった。十歳の頃の死を乗り越えても、その後でどの世界の“カズヤ”もすぐに命を落として、“リア”が贄となる事実は変わらなかった。だから、“カズヤ”には強くなってもらって“リア”を守るナイトになってもらう必要があったのさ」
そろそろか?ピヤージュは「ここが肝心さ。よく聞け」とばかりにオーバーアクション気味だ。まだ吐き出すモノがあるのだろう。俺がお前達を女として見ない理由のことのようだ。
「お前はこの女に呪いをかけられたのさ。“リア”を守るため他の女が言い寄らないようにね・・・。お前との間で恋愛が成立しないように・・・」
それは知っている。
「実はそれはね、私達にも当てはまっているのさ!」
「なっ!」
俺の初めての動揺に奴は最高に愉悦に浸った顔となる。奴の思惑通りの反応をしてしまったことに後悔を覚えるが全ては遅かった。迂闊にもリアの手を放してしまった。二人のリアの表情がみるみる内に青くなる。
再び手を取ろうとした時は拒絶され、宙をさ迷うことになってしまった。
「違う世界で、私達の虜になって逆にリアを苦しめるお前がいたんだよ。だから私達に対して特別強力な嫌悪感を感じるように変えられた・・・。」
「・・・」
「これで分かっただろ?この女は自分が幸せになるためだけに、多くの世界と人を殺し、お前と言う存在を自分の都合の良い通りに仕立て上げた。全てこの女の我がままため・・・。カズヤ・・・お前もこの女の犠牲者だ」
「ごめ・・・ん・・・なさい。でも私は・・・うっうう」
「わたし・・・そんな・・・カズヤ・・・」
「カズヤ・・・、作られた立場と感情に縛られることは無い!私と来い!捻じ曲げられた運命を全てを取り戻すんだよ!私と一緒に!」
全てが語られ真実が明かされた。
俺は・・・
俺の答えは・・・
「くっくくく、あははっ、ははははっ、ふっはっははははははははは!」
高々と笑う俺の声が響いた。
「「カズヤ・・・うっうう」」
「ようやく分かったようだね・・・さあ、私と一緒に来るんだよ」
二人のリアは泣き崩れ、ピヤージュは俺に手を差し伸べる。
「惚れ直した!」
「「「えっ!」」
「はぁ?」
俺は差し伸べられた手を払い、確かに「惚れ直した」と答えた。
「お前は、こいつの勝手な我がままのせいで運命を狂わされているのに・・・それでもか?」
俺の答えはそんなに信じられないものだろうか?結構当たり前のことなんだがな。
「俺はリアがいなければ死んでいたんだろ?それを回避してもらっただけではなく、贔屓してもらっている・・・愛されているじゃないか、俺は。それに『我がまま』だって?上等じゃないか。こんな優しくて綺麗で可愛い子の『我がまま』なんだろ?しかも俺の大好きな人の、だ。」
そうだ。俺の想いは何も変わらない。いや、むしろより昂ぶっている。隣で青い顔をしていたリアを抱き寄せ目元を拭う。
「『我がまま』上等!頼られている、ってことだ。それだけ想われている証拠だ!むしろ嬉しい。男冥利に尽きるじゃないか!」
「「カズヤ・・・」」
「言いたいことはそれだけだな!リアを苦しめたその罪、他の世界の俺と彼女に変わって俺がお前を叩き斬る!」
決意の言葉とともに黒い壁を斬り裂き、磔にされていた白い世界のリアの戒めを解くと、二人のリアを抱き寄せ勝利を誓った。
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「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
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もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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