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第二話 知らないことだらけの世界で
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ナプキンで口元を拭いながら、バロンが春斗に尋ねた。
「朝食は口に合ったか?」
春斗は食べ終えたパンやスープ、サラダが盛られていた空の皿を見て、「はい、とっても」と満足げに腹を撫でた。
魔界の食べ物が人間界と変わらなくて良かった……と安堵したのは、ほんの数十分前のことだった。
「それは良かった。……実は、厨房に命じたんだ。人間界の食事を用意するようにと」
「そうだったんですか、何だかすみません……気を使わせてしまって……」
「なに、謝る必要はない。これもお前を俺に惚れさせるためだ」
「ッ……」
(恥ずかしい人……いや、この場合人じゃなく魔王様か……)
フッと鼻で笑うバロンに春斗は恥ずかしくなって、カップに残っていた温かいハーブティーをグビと飲み干した。
昨晩知った事と言えば、ここが人間界ではなく魔界だということ、そしてバロンが魔王だということ。まだまだ知らないことが多い。いや、多すぎる。有り難いことに乱暴されるような事はないが、この先の不安が消えたわけではない。
暗い表情を浮かべる春斗にバロンが言った。
「食べ終えたのならこれから城の中を案内しよう」
「いいんですか!?」
実は春斗はずっとこの城の中を探索してみたいと思っていたのだ。
「案内役は俺だ」
「えっ、バロンさんが……?部下の人とかじゃなくて?」
「俺がしたいんだ。なんだ、俺じゃあ不満か?」
不機嫌そうに眉をひそめるバロンの顔を見て、春斗は少し怯えながらも首を横に振った。
「だ、ダメじゃないですけど……」
「よし。では、出ようか」
言うなりすっと立ち上がり、バロンは当然のように春斗に手を差し伸べた。
「えっと……?」
「手を取ってほしい。転ばぬように」
「子ども扱いしないでください!」
と春斗がぷいとそっぽを向くと、バロンは小さく「残念だ」と呟いた。
*
屋敷の中は広く、春斗は目を丸くしていた。
「……すごい……ゲームの世界みたい……」
天井には豪華なシャンデリア、壁には絵画、廊下にはふかふかの絨毯。そして時々外から聞こえる不気味な鳴き声……。まさか自分がこのような世界に来てしまうなんて思いもしなかった。
案内を受けながら廊下を曲がったそのとき──
「きゃあああっ! ま、魔王様……っ!」
突然の悲鳴に、春斗はびくりと肩をすくめた。声のした方を見ると、若いメイドが手にしていた銀のトレイを落とし、紅茶の入ったカップが床に転がっていた。
「……ああ、驚かせたな。すまない」
静かにそう言ったバロンは、しゃがんでカップを拾い上げた。その仕草に怒りの気配はまったくない。けれどメイドは顔を青ざめさせ、小刻みに震えていた。
「し、失礼しました! 私が片付けますので……!」
「気をつけろ。熱い紅茶がかかっていたら火傷をしていたぞ」
「は、はいっ! 申し訳ありませんっ!」
深く頭を下げ、メイドはトレイとカップを抱えて、逃げるようにその場を去っていった。
「……なんか、すごく怖がってましたね、彼女……」
春斗はそっと呟いた。バロンは小さく首を傾げ、困ったように笑った。
「いつもこうだ。特に何もしていないのに……なぜか逃げられる。何故だと思う?」
「うーん……」
それは顔が怖いからです!なんて言ったらバロンは傷付いてしまうだろう、そう考えた春斗が言葉を選んでいると「やはり見た目か……」とバロンはいつの間にか肩を落とした。
「でも、優しいじゃないですか。ちゃんと拾ってあげてたし」
「当たり前だ。彼女に怪我がなくて良かった」
