ツイてない僕が魔王に拾われて、なぜか溺愛されています

うんとこどっこいしょ

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「うわああああああああああああああ!!」

 暗く長い縦穴の中に、アルトの悲鳴がこだまする。
(なんで床に穴が開くんだよおおおおお!!)
 ガシャン!!
 落下途中、体が鎖にぶつかり、さらに壁に激突する。

「いだっ!?」

 そして、バシャッ!!
 最後は水たまりに顔から突っ込んだ。

「ぶふっ……げほっ……げほっ!」

 顔を上げると、冷たい水が髪からぽたぽたと滴り落ちる。
 どうやら底に落ちたらしい。

「いたた……」

 体中をさすりながら、アルトはよろよろと立ち上がった。
 途中で鎖に当たったおかげで落下の勢いが弱まり、どうにか命は助かったようだ。

「どこだ……ここ……」

 周囲を見回す。
 そこは薄暗い石造りの通路だった。
 壁には苔が生え、空気はひんやりと湿っている。
 床や壁には、古びた魔法陣がところどころに刻まれていた。

(ここ……絶対ヤバい場所だよね……)

 アルトは恐る恐る歩き出す。
 一歩。
 二歩。
 三歩目で石に躓き盛大に転んだ。

「あでっ、うぅ……ツイてなさすぎる……」

 立ち上がろうとしたその拍子に床の魔法陣に手が触れる。そのとき、
 ──カッ!!
 青い光が走った。
 次の瞬間。
 ゴゴゴゴゴ……!!
 通路の奥にあった巨大な鉄の扉が、重い音を立ててゆっくりと開いた。
 アルトはその場で固まる。

「……え?」

 扉の奥から、低い唸り声が聞こえてきた。
 ズシン。
 ズシン。
 重たい足音が近づいてくる。

「ッ……!!」

 姿を現したのは、三メートルはありそうな巨大な魔物だった。
 赤く光る目。
 剥き出しの鋭い牙。
 そして、体中に巻きつけられた無数の鎖。
 まるで封じられていた怪物のようだった。

「えっと……ごめんなさい、僕……」

 魔物と目が合う。

「すみませんでしたーーーー!!」

 アルトは全力で逃げた。
(なんでいま封印が解けるんだよ!!)
 ドッドッドッ!!
 背後から巨大な足音が迫る。
 振り返ったら最後のような気がして、アルトはとにかく無我夢中で廊下を駆け抜けた。
 そして曲がり角を曲がった瞬間、

「はぶッ!!?」

 誰かにぶつかった。

「うぐ」

 勢いのまま、アルトはその相手にしがみつく。
 恐る恐る顔を上げると、そこには魔王セルディアが立っていた。

「慌ただしい奴だな」

 呆れたような声。
 しかし、その目はどこか面白そうに細められている。
 アルトは涙目で叫んだ。

「た、助けてください!!なんか出ました!!」
「なんか?」

 セルディアが怪訝そうに眉を上げた、その時。
 アルトの背後から魔物が飛び出してきた。

「おや、地下三層の封印魔獣がどうしてここに?」
「封印魔獣!?!?」
「よく解いたな」
「僕じゃないです!!」

 魔物が大きく腕を振り上げる。
 ──パチン。
 セルディアが指を鳴らした途端、魔物はその場で凍りついた。

「すご……!!」

 怪物は氷像のように固まり、微動だにしない。

(かっこいい!!)
 アルトが内心で感動していると、

「おい」
「ひゃい!」

 アルトは思わず背筋を伸ばす。

「封印を破るとは……お前、本当は魔法使いだな?」
「ち、ちが! 本当に僕は何もしてません!」
「……ふむ」

 セルディアは少し考え込む。
 そして、ぽつりと言った。

「やはり面白いな」
「え?」
「この魔王を前にして嘘をつくとも思えん」
「そうです!僕はただの一般人!何も面白い事なんてありません!だからその……僕を街に帰してください!」
「嫌だ」
「なんでッ!!!」

