劇中劇とエンドロール

nishina

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可愛そうなお姫様の話

二話

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 暁の想像と葵の書いた小説は大いなる差異が存在した。正確には『可愛そうなお姫様の話』というタイトルから暁がイメージした内容と、葵の書いた可愛そうなお姫様は全く別物だったのだ。

 確かに彼の書いた物語の主人公であるお姫様は最後、彼女にとって最大の悲劇に見舞われる。それに登場人物の複数人が死亡する。
 だが、この物語はタイトルの直球さを裏切っている。確かに姫君は最後不幸になるというのに、だ。
 最後まで一気に読み終えたのは良いものの、なんとも言えない読後感であった為、暁はペットボトルの水を一気飲みして一息ついた。
 感想と言えば胸糞悪い、の一言だった。可愛そうなお姫様と彼女の恋人、翻弄される周囲の人物と不吉な予言を高らかに宣言して消え去る魔女。何もかもが、この為にあったんじゃないかとすら思える。それは読者に与える言いようのない不快感でしかなかった。
 暁の不幸は、最初の読者であるが故に、この居心地の悪さを共感する相手がいない事だ。
「副部長……見てくれ」
 唸りつつスマートフォンを操作する。ぼちぽちと、葵から作品を受け取った事と、一刻も早く読んでこれを劇のシナリオとして採用するかの判断を求めたい旨を記す。何よりこの胸の内の不快感を共有して欲しかった。残念ながら梓はシナリオで見たいと逃げられてしまった。本音は文章を読むのが、それを一気読みした暁が疲弊した話なんか読みたくないといったところだろう。

 暁の送信した文章はお世辞にも素晴らしい物語だったとは伝えきれなかった。というか、お世辞を言う余裕など尽きていた。しかし柚葉の返信は至って前向きでポジティブであった。早く読みたい、また会いに行くから俺の分も尾根からお礼言っておいてくれないか。なんと律儀な人だと思う。
(あれ、でも、待てよ)
 放課後の事だ。
 内容を読む気のない梓が暢気に加百くんの書いた小説、ホントに演劇部でやるのかなあと話すので、副部長の判断次第じゃないかなあと話しながら歩いていると、梓が何とはなしに呟いたのだ。
「副部長だけで良いのかな?」
「へ?何が……?」
「だって、主人公は部長なんでしょ?部長が嫌がったらどうするの?」
 梓は本当に悪意も何もなく、暁が話した粗筋を聞いて出てきた感想を口にしたのみである。途中入部の梓から見て、何時もいない部長という印象しかない彼女の存在は、随分歪んだ人物像として捉えられているようだった。
「部長は嫌な役だからってやりたくないとか我儘言わないよ」
 花色 光はそういった自分本意な人間ではない。とはいえ、そもそも部活に出てこないのだから梓が誤解するのも仕方がないと言えるが、光の舞台上の姿を何度も見つめ続けていた暁には不可解な疑問だった。
 少しばかり強く言い返してしまい、面食らった様子の梓の反応もそこそこに暁は自分で言った事に驚いた。
「そう、か。部長がお姫様役やるんだ……」
 葵は光の写真を以前柚葉に見せられたのだから、当然この主人公を演じるのが彼女になるという事も理解していた筈だ。主人公役の顔をわかっていながら、この『可愛そうなお姫様』をメインに据えた話を演劇部に提供する事に意味はあるのか。
 
 それとも、偶々この話を思い付いたタイミングでシナリオ提供を依頼されただけなのか。
「そっかあ、梓の言うのもわかるかも。部長に、この主人公のイメージはないよね」
「そ、そうなの!普段部長こんな感じじゃないから……そりゃ、お芝居だけど」
 自分とは別人を演じるのが芝居といえど、暁も自分がこのお姫様役をやれと言われたら普段より頑張って、かなりの練習を積んでも難しいと思った。
 
 ここ何週間かで葵とは普通のクラスメイト並に打ち解けたんじゃないかと思ったりもしたが、やはり奴は得体が知れない。そんな気がした。



 花色 光は役者である。同じ演劇部の人間なら多かれ少なかれ、同じように思っている筈だ。
 天才役者と呼んでも良いのかもしれないが、花色 光に関してはそのような言葉は余計で、過剰な装飾になってしまい、彼女の根本的な存在感を示すには却って邪魔である。暁はそう考えてしまう。

 花色 光は生まれついての役者で、きっと役者以外では生きていけないのだ。
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