アサの旅。竜の母親をさがして〜

アッシュ

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第二章

第25話　避難勧告

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　アーロイさんが破損部を体で抑え込むが隙間から水が溢れ出し、その水圧でさらに穴が広がってゆく。
　私も到着し二人掛かりで協力し、溢れる水をなんとか食い止めるため奮闘した。

　「まさかお前と力を合わせる日がこようとはな」
　アーロイさんがこの光景を不思議に思い呟いた。

　「でも人のために力を使うことも決して悪くないことでしょ」
　得意げに笑って返事を返すとアーロイさんは「そうだな」と初めて私に優しい顔をした。

　
　その頃リップ達は急いでマカの村を目指していた。

　「カイト私に触れたら殺すからな」
　ジョセはこんな時でも私の時とは違って、カイトにはつっけんどんな態度を取った。

　「このスペースのなさで無理言うなよな」
　カイトは困った様子だったが言いつけ通り、ジョセとは一定の距離を保ってリップに乗った。

　「カイト、避難指示はあたしがやるからな」

　「二人じゃ駄目なのか?」

　「顔見知りが言った方が信用してもらえるだろ、ただでさえ白い竜が後ろに控えてるんだ」
　ジョセの言う通り、マカの人がアザエルさんを見たら攻撃してきてもなんら不思議じゃない。
　ジョセもそれが分かってて自分が適任だと思ったのだ。

　「分かったジョセ、お前に任せるさ」
　カイトがそう言う杜リップの体は大きく揺れて、カイトは態勢を崩し前のめりに倒れると反射的にジョセの身体にしがみついてしまった。

　「触れるなっていったろこの変態野郎」
　ジョセは大きな声で叫びカイトの頬を引っ叩いた。

　「んなことよりマカが見えてきたぞ」
　カイトがヒリヒリする頬を手で抑えながら言った。

　「分かってる。リップ高度を下げろ」
　
　「ククーククー」
　リップはジョセの指示に従いマカの村を低空飛行で駆け抜けていく。
　
　住民達も竜の存在を目撃してざわめきはじめた。
　「なんだなんだ竜じゃねーか」

　ジョセは村人がパニックになる前に、腹の底から声を出し避難勧告を行った。
　「みんな白い竜はマカの味方だ。洪水が押し寄せてる、山の高台に逃げるんだ」　　

　村の外に出ていたミコットさんが聞き覚えのある声に駆けつけた。
　「おい、ジョセ何事だ?」

　「ミコット、ダムの水がこっちに迫ってきてるんだ。みんなをここから逃がすのを手伝ってくれ。」

　「分かった。村をまわって知らせる」
　ミコットさんは事の重大さを理解してすぐに行動に移して、村人に避難を呼びかけた。

　自宅にいたルード村長も流石に外の異変に気づき、外に出てみるとリップを目撃するなり、護衛の二人に矢を射るよう指示した。

　「ジョセ危ない」
　カイトが身を乗り出すしジョセを襲う矢を剣で防いだ。　

　「村長、今はアンタとやり合ってる暇はないんだ。下がれよ」
　ジョセは威嚇で爆竹付きのナイフを村長達の足元に投げ入れた。

　「竜をおいて立ち去るのだ。さぁお前ら撃て」
　するとジョセ達を庇うようにミコットさんが両手を広げ立ちはだかった。

　「村長いい加減にして下さい。ジョセさん達は私達のためにここまで来てくれんですぞ」

　「ミコット……」

　「村長も避難するんです」
　ミコットさんに強く言われ、半ば強引にミコットさんは村長を連れて山の高台に避難した。

　「ミコットの奴やるじゃねーか」
　ジョセはミコットさんのことを見直し、避難が遅れる住民を後押ししていった。

　ミコットさんの触れ込みもあってか、アザエルさんを見ても逃げる村人は居なかった。
　アザエルさんに乗ったジュエルさんが避難が困難な子供達を優先に、アザエルの背中に乗るように言って周った。
　「子供達は白い竜に乗って下さい」

　子供達が次々と乗り込む中、一人の女の子がアザエルを怖がり足がすくんでいるのにジュエルさんが気付いた。

　「あなたも早くお乗りなさい」

　「お姉ちゃん怖くない?」
　怯える女の子にジュエルさんは優しく言った。

　「平気よ、噛んだりしないから」
　すると女の子は勇気を振り絞りアザエルの背中に乗った。

　子供達が乗り込むと山の高台に向かってアザエルさんは飛び立った。

　その頃、私とアーロイさんは広がっていく穴から水が流れ込んでいき、これ以上抑えこむのは限界だった。

　「アサこれ以上は」
　アーロイさんが苦しい表情を浮かべて言った。

　「ジョセまだなの」
　水圧に耐えていると、遠くからリップの便りの声が聞こえてきた。
　それは避難が完了した合図だった。

　私は安心感から力が抜けると瞬く間に濁流の中へ押し流されてしまった。
　流れでる力に抵抗出来ずに溺れていると、空から黒竜が救いの手を差し伸べ、私を水の中から引き上げてくれた。

　「アサしっかりしろ。私達もマカに合流するぞ」

　「アーロイさんありがとう。行きましょう」
　私達は宙をかけて、マカの人たちが待つ山の高台へと翼を羽ばたかせた。

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