7 / 8
第六章 執事と休日
しおりを挟む
第13話【溢れるおもい】
晩餐会から一夜明けた朝、フィリップはいつもよりも少し遅めに目を覚ました。
「ん……」
──夢を見ていた。ノアに手を取られて、唇が近づいて……でも、そこで目が覚めた。
「はは、朝から何を考えてるんだ、僕は……」
寝癖のついた髪をかき乱しながらベッドを降りると、扉の向こうから「失礼します」とノアの声がしてフィリップが返事をする前に扉が開かれた。
「おはようございます、坊っちゃん。お寝坊ですね」
「もうちょっと寝たいところだけど……無理だよね」
「ええ、残念ながら」
昨夜の馬車での会話が、どこか二人の距離をほんの少しだけ縮めたような気がして、フィリップの胸は妙に落ち着かなかった。それなのにノアはいつも通り。淡々とした口調で話を進めていく。
そんな彼に少し寂しくなりながら、フィリップは朝の支度を始めた。
その日の午後、屋敷の図書室にこもっていたフィリップの元へ、ノアがそっと紅茶を運んできた。
「今日はご予定がないので、お好きにお過ごしください」
「ありがとう……あ、ノア。ちょっと、こっちに来て」
「はい」
フィリップは空いている隣の椅子をぽんと叩いた。ノアは少しだけ躊躇ったが「失礼します」と腰を下ろした。
「……あのさ、昨夜のことだけど」
「昨夜、ですか?」
「願ってもいいかって言っただろ?僕、あの言葉……嬉しかったんだ」
ノアは何も言わずフィリップを見つめる。
「それで、もし……もし、だけどさ、今後の話、真剣に考えてくれるなら……」
「坊っちゃん」
フィリップの言葉をノアが遮った。
「私はあなたを見守る立場です。感情を持ち込むことが許されるなら、もうずっと前から、あなたに触れていた……」
「ノア……」
フィリップはノアの手にそっと手を重ねた。手袋越しでも彼の温もりは伝わってきて、フィリップは頬を赤く染めながら微笑んだ。
「坊っちゃん、これ以上は……」
「構わないよ」
「しかし、」
その瞬間、フィリップはノアの唇に唇を押し当てた。
「僕は、ノアだけが大好き」
その告白を聞いたノアは思わずフィリップの体を抱き寄せた。執事という身でありながら、仕える主に想いを寄せるなどもってのほか……しかしもう止めることはできなかった──。
第14話【執事の休日】
その日は珍しく、ノアが半日の休暇を与えられていた。
「え!ノアが休み……!?」
フィリップは朝食の席で目を丸くした。
「はい。執事長からの命令でして。たまには骨休めをしろとのことです」
ノアは相変わらず淡々と応じたが、どこかいつもよりリラックスしているように見えた。
「じゃあ、今日は僕がノアにお茶を淹れてあげるよ」
「坊っちゃんが?」
「なにその反応。まさかできないと思ってる?」
「いえ、そんなことは。ではお言葉に甘えて」
軽口を交わしながらフィリップはアフタヌーンティーの準備をし始めた。
庭のテラスに並べられたティーセット。若干傾いたカップのミルクはご愛嬌。
「どうぞ、ノア。日頃の感謝をこめて、召し上がれ」
「ありがとうございます。それでは、いただきます」
ノアがカップに口をつける。静かに目を閉じ──そして、
「ふむ……思っていたより、ずっと美味しいです」
「思っていたよりって……いったいどんな風に思ってたんだ……」
フィリップがジト目でノアを見やる。
「やればできるんだよ、僕は」と誇らしげに胸を張るフィリップの姿にノアの目尻が心なしか下がった。
「そのようですね、この調子で苦手な乗馬の方も頑張っていただきたいものです」
「ゔ……それは、まあ、追々ね」
「そうですか」
久々の休日。ノアはティーカップを片手にフィリップとの会話を楽しんだ。
晩餐会から一夜明けた朝、フィリップはいつもよりも少し遅めに目を覚ました。
「ん……」
──夢を見ていた。ノアに手を取られて、唇が近づいて……でも、そこで目が覚めた。
「はは、朝から何を考えてるんだ、僕は……」
寝癖のついた髪をかき乱しながらベッドを降りると、扉の向こうから「失礼します」とノアの声がしてフィリップが返事をする前に扉が開かれた。
「おはようございます、坊っちゃん。お寝坊ですね」
「もうちょっと寝たいところだけど……無理だよね」
「ええ、残念ながら」
昨夜の馬車での会話が、どこか二人の距離をほんの少しだけ縮めたような気がして、フィリップの胸は妙に落ち着かなかった。それなのにノアはいつも通り。淡々とした口調で話を進めていく。
