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夢
十九話
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暁が駆け寄った時には既にニノ池と事実上の部長である柚葉は話し合いを開始してしまっている。
「次の脚本って……ニノ池、次もやりたいって言ってなかったか?作家に目覚めたとか」
「そうなんですけど、一度ガラッと今までの演劇部になかった空気を出してくれそうな作家を見付けたんですって!!一回、副部長も読んでみてくれません?」
「まあ、そう言うなら読んでみるよ」
どこから、どのあたりから口を挟んだら良いかタイミングが掴めずにあわあわしている暁だったが、柚葉の方もニノ池の興奮気味な態度に前向きな態度を見せ始めているのを見て、思いきって口を挟んだ。
「あの、副部長、待ってくださいっ!?」
焦り過ぎたのかおかしな音階で声が解き放たれ、2年生の部員の中ではそれなりにこなしている暁としては、意図していない場面で声が裏返るのは恥ずかしくて仕方がなかった。
いや、今はそんな事を言っている場合ではない。
「あの……副部長すみません。ニノ池を真に受けないで欲しいです……」
「ええ?どうして……ん。尾根、それ」
目敏く柚葉が暁の手にあるファイルに気が付いた。女優志望の癖に感情を隠すのが下手な自分の性質を暁は憎んだ。それ、と差された瞬間自分でも信じられない程嫌そうなうんざりしたような、兎に角先輩に向けるべきではない感情を剥き出しにしてしまったのに、気が付いたからだ。
暁の内面の発露した不快感に気が付いていない訳でもないのに、ああと納得したように頷くと柚葉は暁に向き合ってくる。止めてくれ。
「それ?ニノ池が言っていた、尾根の知り合いが書いた小説」
「あっ。いや、あの!」
話が暁や葵が想像もしない方向に転がり出している。しかも規模が大きい。
「え~と、これは、その、知り合い、そう……知り合いなんですけど、知り合いというにも縁がないという人と、偶々偶然ちょっとした成り行きで」
なんとかしらばっくれる事は可能かとしどろもどろになりながら言葉を紡ぐも、数秒で暁は理解した。自分は、感情を隠すのだけではない、言い訳や嘘や誤魔化しも下手だ。要領が悪すぎる。
制服のブラウスがじっとりと汗で濡れていくような不快感と緊張が混じりあった儘、副部長の爽やかな笑顔にひきつり笑いで対抗する事数秒。暁はあっさり白旗を上げた。どのみちニノ池にはばれてるのだ。
「……はい。私のクラスメイトが書いた小説です」
「へえ……そんなやつがいるんだ。尾根のクラスに。文芸部かなんか?」
「いえ。帰宅部です」
多分。葵のクラブ活動事情など暁の知った事ではないが、なんとなく確信していた。アイツ絶対帰宅部だ。
ともあれここまで会話が進んでしまえば、もう次に言われる事も大体予想が付いている。にこりと人好きする笑顔を浮かべて柚葉は言った。
「それ、俺も読んでみたいんだけど無理かな。ニノ池がここまで押してくるなら、興味ある。尾根の方から書いた人に聞いてみてくれないか?」
「あの、でも。別にそんな仲良いって訳じゃなくって、本当に。偶々学校の帰りにばったり会って、話の流れでこうなっただけで」
このファイルを貸してくれた時の葵の無邪気とすら言えそうな表情を思い出す。
誤解ではあるが、自分の書いたものを……誰にも見せた事のない物を何故貸してくれた理由は、暁にはいまいちピンとこない。だけど、軽い気持ちでホイホイ貸してはいけない。そんか気がする。
暁が渋っていると、柚葉も難しいの?と残念そうな顔をするので申し訳ない気分になって苦しい。
「絶対駄目?」
「絶対、と、いうか……」
「ニノ池が、絶対自分が書くより面白い話作れる人だって言うから……俺も凄く興味あるんだけどなあ……」
そんなこちらの良心をぐさぐさと刺して抉るような事、言わないで欲しい。じゃあどうぞと言えない自分が辛い。
「ん。尾根、それ書いたの尾根のクラスの人って言ってたよな」
「あ、はい……」
「何て子?」
まさか、自分が直接交渉するとでも言うのだろうか。
それはそれで自分の不用心さが原因だとしても、葵の趣味を他人のさらしものにしたみたいで、何だか気分が良くない。
他人から手回しをされて、軽々と人の趣味を話してまわるような女だと思われる位なら直接、面と向かって話した方が幾らか気が楽に思う。
「あの、先輩。じゃあこれ返す時にちょっと話してみます。あっちの携帯番号もアドレスも知らないので……小説貸しても大丈夫?って聞いたら良いですか?」
「ダイレクトにうちの脚本書いてじゃ駄目なの?」
「いやそれは図々しいだろ」
横から口を挟んできたニノ池に柚葉が注意するのを聞き流しながら暁は胸中で項垂れた。何故、こんなことになってしまったんだ。
