魔王様に溺愛されています!

うんとこどっこいしょ

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第三話 歓迎されざる客?

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「春斗様……春斗様……!起きてください!」

「んあ?」

 なんとも間抜けな声を出して目覚めた春斗は、ゆっくりと体を起こして口元の涎を拭った。
 目の前にはバロンよりも短い角を頭から生やした細身の男がいた。彼は春斗と目が合うとにっこり笑ってパンッと一度手を叩いた。

「やっと起きましたね、では自己紹介からします。私はミレセス。バロン様の世話係……いいえ、右腕です!以後お見知り置きを」

「あ、はい、俺は春斗……倉木春斗です、よろしくお願いします」

 慌ててベッドの上で正座をすると、ミレセスは「ふむ、よろしい」と一つ頷いた。

「では早速着替えてください」

「はい?」

「魔王様がお待ちですので」

「バロンさんが?」

*

 ミレセスに導かれて執務室に入った春斗は、昨日の優しい雰囲気とは一転、凛々しく仕事をこなすバロンの姿に目を奪われた。

 深紅のマントを肩に掛け、魔族たちの報告書に次々と目を通すその横顔。鋭く整った表情は、たしかに「魔王」と呼ばれるにふさわしい威厳を纏っていた。
 春斗の存在に気づいたバロンが手を止める。

「春斗。来てくれて嬉しい」

 柔らかく微笑んだ彼に、春斗はまた、胸の奥が妙にざわつくのを感じた。

「あ、あの……お仕事中にすみません。ミレセスさんに呼ばれて……」

「気にしなくていい。もう少ししたら休憩を取ろうと思っていたんだ。お前の顔も見たかったしな」

「な、なにそれ……」

 さらりと告げられた言葉に、春斗の耳がかあっと熱を持つ。ミレセスが後ろでニヤニヤしているのも気づかないほどに春斗は動揺していた。

「朝部屋を覗いたときはぐっすり眠っていたから起こすのはやめたんだ」

「そ、そうだったんですか、すみません、寝坊してしまって」

「構わない、疲れているようだったしな」

 バロンは席を立ち、春斗の前に歩み寄る。

「春斗、今日は何か体調に変化はないか?」

「はいっ、大丈夫です!」

「そうか。それならよかった」

 バロンが軽く頷いたその瞬間──

「それでは休憩時間ですね! お茶をお淹れいたしましょう!」 

 妙にテンションの高いミレセスの声に、二人は一瞬見合って、思わず笑ってしまった。
 ミレセスが淹れた香り高いお茶をバロンと共に楽しんでいた春斗は、ようやく少しだけ緊張が解けてきたところだった。

 ──ドンッ!

 突然、執務室の扉が勢いよく開かれ、重々しい足音が部屋に響く。春斗は思わずカップを取り落としかけた。

「バロン様ァァッ!!なぜ、なぜ人間などを傍に置いているのですか!」

 怒鳴り声と共に現れたのは、上半身裸の筋骨隆々の男。燃えるような赤毛と鋭い瞳、そして額から伸びる鬼のような角が、彼のただ者ではない風格を物語っていた。

「えっ、だれ……!?」

 思わず声を上げた春斗に、男はギロリと視線を向けた。

「貴様か……人間の分際で、我らが魔王様と並んで茶など……!」

「えっ、いや、その……!」

「なんだぁ?言い訳も言えねえってか?このヒョロヒョロ野郎がッ!」

 ビシィッと指を突きつけられ、春斗はあまりの迫力にたじろいだ。

「ご紹介が遅れました」

 お茶をテーブルに置きながら、ミレセスがにこやかに言う。「こちら、四天王の一人、炎の暴君ことフラム様です。少々情熱的すぎるところがありますが、根は──まあまあ悪くない方です」

「ミレセス貴様、余計なことを言うな!」

 フラムが吠えるように叫ぶが、ミレセスは「ふふふ」と受け流すように微笑んだ。
 バロンは立ち上がり、春斗の前にさりげなく立つ。

「フラム、春斗は俺が保護している、大切な客人だ。無礼な態度は慎め」

「っ……は、はい……。バロン様がそう仰るなら、従います……が……俺は納得はしておりません!」

 そう言い放つと、フラムは悔しそうに唇を噛みしめ、春斗を睨みながらそっぽを向いた。

「あ、えっと……俺、倉木春斗っていいます……よろしくお願いします」

 恐る恐る頭を下げる春斗に、フラムは「フンッ」と鼻を鳴らして目を逸らす。

「これはもう、典型的な嫉妬ですね」

 ミレセスが愉快そうに呟くと、フラムは顔を真っ赤にして怒鳴り返す。

「してねぇ!!!」

 その勢いにまたビクッとする春斗。

(まあ、歓迎はされるわけないよな……)

 春斗はそんなことを思いながら、バロンの隣にそっと身を寄せた。バロンはそんな春斗の動きを自然な仕草で受け止め、微かに笑った。

*

 ──魔王城・書斎。
 ページをめくるたびに、見慣れない言語と難解な呪文が目に飛び込んでくる。元の世界に帰る方法を探していた春斗だったが、徐々に頭がくらくらしてきて、椅子にもたれた。

「はあ……ダメだ、全然わかんない……」

 少し気分転換をしようと、春斗は書斎を後にして、人気のない中庭へと向かった。
 ──魔王城・中庭の片隅。
 小さな獣型の使い魔が、右後ろ足を引きずって、しばらくして崩れ落ちるようにして倒れた。近くにいた下級魔族たちが冷ややかに囁く。

「役立たずは森に返される」「弱いやつ」「使えないやつ」「殺そう、オレがやる」「いいやオレだ」

 春斗は通りすがりにその光景を見て足を止めた。
 下級魔族たちは人間の存在に気付き、蜘蛛の子を散らすように草木や物陰に隠れた。

「大変だ……!!」

 春斗は倒れている魔物に駆け寄ると、すぐさま自分の上着を脱いで後ろ足の止血をした。震える小さな体をそっと抱きかかえ「大丈夫、すぐに治療をするから」と言うと、猫のような子虎のような見た目の魔物は「ガウ」と小さく鳴いた。
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