バカなあいつが可愛くて

うんとこどっこいしょ

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3.痴話喧嘩

「どういうことだよ」

 謙也は自分の肩を抱いている男を押しやる。睨みつけるも深司はいつもの調子で「付き合ったんだから同棲するだろ」とシレッと言ってのけた。それには謙也もカチンときて言い返す。

「自分勝手過ぎるだろ。つか何?さっきの笑顔。ゾッとしたんだけど」
「なんだよ、俺と同棲出来ない理由でもあんのか?ん?」
「む、」

 むぎゅ、片手で両頬を掴まれる。謙也は話しづらいから離せと、その腕を掴んで退かせた。

「早速浮気か?」
「してねーわ」

 謙也が深司の腹に軽く拳を入れたところで、若い男二人組が謙也の部屋から出てきて「終わりました」と恐る恐る声をかけてきた。

「全部段ボールに詰めたのか?」
「はい!少なかったので余裕でした!」
「よし、じゃあ運んでおいてくれ」
「はい!」
「ちょっと待てよ!俺はまだ一緒に住むなんて言ってないぞ!」

 謙也の声に部下の二人は気まずそうに顔を見合わせる。雲行きが怪しい雰囲気に、二人は早くここから立ち去りたいという気持ちがありありと見て取れた。

「俺と暮らすのがそんなに嫌か」
「嫌だね」

 謙也の即答に場の空気が凍りつく。

「理由は」
「だってお前毎晩ヤりたがるじゃん!」

 過去にも深司の家に居候したことがあったが、セックスしてない日は無いんじゃないかというくらい毎晩のように求められた。最初は気持ちよかったから謙也自身も流されていたが、そのうち体力の限界が来て逃げるようにこのボロアパートで一人暮らしを始めたのだ。

「毎日じゃなければいいんだな?」
「うん、一週間に一回とかなら」
「却下」
「はあ?」
「二日に一回だ」
「無理、死ぬ」
「毎晩ヤッても生きてんだろ」
「死ぬんだよ!腰が!」

 なかなか食い下がらない謙也に深司は苛立ちを顕にする。

「ちょっと落ち着きましょう!外ですよ」

 部下の一人がそう言うと「だからなんだよ」と深司が相手を鋭く睨みつける。ヒィッと怯える部下を見て謙也が「おい!」と声を荒げた。

「深司!そういうとこだぞ!お前の悪いところ」
「あ?」
「もうちょっと部下に優しくしろよ、それと俺の体にも」
「してんだろうが」
「してねーから言ってんだよ」
「……ハァ、埒が明かねえな」
「こっちのセリフだし」

 ツンっと明後日の方向を向いた謙也に深司は頭を掻きながら言う。

「とりあえず引っ越しはするからな、大家のあの女にも話はつけてあるし」
「……わかったよ」
「忘れ物がないか見てこい、そのためにお前をここに連れてきたんだ」
「はいはい」

 二人の雰囲気は最悪だった。
 謙也はブスッとした顔のまま部屋に行くと、深司の部下たち二人が「うっす」と挨拶をしてくる。

「ありがとね、手伝ってくれて」

 そう言うと二人は顔を見合わせてから遠慮がちに笑った。

「俺たち雑用係なんで!なんかあったら言ってください!」
「微力ながら力になりますよ!」

 息の合ったコンビに謙也はフハッと笑うと「サンキュー、あんたら仲良いんだね」と自分の荷物が入った段ボールを抱えた。俺達が持ちますよ!と言ってくる二人を制して部屋を出ていくと、煙草をふかしている男に声をかける。

「おいそこ!手伝えよ!」
「あいつらにやらせればいいだろ、それが仕事だ」
「うっせー、みんなでやった方が早いんだからお前もやれ」

 そう言うと深司は納得したのか徐ろに煙草の火を消してアパートに足を向けた。

「一番重いの持ってよ」
「へいへい」

 若頭を顎で使う謙也を見た部下たちは、いったい何者なんだこの人は……と目を丸くするのだった。
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