春斗はその言葉に、ほんの少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じていた。
*
「ここが書斎だ。知識を得たければ自由に使っていい」
「うわ、すごい……!」
扉の奥には本棚がずらりと並び、天井までびっしりと本が詰まっている。まるでファンタジー映画のワンシーンのようだ。
「午後にまた来てもいいですか?」
「もちろん」
しばらくして、屋敷のバルコニーに出た二人。
バロンが春斗の隣に立つと、遥か彼方に広がる魔界の大地を見下ろした。
「……恐ろしく見えるか?」
「え?」
「この世界が。俺が。……お前にとっては異質な存在だろう」
その声は、初めて出会った時の威圧感とは違って、どこか自嘲気味だった。
春斗は思わず黙り込む。そして、ふと口を開く。
「……ちょっと怖いです。最初は本気で殺されると思ったし」
「……」
「でも、少しずつ……今はそこまで怖くないです」
春斗の声はか細くて、けれど確かに届いていた。
「……なら良かった」
バロンは穏やかな顔で春斗を見つめた。その瞳が優しい光を帯びているを見て、春斗の胸がまた一度ドクンと高鳴った。だけどその気持ちを抑え込むようにぽつりと呟く。
「早く……帰れるといいな……」
元の世界を思い出していた春斗の目は僅かに潤んでいた。その涙を目にしたバロンは悲しい顔をしながら、どんよりとした空を見上げた。その表情は『帰したくない』と言いたげだった──。
*
部屋に戻った春斗は、ふかふかのベッドに身を沈め、天井を見つめていた。
「……帰れるといいな、なんて、口に出してどうするんだ俺……」
ふと、バロンの悲しそうな顔が脳裏に浮かぶ。
あの人は優しい。最初こそ大柄で不気味な雰囲気に怖気づいたけれど、実際は全然違った。魔王といっても映画やゲームで見たような悪の化身なんかじゃない。彼は良くしてくれるし、自分はこの世界に来てから何も分からず、ただ戸惑ってばかりなのに、バロンは最初から春斗を気遣い、大事にしようとしてくれている。その事実が、じわじわと罪悪感に変わっていく。
窓の外から、遠くで何かの鳴き声が響いた。春斗はビクリと体を震わせた。
やっぱり、ここは元いた自分の世界じゃない。
不安と孤独が、ひたひたと心に押し寄せてくる。
ため息を一つ吐いたそのとき、扉がコンコンと叩かれた。
「春斗、少し話せるか?」
バロンの声に、春斗は慌てて体を起こす。
「どうぞ!」
扉が開き、バロンが部屋に入ってくる。彼は無言のまま窓際に立ち、外を見つめながら言った。
「……お前が帰りたいと言ったこと、気にしていないと言ったら嘘になるが──ひとつだけ伝えたいことがある」
「……」
「この世界にも、お前がいてくれて嬉しいと思っている存在がいることを、忘れないでくれ」
その言葉は静かで、けれど真っ直ぐで、春斗の胸に強く響いた。何も言えず、ただ彼の背中を見つめるしかなかった。
──その夜、春斗は奇妙な夢を見た。
ブレーキ音、強い衝撃、冷たい風。
横たわる自分の体。アスファルトの上にみるみるうちに広がる血。それを、まるで他人事のように上空から見下ろしていた。
「はぁっ、はぁっ……俺、今……死んでた……?」
目が覚めた時、全身は汗でぐっしょり濡れていた。呼吸もままならず、動悸が胸を打つ。
(なんだったんだ、今の夢……)
そんな時だった。
「春斗、起きてるか?」
「はっ、はい、今起きました!」
「入るぞ」
「えっ、ちょ、待って……!」
けれど、バロンはもう扉を開けていた。寝汗で寝間着が体に張りついている春斗の姿を見て眉をひそめる。
「顔色が悪いな……何かあったのか?」
「いや、その……ちょっと変な夢を見ただけで……でももう大丈夫です!」
慌てて誤魔化す春斗とは裏腹に、バロンはベッドの傍に腰を下ろし、真剣な目で春斗を見つめてきた。その眼差しに、心臓の音がさらにうるさくなる。