 アルトはがっくりと膝をついた。

「帰りたい……うぅ……」

 セルディアは口角を上げる。

「泣いても無駄だ」
「うぅ、なんで僕なんですか!?」

 涙の訴えに魔王セルディアは小さなため息を吐いた。

「ここは酷く退屈なんだ。それにもう部屋も用意させた」
「はやっ!!」

 アルトはじりじりと後退る。
 改めて見ると、体格差は明らかだった。
 背の高く体格の良いセルディアに対して、アルトはかなり小柄だ。
 アルトは怯えながら壁に背中を押し付けた。

「ほう……」

 セルディアがアルトを見下ろす。

「貴様……なかなか可愛い顔をしているな」
「っ!!」

 顎をくいっと持ち上げられる。
 整った顔が、すぐ目の前まで近づいてくる。
 アルトは居心地の悪さに視線を泳がせた。
(ち、近い……!)
 嫌な予感がして、慌てて手を突っぱねる。

「ぼ、僕は男です!!」
「見れば分かる」
「ならっ!」

 セルディアは「よし決めたぞ」とアルトの話を聞かない。

「お前は今日から俺のものだ」
「ッ!?」

 放心するアルトの首にセルディアの手が触れる。
 ポウッ、と紫色の光が浮かび上がった。
 次の瞬間、アルトの首には黒いチョーカーがはめられていた。

「え、え? なに?」

 首元を触る。

「……首輪!?」

 アルトは慌ててそれを引っ張った。

「取れない!!」

 黒いチョーカーはぴったりと首に張り付いていて、びくともしない。

「な、なんですかこれ!?」

 セルディアは涼しい顔で答えた。

「所有物の証だ」
「所有物!?」
「この城から逃げられないようにするためのものだ」
「こんなの完全に首輪じゃないですか!!」

 アルトは半泣きで訴える。

「俺は犬じゃないです!!」
「犬より騒がしいな」
「ひどい!!」

 セルディアはくすっと笑った。
 その瞬間、アルトは気づく。
(……あれ、魔王ってこんな風に笑うんだ)
 勝手に怖い存在だと思っていたが、思っていたより人間っぽい。……いや、だからと言って油断しちゃダメだ!!

「と、とにかくこれを外してください!」
「嫌だ」
「っ!」

 アルトが抗議しようとした、そのとき。
 奥の通路から慌ただしい足音が聞こえてきた。

「魔王様!!」

 現れたのは、角の生えた兵士の魔族だった。

「地下三層の封印魔獣が解放されたと──」

 そこまで言って、兵士は固まった。
 凍りついた魔獣。
 そして、魔王に首輪をつけられている人間。

「これはいったい……」

 兵士の顔がだんだん引きつっていく。
 セルディアは平然と言った。

「拾った」
「拾った!?」

 アルトも兵士も同時に叫んだ。

「床に穴が開いて落ちてきたんだ」
「落ちてきた!?」
「しかも封印魔獣まで解いた」
「だから僕じゃないです!!」

 アルトは必死に弁解する。
 兵士は困惑しながらセルディアを見た。

「飼うことにした」
「飼う!?」

 アルトは絶望した。

「僕の人生終わった……」

 セルディアはその様子を面白そうに眺めていた。

「貴様、名前は?」
「ア、アルトです……」
「アルトか」

 セルディアは満足そうに頷いた。

「よし、アルト。貴様は今日から魔王城の住人だ」
「そ、そんな勝手に!!」
「部屋は用意してあると言ったろう?」
 
 セルディアはくるりと踵を返す。

「来い」
「え」
「ついてこい、アルト」

 その声には逆らえない力があった。
 アルトは恐る恐る一歩踏み出す。
 すると、チカッと首のチョーカーが淡く光った。

「うわっ!?」
「契約の鎖だ」

 セルディアは振り返らず言う。

「離れすぎると痛いぞ」
「ひっ!痛いのは嫌だ!」
「ならば早く来い」
「っ……ああもう!!なんで僕ばっかりツイていないんだーーー!!」

 アルトの叫び声は地下通路に響いた。
 こうして、人間アルトは魔王城で飼われることになったのだった。
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