魔王様に溺愛されています!

うんとこどっこいしょ

文字の大きさ
10 / 19

第三話 マフラーに込めた想い

しおりを挟む
 グレイと出会ってから数日が経った。
 あの後、魔王城の中庭や回廊で偶然出会うことが増えた。最初は本当に偶然だと思っていたが、回数が増えるにつれて、春斗はある疑念を抱き始める。

(……あれ、これもしかして……偶然じゃない?)

 今日もまた、春斗が書斎に向かって廊下を歩いていると──

「……春斗」

 不意に名前を呼ばれて、春斗はビクリと肩を跳ねさせた。背後には、まるで空気の流れが変わったような気配。そして、聞き覚えのある声。

「グレイさん……!びっくりした。急に出てこないでくださいよ~、心臓に悪い」

「……悪い。待っていた」

「え、待ってたんですか? 俺のこと?」

「ああ」

 真顔で即答されて、春斗は一瞬言葉を失う。

(ちょっと待って、これって……え? どういうこと?)

 グレイは、淡々とした顔のまま、無言で手にしていたものを差し出した。

「……これを、君に」

 差し出されたのは、薄い布。よく見ると、手編みのマフラーだった。氷のような白銀の糸が丁寧に編まれている。

「これ……グレイさんが?」

「……手が冷たいから、糸が張って……少し、歪だが」

「いや、すごいですよ!こんな細かい作業を……でも、どうして?」

 春斗が尋ねると、グレイは少し目を逸らしてから答えた。

「……この前、寒そうにしていたから。……君が、震えたのを見て……嫌だった」

 その一言に、春斗の胸がじんわりと熱くなる。

 寒さに気づいてくれていたこと。自分のせいでそうさせたことを、気にしていたこと。言葉が少ない彼なりの気遣いに、春斗は自然と笑みを浮かべた。

 (これを俺に渡したくて何回も声をかけてくれてたのか……)

 春斗はグレイの気持ちを考えると胸がほくほくと温かくなった。

「ありがとう、グレイさん。すっごく嬉しい。今度からこれ巻いて話しますね。──これなら、あなたにもっと近づけそうだし」

 その言葉に、グレイの瞳が大きく揺れた。そして、すぐに目を伏せてしまったが、その頬がほんのり赤く染まっていたことに、春斗はちゃんと気づいていた。

「早速巻いてみますね!」

 春斗は嬉しそうに、グレイからもらったマフラーを巻いた。

「どう?似合ってます?」

 ふいにそう言って顔を上げると、グレイは少し目を丸くして──そして、うっすらと微笑んだ。

「……ああ」

「よかった……じゃあ、これ巻いて、今度はもっと寒いとこでも平気かもですね」

 春斗が軽く冗談を言ったそのとき──

「……春斗?」

 背後で聞き慣れた、優しく低い声がした。
 振り返ると、そこにはバロンが立っていた。書類を抱えたままの姿で、偶然この場所を通りかかったようだった。

「あっ、バロンさん!」

 春斗が嬉しそうに手を振ると、バロンはゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。その瞳は、穏やかだけれどマフラーへと向ける視線は少し冷ややかだった。

「そのマフラー……」

「えへへ、グレイさんがくれたんです。俺、寒がりだって気にしてくれて」

 春斗が無邪気に話すのを見守りながらも、バロンの表情にはわずかな変化があった。微笑んだまま、ほんの少しだけ──目元が寂しそうに揺れる。

「そうだったのか。春斗のことを考えてくれてありがとう、グレイ」

「……」

 グレイが視線を逸らす。春斗はというと、二人の空気に少しだけ気まずさを感じながらも、話題を変えようと口を開いた。

「あ、バロンさんも今お仕事中ですか?偶然でも会えて嬉しい」

 その一言に、バロンの表情がやわらぐ。

「ああ、たまたま通りかかっただけだが、春斗の顔が見られてよかったよ」

 バロンの優しい声に、春斗は胸がぽっと熱くなるのを感じた。

 そんな春斗の様子を、グレイは無言で見つめていた。
(……彼に、笑いかけるときの表情が……違う)
 冷たい瞳の奥で、かすかに揺れた感情。  それは、自分にはないものを見たような、苦い寂しさだった。

「……では、俺はこれで」

 グレイがさっさとその場を離れようとしたとき──

「グレイさん、また話しましょうね!」

 春斗のその言葉に、彼は立ち止まり、振り返らずに一言だけ答えた。

「……ああ」

 そしてその背に、バロンはそっと視線を向けていた。春斗には見せない、静かな真剣な眼差し。その瞳は独占欲や嫉妬でゆらゆらと揺れていた。

 二人きりになった廊下で、春斗がふと呟く。

「なんか不思議ですね、グレイさんって、冷たいようで優しい。でも、バロンさんといるときの安心感とはちょっと違ってて」

 バロンは春斗の言葉を聞きながら、穏やかな微笑みを浮かべた。

「春斗がそう思ってくれるなら、それでいい。でも……一つだけ」

「え?」

「寒いときはちゃんと俺の傍にも来ること」

「は、はい……」

 バロンの言葉に、春斗の心臓が一気に跳ね上がった。カァッと顔に熱が集まる。
 そのあと、バロンは何事もなかったように歩き出し春斗を先導する。
 春斗は頬を赤くしながら、背中に向かってぽつりと呟いた。

「ずるいな……バロンさん、いつもそういうこと言うんだから……」

 氷のようなマフラーのぬくもりと、バロンの言葉の優しさと独占欲。
 どちらも違うけれど、どちらも今の春斗にはかけがえのない温もりだった。
 廊下に響く二人の足音だけが、静かにその余韻を包んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

葉空
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

処理中です...