「このままだと汗で冷えてしまう。着替えはどこだ?」
「だ、大丈夫です!自分で着替えますから!」
「遠慮するな」
優しい声だけれど、逃げ場はない。春斗は観念し肩を落とした。
「……じゃあ、タオルだけもらえませんか?体を拭きたいので」
「わかった。持ってくる」
バロンはすぐに立ち上がって部屋を出ていった。その背中を見送りながら、春斗はホッと息をついた。
(心配してくれてるのかな……)
彼の優しさに、夢で感じた恐怖が少しだけ和らいでいく。
やがて戻ってきたバロンが白いタオルを差し出した。春斗は礼を言い、それで自分の体を拭き始める。
その様子を見ながらバロンが言った。
「……夢のこと、話してくれないか?」
「え?」
「ただの寝汗じゃないだろう?」
「ッ……!」
鋭くも優しいアメジストの瞳に見つめられ、春斗は言葉を失う。
「……すごく変な夢だったんです。車のブレーキ音がして、強い衝撃があって……血だらけの自分を、なぜか上から見てて……」
言いながら、手が震える。バロンはそっと春斗の隣に腰を下ろし、その肩に手を置いた。
「もういい、すまない。無理やり話させてしまったな……」
「いえ、大丈夫です……少しすれば、この動悸も治まると思うので……」
「春斗、どんな場所から来たとしてもお前はちゃんと今ここで生きている」
「……」
「それは俺が保証する」
その言葉に、春斗の胸の奥がじんわりと温かくなった。バロンの手のひらから伝わる体温が、冷えた心に染み込んでいく。
「……ありがとう、バロンさん」
春斗はそっと彼の肩に寄りかかった。バロンは一瞬驚いたようだったが、すぐに穏やかな表情を浮かべて、優しくその肩を抱いた。
バロンが静かに部屋を出ていったあと、春斗は再びベッドに身を沈めた。
彼の残していった体温と、優しい言葉が胸の奥にじんわりと残っていて、不思議と心が落ち着いていく。
やがて瞼が自然と閉じられ、春斗は温かくも穏やかな夢の中へとゆっくりと沈んでいった。
「朝食は口に合ったか?」
春斗は食べ終えたパンやスープ、サラダが盛られていた空の皿を見て、「はい、とっても」と満足げに腹を撫でた。
魔界の食べ物が人間界と変わらなくて良かった……と安堵したのは、ほんの数十分前のことだった。
「それは良かった。……実は、厨房に命じたんだ。人間界の食事を用意するようにと」
「そうだったんですか、何だかすみません……気を使わせてしまって……」
「なに、謝る必要はない。これもお前を俺に惚れさせるためだ」
「ッ……」
(恥ずかしい人……いや、この場合人じゃなく魔王様か……)
フッと鼻で笑うバロンに春斗は恥ずかしくなって、カップに残っていた温かいハーブティーをグビと飲み干した。
昨晩知った事と言えば、ここが人間界ではなく魔界だということ、そしてバロンが魔王だということ。まだまだ知らないことが多い。いや、多すぎる。有り難いことに乱暴されるような事はないが、この先の不安が消えたわけではない。
暗い表情を浮かべる春斗にバロンが言った。
「食べ終えたのならこれから城の中を案内しよう」
「いいんですか!?」
実は春斗はずっとこの城の中を探索してみたいと思っていたのだ。
「案内役は俺だ」
「えっ、バロンさんが……?部下の人とかじゃなくて?」
「俺がしたいんだ。なんだ、俺じゃあ不満か?」
不機嫌そうに眉をひそめるバロンの顔を見て、春斗は少し怯えながらも首を横に振った。
「だ、ダメじゃないですけど……」
「よし。では、出ようか」
言うなりすっと立ち上がり、バロンは当然のように春斗に手を差し伸べた。
「えっと……?」
「手を取ってほしい。転ばぬように」
「子ども扱いしないでください!」
と春斗がぷいとそっぽを向くと、バロンは小さく「残念だ」と呟いた。
*
