オークションで落札した吸血鬼をどうしても惚れさせたい

うんとこどっこいしょ

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「一千!」
「三千だ!」

 怒号のような競り声が飛び交う中、

「五千!」

 ひときわ野太い声が響いた瞬間、会場は水を打ったように静まり返った。

「五千ミラ!他はいませんか?……いませんね?では、この少女は五千ミラで落札!」

 ガン、と木槌が鳴る。
 少女の手枷がジャラリと音を立て、彼女は泣き腫らした顔を両手で覆った。
 檻が舞台裏へと運ばれていくと同時に、落札者も席を立ち、スタッフに促されるまま裏方へ消えていく。
 その一連の光景を、アルベルトは無言で見送った。

「さあさあ、お次は──」

 司会の声とともに、競りは何事もなかったかのように続いていく。
 次から次へと人間が“商品”として売り払われ、やがて舞台に残ったのは、最後の檻だけとなった。
 他の檻とは明らかに違う。
 それだけが、重そうな黒い敷物で厳重に覆われている。
 ──あれが、人外か。
 アルベルトは目を細めた。
 バッ、と勢いよく布が剥がされる。
 ハラリと床へ落ちた黒布の下から現れたのは──赤。
 血のように鮮烈な紅い瞳。
 煌めく蜂蜜色の髪の隙間から、こちらを真っ直ぐに睨みつけている。
 その視線には怯えも、懇願もない。
 あるのは、剥き出しの憎悪と、獣のような警戒心だけ。
 恐ろしくもあり、同時に、目を奪われるほど美しい。
 会場の誰もが、息を呑んだ瞬間だった。

「こちらの青年は──世にも恐ろしい吸血鬼でございます!」

 司会の男がそう告げた途端、

「六千!」
「八千!」

 堰を切ったように競り声が跳ね上がる。
 会場は一気に騒然となり、熱を帯びていく。
 だが、アルベルトの耳には、それらの声がほとんど届いていなかった。
 檻の中の青年。
 その赤い瞳が、ふとアルベルトの視線と重なる。
 瞬間、胸の奥が、僅かに軋んだ。
 ──美しい。
 ただそれだけで、他のすべてがどうでもよくなるほどに。
 アルベルトは静かに息を吐いた。

「一億!」
「ええい! 二億だ! 二億出すぞ!」

 会場がどよめく。
 スタッフはその金額に動揺を隠すように咳払いを一つすると、「では、吸血鬼の青年は二億!他にいらっしゃいますか?」と、会場を見渡した。

「五億だ」

 アルベルトの凛とした声が、騒然とした空気を切り裂いた。
 ──五億だと?
 一拍遅れて、ざわめきが爆発する。
 あまりにも現実離れした数字に、客たちは顔を見合わせ、司会すら言葉を失った。

「……ご、五億ミラ。ほ、他にいらっしゃいますか?」

 司会の男は明らかに動揺しながらも、職務を思い出したように会場を見渡す。
 誰も声を上げない。
 先ほどまで競り合っていた者たちも口を噤み、ただアルベルトの方を窺っている。
 五億。
 吸血鬼一人に支払うには、あまりにも法外な額だ。
 檻の中で、青年が僅かに眉を寄せた。
 赤い瞳が、再びアルベルトを射抜く。
 値段が吊り上がるたびに向けられていた憎悪が、今は困惑へと変わっている。
 (……なんだ、こいつ)
 そんな声が聞こえてきそうなほど、露骨な視線だった。
 アルベルトはその視線を真正面から受け止めた。

「……五億ミラ。これ以上はございませんね?」

 司会の声が震える。
 沈黙。

「では──」

 ガンッ。
 木槌が高らかに鳴り響いた。

「吸血鬼の青年は、五億ミラで落札!」

 瞬間、会場は割れんばかりの喧騒に包まれた。
 檻の中で、青年──ルカは小さく舌打ちした。
 鎖がジャラリと鳴る。
 まただ。
 また、金で買われた。
 吸血鬼は今や絶滅危惧種。
 それを人間たちは知ってか知らずか、高値で売り買いしている。
 ──人間は信じるな。
 仲間に何度も言われた言葉が、脳裏をよぎる。
 猿轡を噛まされ、言葉すら奪われたルカは、奥歯を強く噛み締めた。
 檻の外に立つ男は、勝ち誇る様子も、満足げな笑みも浮かべていない。
 ただ一度、深く息を吐き、まるで長い間探し続けていたものを、ようやく見つけたかのような目でこちらを見ていた。
 その視線に、ルカは直感的に思う。
 ──この男、絶対に変態だ。
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