翌日、早めに家を出た暁はブラウスの薄さに寒気を覚えつつ、葵と初めて会話を交わした水路付近で葵を待ちわびていた。
「次の脚本って……ニノ池、次もやりたいって言ってなかったか?作家に目覚めたとか」
「そうなんですけど、一度ガラッと今までの演劇部になかった空気を出してくれそうな作家を見付けたんですって!!一回、副部長も読んでみてくれません?」
「まあ、そう言うなら読んでみるよ」
どこから、どのあたりから口を挟んだら良いかタイミングが掴めずにあわあわしている暁だったが、柚葉の方もニノ池の興奮気味な態度に前向きな態度を見せ始めているのを見て、思いきって口を挟んだ。
「あの、副部長、待ってくださいっ!?」
焦り過ぎたのかおかしな音階で声が解き放たれ、2年生の部員の中ではそれなりにこなしている暁としては、意図していない場面で声が裏返るのは恥ずかしくて仕方がなかった。
いや、今はそんな事を言っている場合ではない。
「あの……副部長すみません。ニノ池を真に受けないで欲しいです……」
「ええ?どうして……ん。尾根、それ」
目敏く柚葉が暁の手にあるファイルに気が付いた。女優志望の癖に感情を隠すのが下手な自分の性質を暁は憎んだ。それ、と差された瞬間自分でも信じられない程嫌そうなうんざりしたような、兎に角先輩に向けるべきではない感情を剥き出しにしてしまったのに、気が付いたからだ。
暁の内面の発露した不快感に気が付いていない訳でもないのに、ああと納得したように頷くと柚葉は暁に向き合ってくる。止めてくれ。
「それ?ニノ池が言っていた、尾根の知り合いが書いた小説」
「あっ。いや、あの!」
話が暁や葵が想像もしない方向に転がり出している。しかも規模が大きい。
「え~と、これは、その、知り合い、そう……知り合いなんですけど、知り合いというにも縁がないという人と、偶々偶然ちょっとした成り行きで」
なんとかしらばっくれる事は可能かとしどろもどろになりながら言葉を紡ぐも、数秒で暁は理解した。自分は、感情を隠すのだけではない、言い訳や嘘や誤魔化しも下手だ。要領が悪すぎる。
制服のブラウスがじっとりと汗で濡れていくような不快感と緊張が混じりあった儘、副部長の爽やかな笑顔にひきつり笑いで対抗する事数秒。暁はあっさり白旗を上げた。どのみちニノ池にはばれてるのだ。
「……はい。私のクラスメイトが書いた小説です」
「へえ……そんなやつがいるんだ。尾根のクラスに。文芸部かなんか?」
「いえ。帰宅部です」
多分。葵のクラブ活動事情など暁の知った事ではないが、なんとなく確信していた。アイツ絶対帰宅部だ。
ともあれここまで会話が進んでしまえば、もう次に言われる事も大体予想が付いている。にこりと人好きする笑顔を浮かべて柚葉は言った。
「それ、俺も読んでみたいんだけど無理かな。ニノ池がここまで押してくるなら、興味ある。尾根の方から書いた人に聞いてみてくれないか?」
「あの、でも。別にそんな仲良いって訳じゃなくって、本当に。偶々学校の帰りにばったり会って、話の流れでこうなっただけで」
このファイルを貸してくれた時の葵の無邪気とすら言えそうな表情を思い出す。
誤解ではあるが、自分の書いたものを……誰にも見せた事のない物を何故貸してくれた理由は、暁にはいまいちピンとこない。だけど、軽い気持ちでホイホイ貸してはいけない。そんか気がする。
暁が渋っていると、柚葉も難しいの?と残念そうな顔をするので申し訳ない気分になって苦しい。
「絶対駄目?」
「絶対、と、いうか……」
「ニノ池が、絶対自分が書くより面白い話作れる人だって言うから……俺も凄く興味あるんだけどなあ……」
そんなこちらの良心をぐさぐさと刺して抉るような事、言わないで欲しい。じゃあどうぞと言えない自分が辛い。
「ん。尾根、それ書いたの尾根のクラスの人って言ってたよな」
「あ、はい……」
「何て子?」
まさか、自分が直接交渉するとでも言うのだろうか。
それはそれで自分の不用心さが原因だとしても、葵の趣味を他人のさらしものにしたみたいで、何だか気分が良くない。
他人から手回しをされて、軽々と人の趣味を話してまわるような女だと思われる位なら直接、面と向かって話した方が幾らか気が楽に思う。
「あの、先輩。じゃあこれ返す時にちょっと話してみます。あっちの携帯番号もアドレスも知らないので……小説貸しても大丈夫?って聞いたら良いですか?」
「ダイレクトにうちの脚本書いてじゃ駄目なの?」
「いやそれは図々しいだろ」
横から口を挟んできたニノ池に柚葉が注意するのを聞き流しながら暁は胸中で項垂れた。何故、こんなことになってしまったんだ。
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