屋敷の中は広く、春斗は目を丸くしていた。
「……すごい……ゲームの世界みたい……」
天井には豪華なシャンデリア、壁には絵画、廊下にはふかふかの絨毯。そして時々外から聞こえる不気味な鳴き声……。まさか自分がこのような世界に来てしまうなんて思いもしなかった。
案内を受けながら廊下を曲がったそのとき──
「きゃあああっ! ま、魔王様……っ!」
突然の悲鳴に、春斗はびくりと肩をすくめた。声のした方を見ると、若いメイドが手にしていた銀のトレイを落とし、紅茶の入ったカップが床に転がっていた。
「……ああ、驚かせたな。すまない」
静かにそう言ったバロンは、しゃがんでカップを拾い上げた。その仕草に怒りの気配はまったくない。けれどメイドは顔を青ざめさせ、小刻みに震えていた。
「し、失礼しました! 私が片付けますので……!」
「気をつけろ。熱い紅茶がかかっていたら火傷をしていたぞ」
「は、はいっ! 申し訳ありませんっ!」
深く頭を下げ、メイドはトレイとカップを抱えて、逃げるようにその場を去っていった。
「……なんか、すごく怖がってましたね、彼女……」
春斗はそっと呟いた。バロンは小さく首を傾げ、困ったように笑った。
「いつもこうだ。特に何もしていないのに……なぜか逃げられる。何故だと思う?」
「うーん……」
それは顔が怖いからです!なんて言ったらバロンは傷付いてしまうだろう、そう考えた春斗が言葉を選んでいると「やはり見た目か……」とバロンはいつの間にか肩を落とした。
「でも、優しいじゃないですか。ちゃんと拾ってあげてたし」
「当たり前だ。彼女に怪我がなくて良かった」
春斗はその言葉に、ほんの少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じていた。
*
「ここが書斎だ。知識を得たければ自由に使っていい」
「うわ、すごい……!」
扉の奥には本棚がずらりと並び、天井までびっしりと本が詰まっている。まるでファンタジー映画のワンシーンのようだ。
「午後にまた来てもいいですか?」
「もちろん」
しばらくして、屋敷のバルコニーに出た二人。
バロンが春斗の隣に立つと、遥か彼方に広がる魔界の大地を見下ろした。
「……恐ろしく見えるか?」
「え?」
「この世界が。俺が。……お前にとっては異質な存在だろう」
その声は、初めて出会った時の威圧感とは違って、どこか自嘲気味だった。
春斗は思わず黙り込む。そして、ふと口を開く。
「……ちょっと怖いです。最初は本気で殺されると思ったし」
「……」
「でも、少しずつ……今はそこまで怖くないです」
春斗の声はか細くて、けれど確かに届いていた。
「……なら良かった」
バロンは穏やかな顔で春斗を見つめた。その瞳が優しい光を帯びているを見て、春斗の胸がまた一度ドクンと高鳴った。だけどその気持ちを抑え込むようにぽつりと呟く。
「早く……帰れるといいな……」
元の世界を思い出していた春斗の目は僅かに潤んでいた。その涙を目にしたバロンは悲しい顔をしながら、どんよりとした空を見上げた。その表情は『帰したくない』と言いたげだった──。
*
部屋に戻った春斗は、ふかふかのベッドに身を沈め、天井を見つめていた。
「……帰れるといいな、なんて、口に出してどうするんだ俺……」
ふと、バロンの悲しそうな顔が脳裏に浮かぶ。
あの人は優しい。最初こそ大柄で不気味な雰囲気に怖気づいたけれど、実際は全然違った。魔王といっても映画やゲームで見たような悪の化身なんかじゃない。彼は良くしてくれるし、自分はこの世界に来てから何も分からず、ただ戸惑ってばかりなのに、バロンは最初から春斗を気遣い、大事にしようとしてくれている。その事実が、じわじわと罪悪感に変わっていく。
窓の外から、遠くで何かの鳴き声が響いた。春斗はビクリと体を震わせた。
