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第二章

第15話 相応しき力

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 私は気がつくと、白ろい霧が全体を立ち込めた真っ白の世界にいた。
 もしかして竜の聖域とも思ったが足元には浅瀬が流れており、竜の聖域とは雰囲気が違う気がした。

 前方から水の足音と共に人影が近寄ってくる。

 「ルヴィーさんじゃないの?だって顔も声も一緒……」
 目の前には瞳の赤いルヴィーさんと瓜二つの人がいた。
 戸惑う私に彼は、とある秘密の事情を私に話しはじめた。

 「体は確かに過去にルヴィーと呼ばれた者のものだ。
 しかし奴は竜王様から受けた罰に耐え切ることが出来ずに、精神を崩壊させてしまった。
 そこで竜王様が新たにこの身体に人格を移植したのだ。それがこの私だ」
 
 「それじゃールヴィーさんにはもう会えないの?」

 「それは私にも分からん。
 それよりここなら誰の邪魔も入らん。今一度試させてもらおうか?お前がこの事件を解決させるに本当に相応しい者なのか」
 アザエルさんが腰に収めた鞘から剣を抜いた。

 「お前も好きな得物を言え、私が生成してやる」

 「では赤い棍を」

 「棍か、どこまでも殺さずか。まぁそれもよかろう」
 アザエルさんが手に力を込めると魔法のように稲妻とともに一瞬で手のひらから棍を出現させた。
 アザエルさんが投げ入れた赤い棍を私は受け取った。

 「さぁかかってこい」

 「行きます!!」
 その掛け声と共に私はアザエルさんに助走をつけ振りかぶり、棍による連続の突きを繰り出してゆく。

 初めこそ回避に専念していたアザエルさんだったが、隙を見計らい棍の攻撃をいなして間合いを急激に詰めてきた。

 これではウィリーさんと戦った時の二の舞いだ。私は大きく足を上げ、剣の攻撃を弾き返しその隙に棍での連打をアザエルさんに浴びせた。
 膝をつくアザエルさんに私は一旦に距離をとり相手の出方を伺った。

 確かに急所に入ったはずだ。
 私の靴の甲の先は革が剥がれ中から厚めの鉄板が剥き出しになっていた。
 この鉄板のおかげでアザエルさんの一撃を弾くことができた。

 「ふふふふ、得物の選択を間違えなければあそこで決着がついてたものを。そんな攻撃では私にはきかんな」
 アザエルが薄ら笑いを浮かべ立ち上がった。

 きいてないはずはないと思うけど、相手は人じゃないことを忘れちゃいけない。
 
 「次は私から行くぞ、受け取れ」
 アザエルさんのスピードは早かった。
 一瞬でアザエルさんの得物も間合いに入り、私は防戦一方な展開を強要された。

 相手のスタミナ切れを待ったが、先にスタミナを失ってきたのはアザエルさんではなく、防御をしてる私の方だった。
 腕や脚を剣がかすりどんどん傷をつくり、私は追い詰められていった。

 私はこのままではスタミナが持たないと思い、捨て身の攻撃に出た。
 アザエルさんが太ももを狙った所で、敢えて攻撃を受けたのだ。
 太ももに剣が突き刺さり血が溢れ出した。
 しかしこれで相手の剣は封じた。後はこの渾身の一撃をくらわすのみ。私はアザエルさんの頭を狙い棍を振り下ろした、が。

 なんとアザエルさんは空いた左手で私の棍の一撃を受け止め、その腕に力を込めると私の得物を真っ二つに破壊してしまった。
 そしてみぞおちに重い拳を受け、私はうつ伏せに倒れた。

 「勝負あったな」

 「これで私はお役御免ですね」
 私は自分の不甲斐なさに悔しさから涙を浮かべると、アザエルさんが私には告げた。

 「なにも勝敗でことを決めるとは私は言ってないぞ。確かにお前は私に負けた。だが扱う得物が違えば、私は2度お前に殺されていたかもしれん。棍の一撃を止められたのも刃がついていなかったからだ」

 「ならアザエルさんは私に殺さずをやめ、相手に刃を向けろというんですか?」

 「それはお前が選ぶといい、私は竜の力をお前に授けよう。竜にならなくともこの力を扱える力を」
 アザエルさんの目をみると赤い瞳が発光して光を出しているように見えた。


 すると気付くと私は元いた洞窟の入口にいた。ジョセとリップが心配した表情を浮かべ駆け寄ってくる。

 そしてアザエルさんは白い竜の姿に戻っていた。

 「私の授けた力を使えば、人の姿であろうとも、竜のずば抜けた身体能力得る事ができる」

 「あのどのように力を使えばいいんですか?」

 「それは時が来れば自ずと分かるはずだ」

 「そうですか、私どちらの村にも敵対してしまって、この先どうすればいいか自分でも分からないんです」

 「試練に希望を見出したいのであれば、ここからさらに北にあるマリエルという村に行ってみるといい。少しは道が開けるかもしれんぞ」
 そう言い残すとアザエルさんは空高く飛び立つとどこかへ行ってしまった。

 「あの竜結局なんだったんだ。敵なのか味方なのかあたしにはサッパリ分からん」
 ジョセがぽかんと口をあけ、嵐が過ぎ去ったかのように言った。

 「そんなの味方に決まってるでしょ。北にあるマリエル村だって、今からすぐに3人で行きましょ」 
 私の目は輝きを取り戻し心もすっかり晴れていた。

 「アサまずその前に飯だ。分かったか?腹が減ってはっていうだろ」
 私はジョセにあたまを軽く小突かれ、洞窟に入って昼食を頂くことにした。

 「分かったわ、あら卵美味しそうね」

 「さっきまでメソメソしてたのに調子のいいやつだ」
 そうはいうものの、私が元気を取り戻したことに内心ジョセは喜んでいた。

 「クークー」
 リップも大好きな食事とあって昼食は大はしゃぎだった。
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