吹き抜けるは真紅の風

もちぷに

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第一章

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辺りが暗くなってきた頃、四人はイグニスに着いた。

「ミア、カイル様の元へ報告に行こうか」

「…はい。ファイとダリアも来てくれる?」

「うん!いいよー」
「え…私も?」
ファイはにっこりと笑って了承してくれたが、ダリアはあまり無い事態に戸惑っている 。

「うん。いい?」

「う、うん。いいけど…」

ミルディリアの変化にダリアはきっと気付いているだろう。どうしたのかと顔色を伺う様子が感じ取れた。階段を上がるその一歩が重く、苦しい。この階段を上がりきれば目指す部屋はすぐそこ。途中で一度深呼吸をして隣を歩く人に声を掛けた。

「ねぇ、ダリア」

「うん?」

「私と…ずっと友達でいてくれる?」

「当たり前じゃん!どうしたの?」

馬鹿な事を聞いたなと思った。でもどうしても聞かずにはいられなかった。全てを話した後には聞く勇気が無いから。

(私って…ずるいな)

執務室に四人が入ると、国王様とクロード様は目を見開いた。当然の反応。いるはずのない四人がいるのだ。

ミルディリアは緊張の面持ちで口を開いた。

「記憶が戻りました」

「そうか!それは良かった!」

微笑む国王様を見ると泣きたくなった。
それと同時に心臓がどくんどくんと嫌な音を立てる。

この顔を見られるのは、これが最後かもしれない…

これから話す事に国王様は何て言うだろうか。

軽蔑するかもしれない。
嫌われるかもしれない。

もしかしたら二度と笑ってはくれないかもしれない。


だけど

護りたいんだ。


「国王様、お話したい事がございます。
防音の結界を張っていただけますか?」

「あ、ああ…どうした?」

ただならぬ雰囲気にカイルは防音の結界を張る。
その行動で空気が変わった事を感じる。
ミルディリアは下唇を噛んだ。

(嫌われたって…仕方ない……)

深呼吸をして

覚悟を決めた。

「私は………魔法が使えます」

「は?」

国王様を含め、そこにいる全員が困惑している。

ミルディリアは跪いた。

「隠していた事を申し訳なく思っております」

「ちょっと待て。魔法が使えるなら防音の結界を何故カイルに張らせた」

クロード様が理解できない、という顔でミルディリアを見下ろす。

「私の魔力はとても弱くて…
…いえ、そう思っていました。

つい最近気がついたのですが…
治癒や防御に特化したもののようで…
防音の結界や街を守るような大きな結界はは張れません」

「…あ…もしかしてさっき…モンスターから護ってくれたのって…」

ファイの声にミルディリアは視線を床に落としたまま頷いた。

「…最近気が付いたばかりで、まだ使いこなせているとは言えないのですが」

「私を助けてくれたのも…」
「あの時…!」

ヴェルサスとダリアが言い掛けた言葉をクロードが手をあげて止めた。

「何故今になってそんな話しを?」

「…私なりの見解ですが、国王様は何者かに狙われています」

クロードは腕組みをして、ミルディリアを訝しげに見た。

「待て待て。順を追って説明しろ。まずお前が魔法を使えるって証拠は?」

ミルディリアは目を瞑った。
その瞬間、締め切った部屋に風が吹いた。

「………!!!!」

皆が半信半疑だったのだろう。一様に驚いた顔をしている。
一応この程度の風ならミルディリアだって自在に出せるのだ。

「それで?マーレではこの事を隠して生きてきたわけじゃないよな?
魔法が使える癖にあんな辺境の村にいたわけがない」

クロード様の目が射抜くようにミルディリアに突き刺さる。見なくても分かる程、語気は冷たく尖っている。

「話せ。隠している事を全部」

ミルディリアは俯き、痛む胸に気付かない振りをした。

(もう…ここにはいられない………
皆を騙していたんだ。
私が傷つく資格なんて無い……)

こうなる事は分かっていたはず。
術者は国に仕えるのが義務のようなもの。
そうでなくても希少価値の高い存在だ。
どこに行ったとしても重宝され、優遇される。

たとえ姫じゃなかったとしても。
術者がマーレ程の小さな村で成人まで過ごすなんて有り得ない。

だけど…隠し通せるなら隠し通したかった。



ただ国王様の側にいたかったから



ミルディリアは深呼吸をしてゆっくりと口を開く

「………ここで名乗った名前は偽名です。


私の本当の名前は……




 

………ミルディリア・ラクストレーム」


痛い程の静寂にミルディリアは顔を上げる事ができなかった。


国王様が
どんな目で自分を見ているのか
知るのが怖かった。


(何故…泣きたくなるの………?

………そんな資格無いのに)

「ベルンハルド国王の命令により赤い目の謎を探る為、親友を助ける為に旅に出ました」

ミルディリアは視線を床に落としたまま続けた

「欺くつもりでいた訳ではございません…」

(情けない…ただの言い訳だ。
結果欺いていた事に変わりはないんだから…)

「今まで私が無意識に発動した魔法に赤い目が反応していたのではないかと思うのです。例えば───」

その時、急に部屋の外が騒がしくなった。

「続けろ」

クロードがミルディリアに先を促す

「恐らくヴェルサス様の腕を付けたのは私です。その時赤い目が私を狙ってきました。トレデキム様の時は防御の魔法を使った瞬間に────」

─────バァン!!!

突然開かれた扉。反射的に全員がそちらに向いた。
鍵は掛けたはず。
扉を蹴破って現れたのは

「レオ!!??」

ミルディリアは思いも寄らない人物に目を見開いた。
突然入って来た男はミルディリアを見ると
外に向けて怒鳴った

「アラン!!ここにいたぞ!!」

「ーーーっ!!レオ!待って!」

「帰るぞ」

『レオ』と呼ばれた男は抵抗するミルディリアを強引に肩に担ぎ上げた。

「待って!話しを聞いて!お願い!!」

じたばたと暴れるミルディリア
カイルは咄嗟に立ち上がって駆け寄ろうとした

「国王様!魔法を使わないで!あなたは狙われている!!イグニスも!!」

暴れ騒ぐミルディリアを無視してレオは出て行こうとする

「ミア!!」

追うカイルがレオに向けて剣を抜いた瞬間

─────ギイィィンッ!!!!!

レオを庇うように一本の剣がカイルの剣を止めた。
執務室にいた全員が攻撃態勢に入っていた。

「お兄様!やめて!!!!」
ミルディリアの声が扉の向こうから聞こえる。

カイルの剣を止めた男は不愉快を露わにして口を開いた。

「久し振りだな。
カイル・ウィルバーフォース」

ミルディリアが何か叫んでいるが、その声は聞き取れない程小さくなっていく。

同じ目線にいるこの男をカイルは知っていた。
カイルに似た体型、整った顔立ち、薄茶色の柔らかいウェーブがかかった髪

「アラン………ラクストレーム…」

アランは剣を下げる。
カイルもそれに合わせて剣を下げた。

「……何故お前がここに」

「大事な妹を迎えに来た。まさかウェントゥスの姫を兵士になんてしていないよな?」

睨むような問いかけにカイルは答えなかった。

「………」

「お前、妹に手ぇ出しちゃいねぇだろうな」

「ミア…ミルディリア姫と話しをさせろ」

「断る」

アランは剣を収める事なく執務室を出て行く
カイルは急いで後を追うが、執務室の外は大混乱だった。
兵士達が突然の大物登場にあわてふためき
カイルの姿を見ると指示を仰ごうと皆が駆け寄ってきた

「アラン!待て!!」

カイルは人だかりを掻き分けてアランの後を追う。

ようやく一階に降りると目に入ってきたのは…
レオと呼ばれていた男がミルディリアを抱き締めていた。

レオはカイルに気付くと鋭い眼差しで睨みつけた。

その目に殺気を込めて。

ミルディリアはそのまま馬車に押し込められるように姿を消し、レオが続いて乗り込む。


カイルは追う事ができなかった。

ただ、レオのエメラルドグリーンの髪色だけが胸に突き刺さった。












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