やっぱり、ここは元いた自分の世界じゃない。
不安と孤独が、ひたひたと心に押し寄せてくる。
ため息を一つ吐いたそのとき、扉がコンコンと叩かれた。
「春斗、少し話せるか?」
バロンの声に、春斗は慌てて体を起こす。
「どうぞ!」
扉が開き、バロンが部屋に入ってくる。彼は無言のまま窓際に立ち、外を見つめながら言った。
「……お前が帰りたいと言ったこと、気にしていないと言ったら嘘になるが──ひとつだけ伝えたいことがある」
「……」
「この世界にも、お前がいてくれて嬉しいと思っている存在がいることを、忘れないでくれ」
その言葉は静かで、けれど真っ直ぐで、春斗の胸に強く響いた。何も言えず、ただ彼の背中を見つめるしかなかった。
──その夜、春斗は奇妙な夢を見た。
ブレーキ音、強い衝撃、冷たい風。
横たわる自分の体。アスファルトの上にみるみるうちに広がる血。それを、まるで他人事のように上空から見下ろしていた。
「はぁっ、はぁっ……俺、今……死んでた……?」
目が覚めた時、全身は汗でぐっしょり濡れていた。呼吸もままならず、動悸が胸を打つ。
(なんだったんだ、今の夢……)
そんな時だった。
「春斗、起きてるか?」
「はっ、はい、今起きました!」
「入るぞ」
「えっ、ちょ、待って……!」
けれど、バロンはもう扉を開けていた。寝汗で寝間着が体に張りついている春斗の姿を見て眉をひそめる。
「顔色が悪いな……何かあったのか?」
「いや、その……ちょっと変な夢を見ただけで……でももう大丈夫です!」
慌てて誤魔化す春斗とは裏腹に、バロンはベッドの傍に腰を下ろし、真剣な目で春斗を見つめてきた。その眼差しに、心臓の音がさらにうるさくなる。
「このままだと汗で冷えてしまう。着替えはどこだ?」
「だ、大丈夫です!自分で着替えますから!」
「遠慮するな」
優しい声だけれど、逃げ場はない。春斗は観念し肩を落とした。
「……じゃあ、タオルだけもらえませんか?体を拭きたいので」
「わかった。持ってくる」
バロンはすぐに立ち上がって部屋を出ていった。その背中を見送りながら、春斗はホッと息をついた。
(心配してくれてるのかな……)
彼の優しさに、夢で感じた恐怖が少しだけ和らいでいく。
やがて戻ってきたバロンが白いタオルを差し出した。春斗は礼を言い、それで自分の体を拭き始める。
その様子を見ながらバロンが言った。
「……夢のこと、話してくれないか?」
「え?」
「ただの寝汗じゃないだろう?」
「ッ……!」
鋭くも優しいアメジストの瞳に見つめられ、春斗は言葉を失う。
「……すごく変な夢だったんです。車のブレーキ音がして、強い衝撃があって……血だらけの自分を、なぜか上から見てて……」
言いながら、手が震える。バロンはそっと春斗の隣に腰を下ろし、その肩に手を置いた。
「もういい、すまない。無理やり話させてしまったな……」
「いえ、大丈夫です……少しすれば、この動悸も治まると思うので……」
「春斗、どんな場所から来たとしてもお前はちゃんと今ここで生きている」
「……」
「それは俺が保証する」
その言葉に、春斗の胸の奥がじんわりと温かくなった。バロンの手のひらから伝わる体温が、冷えた心に染み込んでいく。
「……ありがとう、バロンさん」
春斗はそっと彼の肩に寄りかかった。バロンは一瞬驚いたようだったが、すぐに穏やかな表情を浮かべて、優しくその肩を抱いた。
バロンが静かに部屋を出ていったあと、春斗は再びベッドに身を沈めた。
彼の残していった体温と、優しい言葉が胸の奥にじんわりと残っていて、不思議と心が落ち着いていく。
やがて瞼が自然と閉じられ、春斗は温かくも穏やかな夢の中へとゆっくりと沈んでいった。
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