そんな彼に少し寂しくなりながら、フィリップは朝の支度を始めた。
その日の午後、屋敷の図書室にこもっていたフィリップの元へ、ノアがそっと紅茶を運んできた。
「今日はご予定がないので、お好きにお過ごしください」
「ありがとう……あ、ノア。ちょっと、こっちに来て」
「はい」
フィリップは空いている隣の椅子をぽんと叩いた。ノアは少しだけ躊躇ったが「失礼します」と腰を下ろした。
「……あのさ、昨夜のことだけど」
「昨夜、ですか?」
「願ってもいいかって言っただろ?僕、あの言葉……嬉しかったんだ」
ノアは何も言わずフィリップを見つめる。
「それで、もし……もし、だけどさ、今後の話、真剣に考えてくれるなら……」
「坊っちゃん」
フィリップの言葉をノアが遮った。
「私はあなたを見守る立場です。感情を持ち込むことが許されるなら、もうずっと前から、あなたに触れていた……」
「ノア……」
フィリップはノアの手にそっと手を重ねた。手袋越しでも彼の温もりは伝わってきて、フィリップは頬を赤く染めながら微笑んだ。
「坊っちゃん、これ以上は……」
「構わないよ」
「しかし、」
その瞬間、フィリップはノアの唇に唇を押し当てた。
「僕は、ノアだけが大好き」
その告白を聞いたノアは思わずフィリップの体を抱き寄せた。執事という身でありながら、仕える主に想いを寄せるなどもってのほか……しかしもう止めることはできなかった──。
第14話【執事の休日】
その日は珍しく、ノアが半日の休暇を与えられていた。
「え!ノアが休み……!?」
フィリップは朝食の席で目を丸くした。
「はい。執事長からの命令でして。たまには骨休めをしろとのことです」
ノアは相変わらず淡々と応じたが、どこかいつもよりリラックスしているように見えた。
「じゃあ、今日は僕がノアにお茶を淹れてあげるよ」
「坊っちゃんが?」
「なにその反応。まさかできないと思ってる?」
「いえ、そんなことは。ではお言葉に甘えて」
軽口を交わしながらフィリップはアフタヌーンティーの準備をし始めた。
庭のテラスに並べられたティーセット。若干傾いたカップのミルクはご愛嬌。
「どうぞ、ノア。日頃の感謝をこめて、召し上がれ」
「ありがとうございます。それでは、いただきます」
ノアがカップに口をつける。静かに目を閉じ──そして、
「ふむ……思っていたより、ずっと美味しいです」
「思っていたよりって……いったいどんな風に思ってたんだ……」
フィリップがジト目でノアを見やる。
「やればできるんだよ、僕は」と誇らしげに胸を張るフィリップの姿にノアの目尻が心なしか下がった。
「そのようですね、この調子で苦手な乗馬の方も頑張っていただきたいものです」
「ゔ……それは、まあ、追々ね」
「そうですか」
久々の休日。ノアはティーカップを片手にフィリップとの会話を楽しんだ。
13
あなたにおすすめの小説
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡
濃子
BL
ぼくの初恋はいつまでたっても終わらないーー。
瀬戸実律(みのり)、大学1年生の冬……。ぼくにはずっと恋をしているひとがいる。そのひとは、生まれたときから家が隣りで、家族ぐるみの付き合いをしてきた4つ年上の成瀬景(けい)君。
景君や家族を失望させたくないから、ぼくの気持ちは隠しておくって決めている……。
でも、ある日、ぼくの気持ちが景君の弟の光(ひかる)にバレてしまって、黙っている代わりに、光がある条件をだしてきたんだーー。
※※✖✖✖には何が入るのかーー?季節に合うようなしっとりしたお話が書きたかったのですが、どうでしょうか?感想をいただけたら、超うれしいです。
※挿絵にAI画像を使用していますが、あくまでイメージです。
炎の精霊王の愛に満ちて
陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。
悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。
ミヤは答えた。「俺を、愛して」
小説家になろうにも掲載中です。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる