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第十二話 真夜中の客人
「何?客人だと?」
こんな夜遅くに誰だ?とロウは怪訝な顔をする。
アキラはもう就寝しており、執務室にはロウと執事のハロルドのみ。
「お帰りいただくように伝えたのですが、何やら良くない噂を耳にしたそうで……」
「良くないとは?」
「……その、アキラ様のことです」
「……街の者に人間だとバレたか」
「……」
ハロルドは何も言わない。
「その客人とやらを通せ」
執務室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、長身の狐の獣人だった。
細い金の瞳が、部屋の奥に立つロウを見つける。
「夜分遅くに失礼するよ、ロウさん」
柔らかな声だった。
だがロウの表情は硬い。
「……情報屋のカガミか」
「名前を知ってくれてるとは光栄だね」
カガミは軽く笑った。
ハロルドが静かに扉を閉める。
部屋には三人だけだ。
ロウは椅子に腰掛けたまま言った。
「用件を言え」
カガミは少しだけ肩をすくめる。
「単刀直入に言うよ。……あなたの屋敷にいる人間のことだ」
空気がぴんと張る。
ロウの瞳が、わずかに鋭くなった。
「……」
「街の噂で聞いたんだ」
カガミは気楽な口調で言う。
「犬耳のフードを被った子。獣の匂いがしない……」
ロウは黙っている。
カガミは続けた。
「私はね、人間の匂いを知っているんだよ」
その言葉に、ハロルドがわずかに息を呑んだ。
「昔、人間界に行ったことがあるんだ」
ロウの視線が変わる。
「……ほう、どうやって?」
「分からない」
カガミは苦笑した。
「気づいたら向こうにいたんだ」
そしてゆっくり言う。
「だから来た」
ロウをまっすぐ見る。
「ロウさん、貴方が大切にしている人間が、どうやってここへ来たのか知りたい」
執務室に沈黙が落ちる。
やがてロウは、静かに答えた。
「知らない」
カガミがわずかに眉を上げる。
「本当に?」
「ああ」
ロウは腕を組む。
「アキラがどうやって来たのか、俺も知らない」
カガミはしばらくロウを見ていた。
そして、ゆっくり息を吐く。
「……そうか」
小さく呟く。その声には、わずかな落胆が混じっていた。
ロウは低く問う。
「なぜそこまで人間界に行きたいんだ?」
カガミは少しだけ黙った。
やがて、ぽつりと言う。
「会いたい人がいるんだ……」
金の瞳が、懐かしむように遠くを見ていた。
「昔、迷い込んだ私を助けてくれた、優しい人だ」
カガミは胸元に触れた。
「カガミって名前も、その人がつけてくれた」
短い沈黙。
「もう一度会いたい」
それだけ言うと、カガミは視線を戻した。
「だからこそ知りたいんだ、その人間が、どうやってこの世界に来たのか」
ロウは黙って聞いていた。
そして、ゆっくり口を開く。
「……俺も、昔人間界に行ったことがある」
カガミの目が大きくなる。
「本当か!?」
「ああ」
「どうやって?」
「分からない、気づいたら向こうにいた」
カガミは思わず笑った。
「なんだ、それ」
「本当だ、嘘じゃない」
ロウの声は真剣だった。
しばらく沈黙が流れる。
やがてロウは、静かに言った。
「……一つ、頼みがある」
カガミが眉を上げる。
「なんだい」
「アキラのことを、これ以上広めないでほしいんだ」
「それは人間だという事をかい?」
「ああ、頼む」
ロウは頭を下げた。
カガミはその姿に驚いた後、フフと笑った。
「私に得はないね」
率直な言葉だった。
ロウはうなずく。
「分かっている。だからこうして頭を下げている」
部屋が静まり返る。
ハロルドも、カガミも言葉を失った。
ロウは淡々と続ける。
「騒ぎになることは望んでいない。ただ穏やかに暮らしたいんだ」
カガミはロウを見つめていた。
しばらく何も言わず、やがてハァと息を吐いた。
「……参ったな」
カガミはそう言って苦笑する。
「そういう顔をされると弱いんだ」
狐の尾がゆらりと揺れる。
「分かった」
カガミは言った。
「噂はこれ以上広まらないようにするよ」
「本当か」
「……ただし条件がある」
金の瞳が細くなる。
「もし人間界へ行く方法が分かったら、真っ先に私に教えてほしい」
「分かった、約束する」
カガミは満足そうに笑った。
「夜分遅くにすまなかったね」
──パタン。
扉が閉まる。
執務室に静寂が戻った。
ハロルドが小さく息を吐く。
「……彼を信じてもよろしいのでしょうか」
ロウはしばらく黙っていた。
やがて窓の外を見つめながら言う。
「大丈夫だろう」
(人間を愛した者同士……)
こんな夜遅くに誰だ?とロウは怪訝な顔をする。
アキラはもう就寝しており、執務室にはロウと執事のハロルドのみ。
「お帰りいただくように伝えたのですが、何やら良くない噂を耳にしたそうで……」
「良くないとは?」
「……その、アキラ様のことです」
「……街の者に人間だとバレたか」
「……」
ハロルドは何も言わない。
「その客人とやらを通せ」
執務室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、長身の狐の獣人だった。
細い金の瞳が、部屋の奥に立つロウを見つける。
「夜分遅くに失礼するよ、ロウさん」
柔らかな声だった。
だがロウの表情は硬い。
「……情報屋のカガミか」
「名前を知ってくれてるとは光栄だね」
カガミは軽く笑った。
ハロルドが静かに扉を閉める。
部屋には三人だけだ。
ロウは椅子に腰掛けたまま言った。
「用件を言え」
カガミは少しだけ肩をすくめる。
「単刀直入に言うよ。……あなたの屋敷にいる人間のことだ」
空気がぴんと張る。
ロウの瞳が、わずかに鋭くなった。
「……」
「街の噂で聞いたんだ」
カガミは気楽な口調で言う。
「犬耳のフードを被った子。獣の匂いがしない……」
ロウは黙っている。
カガミは続けた。
「私はね、人間の匂いを知っているんだよ」
その言葉に、ハロルドがわずかに息を呑んだ。
「昔、人間界に行ったことがあるんだ」
ロウの視線が変わる。
「……ほう、どうやって?」
「分からない」
カガミは苦笑した。
「気づいたら向こうにいたんだ」
そしてゆっくり言う。
「だから来た」
ロウをまっすぐ見る。
「ロウさん、貴方が大切にしている人間が、どうやってここへ来たのか知りたい」
執務室に沈黙が落ちる。
やがてロウは、静かに答えた。
「知らない」
カガミがわずかに眉を上げる。
「本当に?」
「ああ」
ロウは腕を組む。
「アキラがどうやって来たのか、俺も知らない」
カガミはしばらくロウを見ていた。
そして、ゆっくり息を吐く。
「……そうか」
小さく呟く。その声には、わずかな落胆が混じっていた。
ロウは低く問う。
「なぜそこまで人間界に行きたいんだ?」
カガミは少しだけ黙った。
やがて、ぽつりと言う。
「会いたい人がいるんだ……」
金の瞳が、懐かしむように遠くを見ていた。
「昔、迷い込んだ私を助けてくれた、優しい人だ」
カガミは胸元に触れた。
「カガミって名前も、その人がつけてくれた」
短い沈黙。
「もう一度会いたい」
それだけ言うと、カガミは視線を戻した。
「だからこそ知りたいんだ、その人間が、どうやってこの世界に来たのか」
ロウは黙って聞いていた。
そして、ゆっくり口を開く。
「……俺も、昔人間界に行ったことがある」
カガミの目が大きくなる。
「本当か!?」
「ああ」
「どうやって?」
「分からない、気づいたら向こうにいた」
カガミは思わず笑った。
「なんだ、それ」
「本当だ、嘘じゃない」
ロウの声は真剣だった。
しばらく沈黙が流れる。
やがてロウは、静かに言った。
「……一つ、頼みがある」
カガミが眉を上げる。
「なんだい」
「アキラのことを、これ以上広めないでほしいんだ」
「それは人間だという事をかい?」
「ああ、頼む」
ロウは頭を下げた。
カガミはその姿に驚いた後、フフと笑った。
「私に得はないね」
率直な言葉だった。
ロウはうなずく。
「分かっている。だからこうして頭を下げている」
部屋が静まり返る。
ハロルドも、カガミも言葉を失った。
ロウは淡々と続ける。
「騒ぎになることは望んでいない。ただ穏やかに暮らしたいんだ」
カガミはロウを見つめていた。
しばらく何も言わず、やがてハァと息を吐いた。
「……参ったな」
カガミはそう言って苦笑する。
「そういう顔をされると弱いんだ」
狐の尾がゆらりと揺れる。
「分かった」
カガミは言った。
「噂はこれ以上広まらないようにするよ」
「本当か」
「……ただし条件がある」
金の瞳が細くなる。
「もし人間界へ行く方法が分かったら、真っ先に私に教えてほしい」
「分かった、約束する」
カガミは満足そうに笑った。
「夜分遅くにすまなかったね」
──パタン。
扉が閉まる。
執務室に静寂が戻った。
ハロルドが小さく息を吐く。
「……彼を信じてもよろしいのでしょうか」
ロウはしばらく黙っていた。
やがて窓の外を見つめながら言う。
「大丈夫だろう」
(人間を愛した者同士……)
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