吹き抜けるは真紅の風

もちぷに

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第一章

戦う姫

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ミルディリアがイグニスの兵士になってからちょうど一ヶ月が経った。

「報告、特に進展なしっと」

自室で手紙を書いていたミルディリアは、それを自分のウォラーレの足に付けてお父様の元へ向かわせる。ウォラーレはあっという間に夜の闇に消えた。

あれから赤い目のモンスターは現れていない。
喜ぶべき事なのだが、何の進展も無いのにこのままイグニスに居ることの意味はあるのだろうか。

旅を始めて最初に訪れたソルムには数週間、次のアルボルには1ヶ月滞在した。そしてここイグニスに。

最初は兵士採用試験の為にモンスターを操っているのかと思ったが、なんて事はない。麻痺薬を短剣に塗り込んで生け捕りにしたそうだ。麻痺薬の強さを調整して、試験の時間に解けるように。ユークに詰めよったらあっさり教えてくれた。
イグニスで独自に開発された麻痺薬は、第三部隊隊長以上の人間しか持つ事を許されていない。

(人がモンスターを意のままに操るなんてできるわけないよね)

だが、ミルディリアの父ウェントゥスの国王は危惧していた。
────『赤い目のモンスターは人間が操っているのではないか』と。

(そんなのあるわけないと思うんですけどー)

────ゴンゴン!!

突然の荒々しいノック音にミルディリアの肩が跳ねる。この部屋に人が訪れて来たのは初めてのことだ。しかもこんな夜中に。
今日メイは怪我人の介護で城に泊まると言って不在だ。来客に心当たりもなく不審に思ったが、ここは城の敷地内。誰かしら知り合いだろう。

「はーい」(こんな夜更けに誰?)

─────カチャ、コン

扉を開けると何かが当たった。辺りを見回すが誰もいない。音がした足元を見ると赤い包み紙にくるまれた箱が置いてあった。そこに手紙がついている。

『兵士1ヶ月記念をお祝いしよう。材木小屋で待ってる』

「…誰だろう?」

思い当たる人と言えば…
兵士になる事を望んでいた国王様?
最近ますますまとわりついてくるユーク?
メイは仕事中だから…ダリア?
ミルディリアはとにかく向かってみることにした。

材木小屋は火葬炉がある広場の奥、木々に囲まれた場所にある。
辺りはすっかり真っ暗で人気ひとけのない材木小屋は薄気味悪い。

ガサッ…

背後から低木を掻き分ける音がした、と思った瞬間にミルディリアの口元に布が押し当てられた

「ふぐっっ!!ーーーーっ」

僅かに抵抗したが、すぐにぐったりと力が抜けミルディリアは男の腕に支えられた。

「ふはっはっ!簡単にいったな」

───パンッ!

男はミルディリアの右頬を平手打ちした。
軽い衝撃だがミルディリアの頬は赤く染まる。

「ちゃんと効いてるな。ふっふっ…」

男は意識のないミルディリアを小屋の中に放り投げ、後ろ手で乱暴に扉を閉めた。
そしてミルディリアを仰向けにすると、太股を撫で回し徐々にその手を上半身に這わせていく。

「ガキのくせになかなかいい体してやがる」

男は涎が出てもおかしくない程醜い顔を歪め薄気味悪く笑った。
そしてミルディリアの白くて細い首元に舌を這わせる────

「…もうげんかーーーーい!!!」
ドゴォッ!!

「ぐふっ!」

ミルディリアが男のみぞおちに渾身の蹴りを入れ、男は突然の衝撃になすがまま後退し壁に背中を打ち付けた。

「うううううううううー!!!!」
ミルディリアは立ち上がり首元と太股をごしごしと擦る。

「お前っ!意識…」

「どりゃぁぁぁ!!!」

ミルディリアの飛び蹴りが再び男のみぞおちに入る。

「ぐおっ!!」

男はみぞおちを抱えて背中を丸めた。
怯んでいる隙にミルディリアは材木を持ち、頭を目掛けて振り下ろした。
「これは正当防衛!!」

「このくっそ女!!」

男は頭にぶつかるぎりぎりの所で材木を受け止め、それを奪うとそのままミルディリアに振り上げてきた。
しかし素早さと体の小ささが売りのミルディリアは咄嗟に男の足元にしがみつく。

「必殺!ひざかっくん!!」
拳で膝裏を突き、不安定になった男の腕を鷲掴みにする
「薄毛全部抜いたろかーーー!!」

勢いよく背負い投げをぶちかました。
男の巨体が宙を舞いドォン!と地面に叩きつけられ砂埃が舞う。

「くそガキがぁっ!!」

残念ながら全く効いていなかったようで男は直ぐに立ち上がった。

─────ガタン!!

「そこまでだ!!」

薄暗い材木小屋に月明かりが差す。そのシルエットは…

「ヴェルサス様!!」


***

金髪短髪薄毛男はクロード様に縛り上げられ、ミルディリアは詳細の報告を求められた。
先にシャワーを浴びさせて欲しいと懇願するとヴェルサス様は快諾し、城内のシャワー室に案内してくれた。


───サアアアァァァ……

(気持ち悪いっ!気持ち悪いっ!!)
男に撫でられた部分と舐められた首元をゴシゴシと赤くなっても尚擦った。
─────そこまでは意識があった


***


ぼんやりとした微睡みの中、ミルディリアは暖かい手に触れた。

先程の金髪短髪薄毛男の嫌悪感が蘇る。

(う…ヴェルサス様が…来てくれたのは…夢だったの?

───嫌だ…あんな男に…好き勝手触られたくない…

…目を覚ませ…ミルディリア…

戦え…!!)

気力を振り絞って目を開けようとするが瞼が鉛のように重く、意識が朦朧とする。
微睡みの中で近付いてきた男の手を強く握った。

(この手を…捻って…腕を折って…やるんだ、から…)

重すぎる瞼をこじ開けると薄く光が見えた。そしてそこには真紅色が。
耳に入るのは低くて優しい声だった。

「もう大丈夫。心配ない」

(こ、くおう…さま…?
気持ち、悪いの…あいつの…感触が…残って)

国王様が助けに来てくれた。
もう大丈夫。心配ない。

金髪短髪薄毛男が撫でた太股を国王様が撫でた。泥を洗い流すかのように、薄毛男の感触が消えてゆく。

もっと。もっとして欲しい。

全部消して。

国王様の感触だけを残して────









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