ツイてない僕が魔王に拾われて、なぜか溺愛されています

うんとこどっこいしょ

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3 逃げられない

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 魔王城はそれはもう広かった。
 高い天井。赤い絨毯。壁には怪しげな絵画や鎧。窓の外には暗い森が広がっている。ずっと見ていると気味が悪くて、アルトは先を歩くセルディアの背中を追いかけた。

「あ、あの、さっきからすれ違う魔族たちが、こっちを見ている気が……」
「俺が人間を連れているのが珍しいんだろう。……気になるか?」
「あ、いえ、あの……はい、正直言うと怖すぎます……」
「わかった」

 セルディアはそう言うと指をパチンと鳴らした。すると魔族たちはアルトに興味を無くして持ち場に戻っていく。

 一体何が起きたんだ?とアルトが首を傾げる。

「しばらくの間、アルトの属性を魔族に変えた」
「魔族に……?え、僕いま悪魔なの?」

 訳が分からないとアルトが混乱していると、セルディアは先を歩いて行ってしまう。するとチリっと首に付けられたチョーカーが痛み、アルトは慌ててセルディアの後を追いかけた。

 やがてセルディアはある扉の前で止まった。

「ここだ」

 ガチャ。
 扉が開く。

「……え?」

 アルトは目を丸くした。
 そこは普通の部屋だった。ベッド。机。本棚。暖炉。窓。
 想像していたよりもずっと立派だ。

「え、え?牢屋じゃないんですか?」
「誰が牢屋と言った」
「だって首輪……」
「アルトが逃げるからだろう。逃げないと誓えばそれは外してやろう」
「うぐ……」

 アルトはぐぬぬと唸る。内心、どこかで逃げるチャンスを狙っていたからだ。

「ほら入れ」

 背中を押され、アルトは部屋へ入った。
 ベッドに触る。

「ふわふわ……」

 こんなベッドを使っていいだなんて。
(僕の宿屋のベッドよりいい……おっと、いけないいけない、誘惑に負けるな!僕!)

 と、そのとき、
 ぐぅぅぅぅ……
 盛大に腹が鳴った。
 アルトは顔を真っ赤にしてうつむいた。

「……」

 セルディアが「何の音だ?」とアルトを見ている。

「すみません!!」
「腹が減っているのか」
「昨日から何も食べてなくて……」

 勇者パーティーに連れて行かれてから、緊張と困惑でまともに食事ができていなかったのだ。
 セルディアは扉の外に向かって言った。

「食事を持ってこい」

 すぐにメイドが現れた。黒い尻尾がゆらゆら揺れている可愛らしい女性だ。

「人間用の料理だ」
「はい、かしこまりました」

 彼女が部屋を出ていくとアルトは恐る恐る聞いた。

「……毒とか入ってませんよね?」
「当たり前だ、アルトに死なれたら困るからな」
「……よかった」

 少しして料理が運ばれてきた。
 テーブルの上に並ぶ皿。
 肉料理、スープ、パン、果物。

「すご……!」

 アルトの目が輝いた。
 低賃金のアルトにとって肉料理は久しぶりだったのだ。

「どうした?食べないのか?」
「いただきます!!」

 アルトは全力で食べ始めた。
 もぐもぐもぐ。

「うまっ!!」

 涙が出そうになるほど美味しい。
 夢中で食べ続けていると、セルディアは椅子に座り、それを眺めていた。

「アルト」
「はい?」
「よく噛んで食べるんだ」
「は、はひ……!」

 何故か食べ方を注意されながら、アルトは料理を完食した。

「はぁ……生き返った……」

 椅子にもたれたその瞬間。
 バキッ!

「うわあ!?」

 突然椅子の脚が折れてアルトは後ろへひっくり返った。

「いだっ!!」

 床に転がる。
 静寂が訪れ、セルディアが肩を震わせた。

「……ふ、ははははは!」

 セルディアの笑い声が響き渡った。
 城中に響きそうなほどの笑い声だった。
 アルトは床で赤くなる。

「わ、笑わないでください!!」
「いや……くく……本当に面白い奴だ」
「面白くないです!!」

 アルトは恥ずかしさと痛みで顔を真っ赤にさせた。
 セルディアは一通り笑ったあとで「やはりお前を選んで正解だった」と言い残して、部屋を出ていこうとする。
 その背中に、アルトが慌てて言った。

「ま、待ってください!」
「なんだ」
「……僕、本当に魔法も戦うこともできません!」
「知っている」
「逃げようとも思ってません!」
「それは嘘だな」
「うっ」

 バレたか……とアルトが黙る。
 セルディアは口角を上げた。

「安心しろ」
「え?」
「お前に酷いことはしない」

 そう言ってセルディアは今度こそ出て行った。
 静かになった部屋で、アルトはぽつりと呟いた。

「なんで僕なんだろ……」

 そしてベッドに倒れ込む。
 (あ~、もふもふで気持ちいい……じゃない!まさか僕が魔王城に住むことになるなんて……)

 少し前まで想像もしなかった人生だ。
 その時。
 コンコン。
 扉がノックされた。

「はい?」

 扉が開く。
 そこにいたのは、さっきのメイドだった。

「魔王様の命令です」
「え?」
「明日から城の仕事を手伝ってもらいます」
「……え?」
「まずは魔獣の餌やりから」
「魔獣!?!?!?」

 アルトの悲鳴が部屋に響いた。
 ──魔王城生活、初日から波乱の予感だった。
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